ホーンラビットの照り焼き。
「いいじゃない。それにね……ケルネリウス。
貴方だって人のことは言えないはずよ?
白かった団服が真っ黒になっているじゃない。一体何したらそうなるのよ。」
黒くなった服を指差して問い詰めると、
ケルネリウスは気まずそうに目線を逸らし、手に持っていたカゴを調理台へ置いた。
「あー……これはだなぁ……まぁ、いいじゃないか!
うまいものが食べられるんだし……」
カゴの中には、トマトやレタス、ほうれん草など採れたての野菜が山盛り。
どうやら畑仕事をして汚れたらしい。
「へぇ~……そうね。
まぁ、美味しいものが食べられるなら仕方ないわよねぇ……」
(私のことばかり言うけど、人のこと言えないじゃない!)
アンネリーゼの目線が突き刺さるのを感じて、
ケルネリウスは慌てて新人神官に声をかけた。
「おい、新人! その野菜を洗ってこい!」
アンネリーゼの周囲には、なぜか変わった人物が多い。
その筆頭が――彼女の護衛騎士兼相棒、ケルネリウス・アスデウス。
アスデウス侯爵家の三男。
研究と土いじりが大好きで、暇さえあれば畑か森へ行く。
今は瘴気で汚れた土を浄化する研究に夢中で、
二週間ほど部屋から出てこないこともしばしばだ。
家族が痺れを切らして騎士団に放り込み、
そこでも一兵卒のまま数年居座るという変人。
「昇進? いや、俺にそんな力はありません。」
――そう言っては、自室に引きこもる困った男だった。
そんな彼が、最終的に神殿に逃げ込んだのは、
「知らない女と結婚させられるくらいなら、神殿入りした方がマシだ」
という名言を残してのことだった。
しかし実力は確かで、真面目にやれば大神官も狙える器。
だが彼いわく――
「仕事が増えると自由時間が減るから嫌だ。」
……どうしてアンネリーゼの周りには、こういうタイプばかり集まるのか。
「ふん。研究のおかげでこんなうまそうな野菜が手に入ったんだ。
それに、最近はお前が欲しがってた調味料も増えてるだろ?
俺の研究が役立ってる証拠じゃないか!」
ケルネリウスは胸を張る。
アンネリーゼは何も言い返せず、ため息交じりに頷いた。
「ええ、まぁ……そうね。」
(ほうれん草のサラダもいいけど……今日は胡麻和えにしようかしら。捨てがたいわ……)
「それより、照り焼きのタレを作るんだろ?
俺が“黄金比”でうまーい調味料を混ぜてやるから、焦がすなよ?」
新人たちは二人のやり取りにあたふた。
だが、古参の神官や聖女たちは動じない。
なぜなら――この光景は日常だからだ。
そして、二人の作る料理はいつだって絶品。
フライパンから、じゅうぅぅ……と香ばしい音が響く。
油が弾け、肉の焼ける匂いが調理場いっぱいに広がった。
(ん~~……この匂い……最高だわ!!)
アンネリーゼは鼻をひくつかせてうっとりする。
やがて、ケルネリウス特製の照り焼きダレが投入された。
ジュワァッ――!
お醤油の香ばしい匂いと甘辛い香りが混ざり、
たちまち場の空気を支配する。
「「「(これは……絶対おいしいやつだ!!)」」」
新人たちのお腹がぐぅ~ぐぅ~と大合唱。
まさに調理場は“食欲の楽園”と化していた。
「ふぅ~、いい感じね! あとは盛り付けて……完成よ!!」
アンネリーゼは皿に照り焼きを乗せ、
レタスとトマトを彩りに添えた。
副菜のほうれん草の胡麻和え、小麦パン、そしてスープ。
(まだ海産物が手に入らないのよね……お米も欲しいけど、今はこれが限界。)
「さっ、冷めないうちに食べましょ~! みんな、食堂に持っていって~!」
さっきまで包丁をドンドン叩いていた人と同一人物とは思えない穏やかな声。
新人たちは慌てて料理を運び始めた。
皿を運ぶたび、誰もが喉をごくりと鳴らす。
「やっぱり、美味しいって正義よね~。」
アンネリーゼは微笑んで、両手を合わせた。
「昼の女神エメラール様。今日という日が無事に終えられたことに感謝いたします。
夜を守護する女神ノクスーレ様。皆が新しい朝を迎えられますように。
豊穣の女神ケレスティナ様に感謝を。」
祈りが終わると同時に――
バンッ!!!
勢いよく扉が開いた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
お待たせしました、ホーンラビットの照り焼き完成です(*ˊᵕˋ*)
次回はついに“事件”が起こります――!
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