激闘クラーブン叩き!?美味しいお鍋でいただきます!!
「なんか、この辺……大きな穴が多くない?」
神殿を出てから、もう一時間ほどが経っていた。
陽の光が差さない荒地では時間の感覚が狂いやすく、
ただ歩いているだけでも空気が重たく感じる。
「確かに……大きな穴ばかりだな。この中に落ちたら、戻ってくるのは難しいだろう。」
ケルネリウスが慎重に覗き込む。
底は見えず、どこからか風が吹き上がり、
ウォー……と低い唸りのような音を立てた。
そして次の瞬間――
“ジョキン、ジョキンッ!”
土の中から、巨大なハサミが飛び出した。
「あぶなぁっ!! 大丈夫!?」
ケルネリウスの首がハサミで切られそうになった瞬間、
アンネリーゼはその頭を掴んで思い切り引き寄せ、
そのまま後方の高台へと飛び退いた。
「(ア、アンナに……殺されるかと思った……)」
地面に叩きつけられ、ケルネリウスが荒い息を吐く。
だが当の本人は、目の前に出てきた“はさみの主”に興味津々だ。
「ふふ……今の、蟹よね? 食べられるのかしら……!」
(蟹よね!? きゃあああ、蟹が食べられるなんて最高じゃない!)
ケルネリウスは一瞬、別の意味で背筋が寒くなった。
(魔物に殺されるより、アンネリーゼに殺される未来のほうが現実味があるな……)
目の前の穴から、蟹のような形の魔物が姿を現す。
「ふふふ、あれ名前あるのかしら?」
「初めて見るな……多分、ないだろう。」
「じゃあ、私がつけちゃおうかな! ――そうね、『クラーブン』にしましょう。」
命名と同時に、アンネリーゼは背中の調理器具から大きなフライパンを取り出し、
そのままクラーブンめがけて振り下ろした。
ドンッ!
土煙が舞う。だがクラーブンは俊敏に土へ潜り、別の穴から出てきて攻撃を仕掛けてきた。
アンネリーゼは風圧を利用して飛び上がり、軽々とかわす。
「いいわね……腕が鳴るわ! こう見えて私、モグラ叩きゲーム得意なの!」
「でも今回は蟹叩きね! クラーブン叩きゲーム、スタート!!」
ヴォン、ヴォンッ――
フライパンが空気を裂く音が荒地に響く。
床を軽く三度蹴ると、アンネリーゼの体がふわりと浮かび、
空中で一回転して高く舞い上がった。
着地の瞬間にはもう、笑っている。
「さぁ、遊びましょ? 私たちのクラーブン叩きゲームを!」
***
クラーブン叩きを始めて、そろそろ一時間が経過していた。
アンネリーゼは涼しい顔で走り続けているが、ケルネリウスはすでに息が上がっている。
「なんだか……一匹にしては動きが早いわね。そろそろ疲れてもいい頃だと思うけど。」
彼女は周囲の穴を見回し、ふと眉をひそめた。
縦横五十メートルほどの範囲に、二十以上の穴。
そのすべてを蟹が駆け回っているように見えたが――
(……待って。蟹って、普通は横歩きよね?)
その瞬間、どこからか「ググー、カチカチ」という音が響いた。
「ねぇ、リース? 今の音、聞こえた?」
"ググー"――"カチカチ"。
音の直後、別の穴からハサミが飛び出す。
「あぁ、聞こえた。……なるほどな。俺たち、勘違いしていたようだ。」
実際は、ひとつの大きな通路を移動していたわけではない。
穴ひとつひとつが、それぞれ別のクラーブンの巣だったのだ。
つまり――二十匹以上。
「ググーで合図して、カチカチで“獲物の位置”を知らせてたのね。」
アンネリーゼの腹が「ぐぅ~」と鳴る。
ケルネリウスは思わず苦笑した。
「……お前の“ググー”のほうが怖いよ。」
「んふふ、なるほどね! なら、一体ずつ叩けばいいだけじゃない!」
アンネリーゼはフライパンをしまい、代わりにトングのような形をした巨大なハサミを取り出した。
彼女の身長よりも大きい、特製の“トングバサミ”だ。
「さぁ、今度はこっちから攻めさせていただきますわ!」
“カチカチ”という音が鳴った瞬間、アンネリーゼは跳ねた。
ハサミの出てくるタイミングを読み、トングバサミでがっしりと掴む。
そして――
「そぉーれっ!!」
腰を入れて一気に引き抜くと、クラーブンが勢いよく飛び出した。
そのまま頭上からボトリと落ちる。
「うっはぁぁ! クラーブンの一本釣りよぉぉぉ!!」
背後にはすでにクラーブンの山。
ケルネリウスは額に手を当てた。
「……これ、何体持って帰る気なんだ?」
***
「皆ーっ! 今日の夜ご飯はクラーブンよぉぉぉ!!」
泥だらけのアンネリーゼと、魂が抜けた顔のケルネリウスが神殿に戻ってきた。
後ろには、青い巨大蟹――いや、クラーブンがずるずると引きずられている。
「えっ……これが、今日の……ご飯?」
エリザベッタが代表して声を上げると、アンネリーゼは子供のように満面の笑みを浮かべた。
「んふふっ、そうよ! 美味しそうでしょ?」
「「「「(……これはアンナを信じるしかないわね)」」」」
疑いの眼差しを向けつつも、誰も逆らわない。
料理に関してだけは、この人の判断が絶対なのだ。
「ふふ。今日はラファリエールを出る時にもらった野菜も残ってるし、
外でクラーブン鍋を作りましょう!」
アンネリーゼは袖を捲り、業務用冷蔵庫から野菜を取り出す。
白菜、長ネギ、しめじ、えのき、人参、しいたけ――
色とりどりの食材が次々と並べられた。
聖女たちは慣れた手つきで野菜を刻み始める。
アンネリーゼはその横で、ロックバードの骨を取り出した。
「出汁は……これね。本当は昆布とかカツオがあればいいんだけど、
まだ出会えてないのよねぇ。いつか出会えたら最高なんだけど。」
鍋を火にかけ、出汁をとる。
香ばしい香りがふわりと立ちのぼり、皆の顔がゆるむ。
クラーブンの下処理も抜かりない。
大きな包丁を構え、関節を一太刀ずつ正確に切り分けていく。
「んふふ、殻を外して……ほら、ここ。カニ味噌も忘れちゃダメ。」
魔石を取り除き、下処理が終わると、鍋の上に綺麗に並べる。
白菜を敷き、彩りよく野菜とキノコを重ね、最後にロックバードの肉とクラーブンを置く。
出汁とタレを回しかけ、蓋を閉めた。
しばらくして――
グツグツと音を立て、香りが辺りに広がる。
「んふ……んふふ……まさか蟹鍋――じゃなかった、クラーブン鍋が食べられるなんて!」
湯気が立ちこめる中、お玉を構えるアンネリーゼの姿は、まるで犬がご飯を待つようだった。
やがて鍋の蓋がカタカタと揺れ、出汁がふつふつと泡立つ。
「いい感じね! さぁ、いただきましょうか。」
蓋を開けた瞬間、青かったクラーブンが見事な朱色に染まり、
甲羅の隙間から脂が弾けた。
金色の出汁が湯気をまとい、潮の香りが風に乗って神殿を包む。
「「「「「おいしそぉぉぉ~~!!!」」」」」
歓声が響く中、アンネリーゼが鍋を覗き込む。
野菜が透き通るように煮え、表面に細かな脂の虹が浮かぶ。
器によそったスープはとろりと黄金色。
クラーブンの身は箸を入れただけでほろりと崩れ、
噛めばぷりぷりと弾む。
「……っ、甘い……!」
誰かが感嘆の声を漏らす。
野菜の甘み、骨出汁の深み、蟹味噌のコク――
それらが一つになって、舌の上でとろけていく。
アンネリーゼは目を細めて頷いた。
「ふふっ……やっぱり出汁が命よね。
これがあるから、料理はやめられないのよ。」
ケルネリウスも微笑みながら頷く。
「……確かに、これは旨いな。」
「んふふ。やっぱり運動のあとのご飯は――しあわせぇぇぇ~~~!!」
笑い声と湯気が混ざり合い、
夜の荒地は、ほんのりと温かい光に包まれた。
「リース!!今日もたくさんの方が応援してくれたみたいよ?」
「おまっ…それ前回と同じセリフじゃないか…。」
「ふふ…いいのよ!!だってそのおかげでこんなにクラークンを手に入れることが出来たんだもの。( "´༥`" )モグモグ」
「せめて感謝を伝えるつもりがあるなら、手に持ってるクラークンは離してからにしろォォォ!!」
✿今回も読んでいただきありがとうございます♪
次回からは四章へ。
アンナ達はこれからどうしていくのか…
そしてアンナが居なくなった今…
王都では何が起きているのか。
21:10更新予定です✨
それでは、次回もお楽しみに!




