お米が食べたい!!
「住の部分に関しては、だいぶ整ってきたわね。」
アンネリーゼたちがプロセルピナ神殿に来てから、早くも三ヶ月。
あのボロボロだった神殿も、いまではすっかり“暮らせる場所”になっていた。
上下水道は通り、壁の補修も終わり、各部屋には簡単な家具まで置かれている。
来たばかりの頃は、かろうじて屋根がある部屋に全員すし詰めで寝ていたのだから、よくここまで立て直せたものだ。
「畑の野菜も、そろそろ食べ頃ね。」
神殿の裏には、小麦と枝豆、それにいくつかの野菜。
エリザベッタに手伝ってもらって植えたそれらも、もうすぐ収穫できそうだった。
小麦が取れればパンやパスタ、枝豆が育てば味噌や醤油も作れる。
おかげで食卓は、すっかり“日本の香り”が戻ってきた。
(こういうときは本当に助かるわね、業務用冷蔵庫って……)
最初は「時間を早めたり止めたりして、どうするの?」と思っていたけど――
発酵食品を作るのに使えると気づいてからは、もう手放せない。
チーズ、味噌、醤油。発酵に一年かかるものも、一時間で完成。
それに気づいてからは、神殿の中がずっといい匂いで満たされている。
それでも、ひとつだけ満たされないものがあった。
「う~……お米が食べたいわねぇ。」
この世界に来て十四年。まだ一度もお米を見たことがない。
パンも悪くないけど……やっぱり、あの白い粒が恋しい。
「セラフィエルに稲があったりしないかしら。」
そんな独り言をぽつりと漏らした、そのとき――
「ん? 稲とはなんだ?」
「ん~……麦に少し似てるんだけど……」
「――って、なんでいるのよ!? びっくりしたじゃない!!」
まさかのケルネリウス登場。
完全に一人でしゃべっていたと思っていたのに、いつの間にか後ろに立っていた。
「いや、何度かノックしたんだが反応がなくてな。心配になって入った。」
ふっと笑って髪をかき上げるケルネリウス。
(ほんと、どんな仕草もサマになるわね……慣れちゃうとトキメキも薄れるけど…)
「そう……全然気づかなかったわ。」
「で? 稲とは食べ物なんだろう?」
「さすがリース、正解よ。そう、食べ物! 小麦みたいな穀物だけど、粉にしないで粒のまま食べるの。生だと固いけど――炊くとね、ふっくらして甘くて……」
(あぁぁぁ……炊きたての白いご飯……おにぎり……卵かけご飯……)
気づけば頬がゆるみ、自然と笑いがこぼれていた。
「……はぁ。で、調理するとなんだ?」
「ふ、ふふ……ごめん。そう! とにかく美味しいの! 最高なのよ!!」
ケルネリウスは軽くため息をつきながらも、口元に笑みを浮かべた。
どうせまた“食材探索”に出かける流れになるのだろうなと分かっている。
それに、アンネリーゼが“食材探索”に行ってくれれば、ケルネリウスも魔物や土壌研究などに没頭できる。
言わばお互いにとって都合がいい。
「じゃあ今日も、その稲とやらを探しに行くか。」
「えぇ! ついでにこの辺の植物も見ておきたいの!」
こうして二人は神殿を出発した。
荒地といっても、更地ではない。場所によっては草木が生い茂り、他では何も生えていない地帯もある。
少しずつ土地の性質も分かってきて、歩くペースも自然と軽くなる。
「明日からは馬で遠出もありね。」
「あぁ、そろそろ慣れてきたしな。」
それから一時間ほど歩いた頃――
「ヴォォォオオオ!!」
地の底を震わせるような咆哮が響いた。
鳥が一斉に飛び立ち、空気が張りつめる。
「リース、今の聞こえた?」
「あぁ。……近いな。」
声のする方へ進むと、川のせせらぎが聞こえた。
そして、水面には黄金色にきらめく粒が流れている。
「えっ……これ、まさか……!」
川に手を伸ばして掬い上げる。
掌の上で、金色の粒が太陽を反射してきらめいた。
(――この感触、この色……間違いない。これは、籾だ!)
「うわぁっ!!まさかお米ちゅあんに会えるなんて!!」
興奮して跳ねるように振り返る。
「見て、リース! これが、お米になるのよ!」
籾が流れてくる方へ夢中で進んでいくと、川の中に――二メートルはあろうかという熊が立っていた。
しかも、その頭から稲が生えている。
「……えっ!? 稲って熊に生えるの!?」
熊はゆっくりとこちらを振り向き、赤い目で見据えた。
背中にも稲。完全に“稲と熊の合体体”。
(えっ!? 稲が熊? 熊が稲? どういうこと!?)
ケルネリウスが臨戦態勢を取る横で、私はただその光景に見入っていた。
恐怖よりも先に、湧き上がってきたのは――
好奇心だった。
「ちょ…ちょっと…リース!!」
「な、なんだ…」
「やっぱりこの地はお宝の山ね!!益々これからが楽しみだわ!!」
✿ここまで読んでくださってありがとうございます!
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次回は熊さん回。果たして敵か…味方か…。
21:10更新予定です。
それでは、次回もお楽しみに!




