毒入り紅茶のおもてなし。
「へぇ~……外は少し残念な感じでしたけど、中は思ったよりも綺麗なんですね。」
「「「「「(えっ!?ここで喧嘩売るの!?)」」」」」
中へ入れば、他の神殿と変わらない見た目をしていた。
どうやら外観だけが特別だったようだ。
思ったことをそのまま口に出したアンネリーゼに、他の聖女たちは慌てて視線を向ける。
「フォッフォッフォ。ここは神殿ですからのぉ……それなりに綺麗にしておりますじゃ。
旅の疲れもあるじゃろうし、こちらで少しお茶を飲んでお待ちくだされ。」
食堂へと案内された一行は、思い思いに空いた席へと腰を下ろす。
すると――どこに隠れていたのか、黒いドレスに身を包んだ女性たちが音もなく現れ、お茶と菓子を運んできた。
(……思っていたより若い人たちばかりじゃない。)
聞いていた話では、ここに仕えているのは妙齢の聖女たちばかりのはず。
拍子抜けしながら人数を数えると、十人以上はいるだろうか。
「「「「こちらをどうぞ。」」」」
ぴたりと揃った動きで、クッキーと紅茶を目の前に置いていく。
一糸乱れぬ所作。まるで人形のようだった。
「ありがとう。」
アンネリーゼが礼を言うと、「どういたしまして。」と機械のような声が返ってくる。
他の聖女たちも同じく礼を述べたが、返答はどれもまったく同じ言葉と抑揚だった。
やがて全員に紅茶が行き渡ると、女たちは一斉に手を前に差し出し、同じ角度で頭を傾ける。
「「「「どうぞ、召し上がれ。」」」」
扉が閉まる音がした。
それきり、空気は水の底のように静まり返る。
アンネリーゼの眉がピクリと動いた。
ふと視線を落とすと、彼女たちの足元に――影が、ない。
(……あぁ、そういうこと。)
冷たい汗が背を伝う。
人形のような動き、同じ声、そして影の消えた足元。
この違和感の正体に気づいた瞬間、アンネリーゼは顔を上げて声を張った。
「皆、紅茶とクッキーには――手を出さないで。」
その声は、怒鳴りではなく凍てつくように静かだった。
瞬間、空気が震え、全員が条件反射のようにカップを置く。
「もし口に入れた人は、すぐ吐き出して!!」
聖女たちは慌てて紅茶を吐き出した。
アンネリーゼは舌打ちをひとつ落とす。
その乾いた音がやけに響いた。
「チッ……やられたわね。神殿だからって油断した。」
「おい……リーゼ。イライラしてるのが顔に出てるぞ。
何があったか説明してくれ。」
ケルネリウスが「リーゼ」と呼ぶ時は、彼女が本気で怒っている時だ。
アンネリーゼは短く息を吐き、静かに告げた。
「あれは聖女じゃないわ。恐らく、あのおじいさんも――。」
視線を床へ落とした瞬間、ケルネリウスも悟ったように眉を寄せる。
「……アニデヴォーラか。」
アニデヴォーラ――人の魂と記憶を喰らい、その姿と声を模倣する魔物。
魔物ランクはCからAまで幅広く、もっとも忌まわしい存在の一つ。
「ええ。記憶を喰らうから、若い姿を保ってるのよ。
多分、ここにいた聖女たちは……。」
声が震えた。
けれど目はまっすぐだった。
「もう全員、喰われてる。」
説明が終わると同時に――
“パチ、パチ、パチ……”と間の抜けた拍手の音が響く。
音の方を見れば、ヨダレを垂らした執事風の老人が立っていた。
「ぢゅるり……お見事です、リーゼ様。」
さきほどケルネリウスが呼んでいた名を、楽しげに繰り返す。
笑みは歪み、声は湿っていた。
「そう。私たちはアニデヴォーラ。魂を喰らう者。
ここにいた者たちは皆、美味しくいただきました。
――ですので、次はあなた方の番です。」
その言葉を合図に、影の中から無数のアニデヴォーラが現れた。
「「「「キャー!!」」」」
悲鳴が上がる。
だが次の瞬間、鋭い音が室内を裂いた。
――シュッ!
銀の閃光が飛ぶ。
ペティナイフがアニデヴォーラの額と胸を正確に貫いた。
一瞬で二体が崩れ落ちる。
「私、ご飯を食べるのは好きだけど――
ご飯にされるのは嫌なのよ。」
舌でナイフの刃先をなぞる。
その笑みは、まるで吸血鬼。
「だからね……代わりに、死んでちょうだい?」
その瞬間、瞳孔が開き、笑顔の奥に狂気が覗く。
アニデヴォーラたちは恐怖に怯えたように後退した。
「ざっと見た感じ……百体くらいかしら。」
数をざっと数え、こめかみを指でトントンと叩く。
「ふむ……一人十体倒せばいいから――うん、いけるわね!」
「「「「(いけるわけないでしょ!!)」」」」
恒例のツッコミが心の中に響いた。
「十体か……それなら余裕だな。」
涼しい顔で返すケルネリウスに、全員が心の中で悲鳴を上げる。
だが、戦いはすぐに始まった。
――その頃、アンネリーゼは。
「んふふ……さぁ、遊びはこれからよ。私と一緒に、遊びましょう?」
ペティナイフを四本ずつ指に挟み、額を次々と貫く。
舞うように、笑うように。
「んふふ。リース、どっちがたくさん倒せるか競争しましょ?
負けた方が一週間、相手の言うことを聞くの!」
「ああ、いいな。じゃあ、今からスタートだ。」
悪魔のような笑みを浮かべながら、二人は一斉に動き出した。
アニデヴォーラの断末魔が次々と響き、食堂は地獄のような惨状に変わる。
やがて――静寂。
魔石だけが淡く光を放ち、血の匂いを掻き消していた。
「ふふふ。私は五十一体倒したわ!」
「くっそ……また負けたか。俺は四十四体だ。」
「ふふっ。この勝負、私の勝ちね!」
その笑顔は、戦いのあととは思えない。
ただの十四歳の少女のように、無邪気に笑っていた。
「……魔物より化け物だな。」
誰かがぽつりと呟く。
その言葉に、誰も反論しなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
アンネリーゼの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです✨
次回は新キャラが登場予定です♪
明日8:10更新予定です✨
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それでは、次回もお楽しみに!




