食いしん坊聖女の祝福。
王都での戦いを終えて、皆でプロセルピナ神殿に戻って数か月――。
神殿内にはきれいな装飾が施され、
ラファリエール領から、たくさんの貴族たちが集まっていた。
それもそのはず――
今日は、イアンとアレットの結婚式だからだ。
「アレット…綺麗だわ!」
「ありがとう、エルザ。それより…アンナは…?」
ウェディングドレスの準備を終えたアレットは、一番に来そうなアンナがいないことを不思議に思い、首を傾げる。
「あぁ~…なんだか朝から、私も見かけてないのよ。
きっと、二人のお祝いをしようと頑張ってるんだと思うわ。」
アンネリーゼと同じくらい長く一緒にいたエリザベッタ。
アレットにとって、彼女が嘘をついているかどうかは、すぐに判断ができた。
「…ふふ……そう。
あの子のことだから…きっと結婚式までには帰ってくるわよね。」
アレットはエリザベッタの手を軽く握ると、話を続ける。
「エルザ。
私は今日をもって、この神殿から出ることになるわ。
あなたに全部を任せるのも大変だと思うのだけど…
あの子のこと、お願いね。」
その言葉を聞いて、エリザベッタは目を見開いたあと、ふっと微笑んだ。
「アレット。
わかっているわ。
私にとってもアンナは、妹のようなものだしね。
一人で止められるかはわからないけど…」
ふっと周りを見渡せば、アレットの準備を手伝っていた聖女たちが、こちらを見ている。
「今は、たくさんの仲間がいるもの。」
その姿を見たアレットの目には、涙が浮かんだ。
「そう…そうね。
よかったわ。」
小さいころから、何かとアンネリーゼの面倒を見てきたアレット。
五歳で神童と呼ばれ、ラファリエール領を改革。
八歳で神殿に入ったこともあり、同年代の人たちとほとんど関わることのなかったアンネリーゼを、とても心配していた。
そんな彼女に、「家族」と呼べる存在ができたことは、とても大きかった。
「あぁ~泣くのは早いわよ!?
これからが本番なんだから。」
エリザベッタは、アレットにハンカチを手渡す。
そして、しばらくすると扉が開いた。
「アレット…。
お待たせ。」
「イアン…」
そこには、きれいに身支度を整えたイアンの姿があった。
イアンはツカツカとアレットに近づくと、手を前に差し出す。
「アレット…。
今日の君は、一段と美しいね。」
アレットは、イアンの手に自分の手を重ね、ゆっくりと立ち上がる。
「あら、あなたも今日は綺麗よ?
さすが、アンナの兄だけあるわね。」
二人が笑い合う姿を見て、周りにいた人たちも自然と頬が緩んだ。
「さぁ、行こうか。」
「えぇ…そうね。」
二人が、ゆっくり歩き始める。
と、同時にイアンが辺りを見渡す。
「あれ…?
アンナは…?」
「私もアンナの姿を見てないのよ。
一体どこに行ったのかしらね。」
どうやら、この場にいる誰もアンネリーゼの居場所を知らないらしい。
ティアナが、冗談半分に――
「まさか、ご馳走を~…とか言って、魔物討伐に行ってたりして~」
と言えば、皆の動きが一瞬止まった。
「「「「……流石にないでしょ~…ハハ、ハ
(いや、ありえるわ…)」」」」
そして次の瞬間――
青空だった空に、影が差した。
ひゅー。
「みんな~お待たせぇぇぇ~」
聞き覚えのある声に、思わず皆が空を見上げる。
そこには、アンネリーゼと――
そして、大きな魔物。
「あ、あれは…
幻とも言われる…ミルクレア・レジーナではないか!?」
アンネリーゼの手には、牛の魔物の中でも最高の一品と言われる牛が、しっかりと握られていた。
そして……空から降ってきたということは――
折角作った式場に、降り立とうとしているということだ。
皆は慌てながら、アンネリーゼに声をかける。
「おい!!
待て~! ちょっと待ってくれ~!!
ここには降りてくるなぁぁぁ~~!!」
「お願いだから、止まってぇぇぇ~!!」
「せめて、その魔物をしまってくれぇぇぇぇ~~~!!」
皆が手を振って必死にアピールするも、アンネリーゼは何を考えたのか……ただ手を振り返すだけだった。
そして、刻々と時間は過ぎ――
ドォォォーーーン!!!
プロセルピナ神殿の前にある広場へと、落下したのだった。
「「「きゃあああああああ!!」」」
その姿を見て、イアンとアレットはクスクスと笑う。
「ふふ…
やっぱりアンナは、変わらないわね。」
「そうだな…。
成人しても、変わらないな。」
集まった貴族たちも、アンネリーゼの姿に驚いていたが、それも一瞬。
その場は、大きな笑い声に包まれた――。
ずるずると、ミルクレア・レジーナを引きずってくるアンネリーゼ。
その後ろには、こめかみをピクピクと動かすケルネリウスが立っている。
「イアンお兄様、アレット…
いえ、アレットお義姉様。
ご結婚おめでとうございます!!」
「クスクス。ありがとう、アンナ。」
「ふふ…アンナ。ありがとう。」
「「それよりも…」」
二人は、後ろにいるケルネリウスの方を指さした。
「リーゼ!!
お前!!
こんな時に、どこに行っていたんだ!」
「あぁ…えっと…
ちょっと、狩りに行っていました…」
「ちょっと狩りに、じゃないだろうが!!
さっさと着替えてこい。」
そう言って引きずられていく姿を見て、全員が笑った。
***
ゴーン・ゴーン・ゴーン
プロセルピナ神殿に、鐘の音が響き、扉が開く。
イアンとアレットが、ゆっくりと進んでいく。
先ほどの血まみれアンネリーゼの姿はなく、白いローブをまとった“大聖女”としての彼女が、そこにいた。
日の光が差し込み、二人の前に広がる。
シャン、シャン。
鈴の音が響くと、アンネリーゼが祈りの詩を捧げた。
「女神ユーノリアよ、調和の光を
イアン・ラファリエールとアレット・アーリエルの心に宿したまえ
男神ユーピテルよ
守護の力を、ふたりの誓いに授けたまえ
この結びは永遠に続き
愛と力に守られんことを」
シャン、シャン。
鈴の音が、もう一度、アンネリーゼの言葉に応えるように鳴り響いた。
「イアンお兄様、アレットお義姉様。
お幸せに。
泣かせたら、許しませんから。」
「約束するよ。
大切にする。」
「えぇ。
二人で、幸せになってくださいね。」
アンネリーゼは深く頭を下げ、その場を後にした。
「リース」
「なんだ?」
「私たちは、私たちのペースで進んでいきましょうね?」
「……そうだな。」
「じゃ、まずは…
さっき取ってきた牛ちゃんの料理からよ~!
二人のためにも、おいしいケーキを作りたいの!
手伝ってね!」
くるりと振り返ったアンネリーゼの姿を見て、
ケルネリウスは、小さく息を吐く。
「ハイハイ…わかったよ。」
こうして、アンネリーゼの物語は――
大切な人たちとともに、静かに続いていくのだった。
~完~
こんにちは。
ゆずこしょうです。
最後まで
『食いしん坊聖女』をお読みいただき、ありがとうございました(*.ˬ.)
無事に物語を完結させることができて、
ほっとした気持ちと、少しの寂しさを感じています。
ここまで長いお話を追いかけてくださった皆さま、
ブックマークや評価、感想で応援してくださった皆さまには、
感謝の気持ちでいっぱいです。
この物語が、
少しでも楽しい時間や、ほっとできるひとときを
お届けできていたら嬉しいです。
またどこかで、皆さまにお会いできることを楽しみにしています。
本当にありがとうございました。




