星降る夜、家族の声。
「ふぅ~お腹いっぱい。」
シルトクレーテの頭の上――
先ほどまで星一つなかった世界に、瘴気が薄くなったことで、キラキラと夜空に星が輝いていた。
「……やっぱり、ここにいたか。」
アンネリーゼが寝そべって星を眺めていると、後ろから聞き覚えのある声がする。
「……リースも来たのね。」
アンネリーゼの隣に、ケルネリウスが同じように寝そべった。
二人の間に静寂が訪れる。
先ほどまでの戦いが嘘だったかのように、心地良いそよ風が二人の間を吹き抜けていく。
「…王都を追い出されて2年か~!
早かったわねぇ。」
「……そうだな。」
「色々なことがあったと思わない?」
目を閉じ、アンネリーゼはこの二年の出来事を思い返す。
突然の婚約者(仮)からの婚約破棄宣言に始まり、王都追放、セラフィエルの地での旅――
「あぁ~…でも楽しかったな。」
「まさか、こんな形で王都に帰ってくるとは思っていなかったけどね~。」
王都を追放されたとき、きっとこの地に戻ってくることはないだろうと思っていたアンネリーゼ。
まさか、たった二年で王都がこんな状態になるとは思っていなかった。
「そうだな…俺も思っていなかったさ。」
「そうよね~。
それで、最後、お兄さんと会えたんでしょ?
どうだった?」
アンネリーゼが、今日のマンネリウスとの戦いについて聞くと、ケルネリウスは少し目を細めて笑った。
「……最期は、良い笑顔だったよ。」
多くを語ろうとしないケルネリウスに、アンネリーゼもそれ以上は聞こうとしない。
「……そう。
でも、いい笑顔だったならよかったじゃない。
お兄さんも、最期にあなたに会えて、きっとよかったと思うわ!」
「……そうだな……」
ケルネリウスが月を見ると、アンネリーゼも同じように月を見上げた。
再び静寂が落ちる。
(こういう時間も、良いものね。)
遠くから、風に乗って聖女たちや避難民たちの声が聞こえてきた。
最初は顔を真っ青にしていた避難民たちも、魔物料理を一口食べてからは、笑顔に戻っていた。
食は人を明るくさせる。
お腹がすけば頭が回らなくなるし、本心じゃない嫌なことを言ってしまうことだってある。
争いが起こることもある。
しかし、皆が同じようにお鍋を囲めば、さっきまでいがみ合っていた人たちも――
自然と笑顔になるのだ。
皆が楽しそうにお鍋を囲んでいる姿を想像し、アンネリーゼも不思議と笑顔になっていた。
「アンナ。
今回は、お前が無事でよかったよ。」
「それは、こっちのセリフよ!
エルネストとの戦い…大変だったって、イアンお兄さまから聞いたわ。」
アンネリーゼはシルトクレーテに戻ってすぐ、イアンからエルネストの最期を聞いていた。
そして、それが相当な死闘だったということも――。
「まぁ、逃げられたがな……。」
「ヴァ、ヴァ…ヴァーリック…だっけ?」
「…ヴァルドリクな。」
「そうそう!
ヴァルドリクね。」
ヴァルドリク・ルシフェール。
ルシフェール国初代国王であり、セラフィエル帝国を滅亡させた元凶。
「レリアがやたらと“あの方”って言っていたの。
もしかしたら、レリアにとっての“あの方”は、バルドークだったのかもしれないわね。」
「ヴァルドリクな。」
「名前…覚えるの苦手なのよね。
セラフィエルの地に消えていったって言ってたけど…
もしかしたら、どこかで会うかもしれないわね。」
そう言って、プロセルピナ神殿の方を見る。
「そうだな。
って、お前……まだ旅を続ける気なのか!?」
ルシフェール国は今回の件で王族がいなくなった。
実質、亡国となったといってもいいだろう。
これからこの国を統一するためにどうするのか……
そんな話し合いが行われるはずなのに、さすがはアンネリーゼ。
ここでも、いつもと変わらないようだ。
「もちろんよ!?
だって、私には魔物ちゃんが待っているもの!」
その言葉に、迷いはない。
「それに、この国は大丈夫。
イアンお兄様に任せておけばね。」
イアンには、元セラフィエル帝国の皇帝としての前世がある。
全てを聞いたわけではないが、家族として確かな信頼があった。
ケルネリウスも同じことを思ったのか、フッと口角を上げる。
「確かに…
イアンに任せておけば、何とかなるか。」
一瞬の沈黙。
「アンナ…。」
「ん~なぁに!?」
ケルネリウスが名前を呼ぶと、アンナは軽く返事をする。
「…俺……」
ケルネリウスが言葉を続けようとすれば――
ドタドタドタ…
と、大きな音が聞こえた。
「「「「わぁぁぁ~~~」」」」
「いったぁぁ~~~」
「ちょっとぉぉぉ~~
いいところだったのにぃぃぃ~~」
「誰だよ、押したやつ!」
二人は慌てたように後ろを見る。
そこには、今まで一緒に旅をしてきたメメント・ムーンとメメント・ソレイユの面々と、イアン、アレット、オレールが転がっていた。
その姿を見て、ケルネリウスは大きくため息を吐き、アンネリーゼは驚いて目を見開く。
「はぁ~…お前らなぁぁ…」
ケルネリウスが額に手を当てて呆れていると、アンネリーゼがクスリと笑った。
「ふふ…
ふふふ…
ふはははははは!!」
それにつられるようにして、皆が笑う。
「ふふ…ふはははははは!!」
「あはははははは!!」
沢山の笑い声が、シルトクレーテの上に響き渡った。
「アンナ。
お前が旅をするなら、俺もついていく。
そ、その…しんぱ……いや、何しでかすかわからないからな。」
「ふふ。
勿論、一緒に決まってるじゃない!
だって、あなたは相棒で、家族なんだから!」
その言葉を聞いて、ケルネリウスは顔を赤くした。
「お、おま…
かぞくって…。」
アンネリーゼは一瞬、首を傾げながらきょとんとした顔をすると、笑顔でここに集まった皆を見る。
「当たり前でしょ?
私にとっては、ここにいる皆が家族なんだから!!」
その言葉には、嘘も偽りもなかった。
それを聞いていた男たちは、ケルネリウスの肩を叩き、聖女たちはアンネリーゼに抱き着いた。
「杏菜らしいのぉ…」
「そうだな…あ奴らしい。」
「そうだね…
でも、そこがいいところだからさ。」
遠くでやり取りを見ていたシルトクレーテとラケル、オリザールスは、クスクスと笑った。
その夜、シルトクレーテの上に響いた笑い声は、星空へ吸い込まれるように、いつまでも優しく続いていた。
いつもアンネリーゼを応援いただきありがとうございます(*.ˬ.)"
少しばかりケルネリウスとアンネリーゼにも心境の変化があったようです(笑)
次回は最終回。
最後の最後までアンネリーゼは変わらず……だと思いますがお付き合いいただけると嬉しいです♡
明日8:10更新予定です♪
どうぞ、お楽しみに✨




