稲熊オリザールスとの出会い。
アンネリーゼが混乱していると、熊がこちらに向かってゆっくりと歩いてきた。
どうやら、誰かがいることに気づいたらしい。
(あれ……頭だけじゃなくて、背中にも稲が生えてるじゃない……。えっと……本当、どういうこと?)
熊という生き物を見るのが初めてのケルネリウスは、これが普通だと思っているようで、特に驚いた様子もない。
だが、アンネリーゼは違った。
だって――熊と稲が合体しているのだ。
一体どうしたらそんなことになるのか。思考が追いつかず、混乱してしまうのも無理はない。
熊を見て怖気づいているとでも思っているのか、ケルネリウスは剣を構えながら声を上げた。
「おい、どうした!? あいつに攻撃されたらひとたまりもないぞ! せめて避ける準備はしておけ!!」
現実感のない光景に、アンネリーゼは言葉を失ったまま立ち尽くす。
そうしているうちに、熊は――すぐ目の前まで来ていた。
(魔物がいる時点でファンタジーなんだから……稲と熊が合体してるくらい、まぁ……ある、のかも)
なんとか自分を納得させると、アンネリーゼは左右の手に包丁を構えた。
彼女にとっての臨戦態勢だ。
「ごめんなさい! あまりの出来事に少しびっくりしてしまったの。もう大丈夫!!」
ケルネリウスに声をかけると、彼も構えを整え、二人で熊を睨む。
その瞬間――
“ヴォー!!”
低く響く声とともに、熊が両手を高く掲げた。
アンネリーゼは身を低くし、いつでも動けるように姿勢を取る。
……だが次の瞬間。
熊はそのまま地面にぺたりと膝をつき、まるで土下座でもするかのように頭を下げた。
頭と背中の稲がワサッと彼女の方に傾き、黄金色の穂が光を受けて揺れる。
川面を渡る風が穂をなで、きらめく粒が一瞬、星のように舞った。
「え……? 土下座?」
想定外すぎる行動に、アンネリーゼは思わず笑ってしまう。
「ぷっ……ふふっ……!」
どうやらこの熊、戦うつもりはないらしい。
「あなた……もしかして、戦いたくないの?」
そう尋ねると、熊はこくんと頭を上下に振った。
頭の稲が一緒に揺れるたびに、なんともシュールで、可笑しくて仕方がない。
ついには熊が恥ずかしそうに鼻を鳴らし、前足で頭をかく仕草をした。
(言葉……通じてる?)
さらに熊は、器用に前足を使って地面に文字を書き始めた。
『信じてもらえないかもしれないが、僕は……別の世界の人間だった気がする。
いや、この世界の人間だったのかもしれない……。覚えていないんだ。』
――日本語だった。
「えっ……日本語!? なんで……?」
この世界で出会った誰もが話すのは、ルシフェール共通語。
それなのに、この熊だけは違った。
彼女が考え込んでいると、あることを思い出す。
「ケルネリウス! 地図を出して。お兄様が『何かあった時に見るように』って言ってたあの地図よ!」
驚いていたケルネリウスも、彼女の真剣な声に反応し、すぐ地図を取り出す。
広げられた古地図を見て、アンネリーゼは小さく呟いた。
「やっぱり……ね」
ケルネリウスと熊は顔を見合わせて首を傾げる。
その姿が妙にシンクロしていて、思わず笑ってしまいそうになったが、今は説明が先だ。
「これはまだ私の仮説だけど――この熊さん、元は“人間”だったのかもしれないの。」
「人間?」
ケルネリウスが驚いたように眉をひそめる。
「えぇ。ここはかつて“セラフィエル帝国ウリエール領”。
私と同じように、前世の記憶を持つ血筋の人が生まれる土地だったの。
きっと……あなたもその血縁なのね」
熊――いや、元人間の彼は、静かにアンネリーゼの話を聞いていた。
荒地となったこの地で、ただ一体だけ生き延びた理由。それは“熊になった”からこそなのだろう。
アンネリーゼは胸の奥がきゅっと締めつけられるような痛みを感じた。
人であることを失い、それでもなお稲を育てて生きていた――その姿が、どこか悲しくも美しかった。
『そうか……僕は人間だったのか。
お願いだ、僕を殺さないでくれ。その代わり、この稲をあげるよ』
頭を揺らすたびに、黄金の籾がポロポロと落ちていく。
どうやら本気らしい。
ケルネリウスは剣を下ろし、アンネリーゼも包丁をしまった。
緊張が解けると、彼女の瞳がぱぁっと輝く。
「ねぇ、リース。言葉が通じる魔物って、他にもいるのかしら?
話せる子とかいたら、きっと楽しいわよね!」
唐突な振りに、ケルネリウスは少し驚いた顔をしたが、すぐに目を輝かせた。
元々、研究好きな性格なのだ。
「あぁ……確かに面白い。ぜひ研究させてもらいたい! そのためには――」
彼は顎に手を当て、何かを思いついたように指を鳴らす。
「そうだ! 君が“稲の畑”を作るのはどうだい?」
「いいわね! あなたを“田んぼ隊長”に任命するわ!」
アンネリーゼが満面の笑みで言うと、熊は感極まったように鼻を鳴らした。
『ありがとう。立派な田んぼを作ってみせるよ!』
「名前がないと不便ね。“オリザールス”っていうのはどう? “稲熊”でもいいけど!」
「いや、どう見たってオリザールス一択だろう」
ケルネリウスのツッコミに、熊――いや、オリザールスは嬉しそうに頷いた。
こうして、セラフィエル初の“稲作プロジェクト”は、
稲熊オリザールスの手によって幕を開けたのだった。
「つ、ついに、掲載開始して1週間ね!!たくさんの人が私たちに会いに来てくれてるみたいよ?だからお礼を伝えましょう?」
「あ、あぁ…」
「いつも読んでいただきありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます?…ってなんの話しだ?」
「いいのいいの。細かいことは気にしないで!さぁ、お米作り頑張るわよぉぉぉ!!」
✿いつもお読みいただきありがとうございます( .ˬ.)"
掲載開始して早くも1週間が経ちました。
もし少しでも「アンネリーゼ可愛いな」と思っていただけたら、ブックマークで応援してもらえると嬉しいです✨
次回はいよいよ田んぼ作り!?
果たして上手くいくのか…
明日8:10更新予定です。
これからもアンネリーゼたちの“おいしい日常”を見守っていただけたら嬉しいです✨
それでは、次回もお楽しみに!




