戦いの後のラムシチュー。
「ただいまぁ~!!」
「ひぃっ!!」
アンネリーゼが魔物の討伐を終えてシルトクレーテの上に戻ると、避難していた人たちが彼女の姿を見て顔を青くした。
しかし、聖女たちは――
「「「アンナ、おかえりぃぃぃ~~!」」」
「先にお風呂入らないと、アレットに怒られるわよ~!」
「いつも通り今日も真っ赤ね~。」
アンネリーゼが全身真っ赤でも、特に気にすることなく話しかけている。
「ふふふ…今日も大漁よ~!!」
先ほどまで戦っていたとは思えないほど明るい声。
どさりと目の前に出された三体の魔物を見て、聖女たちは「おぉぉぉぉ~~~~」と声を上げた。
「おいしそぉ~!!」
「お腹すいていたのよね。今日はどんな料理になるのかしら。」
「私は動いたし、がっつり系がいいなぁ~。」
聖女たちの会話を聞いて、避難してきた人々はさらに顔を青くする…。
「おい…魔物を食べるって…」
「私にも聞こえたわ…。ほ、本当にここにいて大丈夫なのかしら…。」
「もしかして…ここって魔王城……とかじゃないよな…」
こそこそと囁く声が聞こえたのか、聖女たちはギロリと避難民たちを睨んだ。
「ひ、ひぃぃぃ~…」
そんな時、アレットが鬼の形相でアンネリーゼに近づいてきた。
「アァン~ナァァァァ~~」
「ひゃ、ひゃい!!」
壊れた人形の如くギギギと後ろを振り向けば、今にも怒り出しそうなアレットが立っている。
「あ・な・た・ねぇぇぇ~!!
何回言えばわかるのよ!
それに今日は、いつものメンバーだけじゃないのよ?
周りを見てみなさい。あなたのお陰で、避難してきた方々が怖がっているじゃない!!」
周りを見てみると、顔を青くさせている若い人や、
泡を吹いて今にも倒れそうな老人たち。
そして、目をキラキラとさせながら見ている子供たちがいた。
「す、すみません…」
シュンッとうなだれながら話すアンネリーゼに、アレットもため息を吐く。
「本当に、時と場所を考えなさい!
ほら、魔物たちはこちらで何とかしておくから、あなたは早く風呂に入って着替えてくること。
わかったわね!?」
「……はい…。」
それだけ言うと、とぼとぼとシルトクレーテの屋敷の中へ入っていく。
その様子を見ていた避難民たちは、思わずアレットに拍手をした。
「おぉぉぉ~~~」
が、しかし――
アレットの次の行動に、またもや避難民たちは顔を青くするのだった。
パンッパンッ!!
「さぁ~!
アンナが帰ってくるまでに、いつものことやっちゃうよ~!」
「「「は~い!!」」」
アレットが手を叩けば、聖女や神官たちは慣れた手つきで魔物を持っていき、解体していく。
素材と部位を余すところなくきれいに分ける姿は、神殿で務めている神職者というよりも、魔物の解体作業をする職人のようだった。
***
「うぉぉぉおお~!! すごーくきれい!」
アンネリーゼがお風呂に入って戻ると、そこにはきれいに解体された三体の魔物たちが並んでいた。
彼女と戦ったことで浄化された魔物は、穢れが消え、ぷりっぷりのお肉へと変わっている。
それを見た瞬間――
ぐぅぅぅ~…
アンネリーゼのお腹が盛大に鳴った。
「さっ!
ご飯にしましょうか~!
今日は…たくさん人がいるし…皆が簡単に食べられるものがいいわね!」
そう言って少し悩むと――
ポンッ、と軽く手を叩いた。
「そうだ!
羊肉があるし…ラムシチューにしましょうか!!
身体も温まるし…うん! 決まり!!」
羊肉から、すね肉と肩肉を取り分けると、それ以外のものは業務用冷蔵庫へとしまっていく。
「ティアナ、畑から泣き玉と人参、それにジャガイモ、トマトとセロリを取ってきてくれる?」
「えっ…泣き玉はやめよ?…」
「ダメダメ~。
料理するときは面倒だけど…味は甘くておいしいんだから、使わないと!」
アンネリーゼの言葉に文句を言いながらも、渋々取りに行くティアナ。
その間に、他のメンバーへも指示を出していく。
「ミレイユはお肉を一口大に切って、
クロエはティアナが戻ってきたら野菜を切ってくれる?
ジュリナとノアールはパンの準備を。
フィナはサラダを任せていいかしら?」
「「「オッケー!」」」
その間にアンネリーゼは、巨大な寸胴鍋を一つと、バック―スから作った少し若めのワインを一本取り出した。
「ふふふ…
やっぱりお肉を柔らかくするには、ワインが一番よねぇぇ~」
温まったお鍋にバターを入れると、一口大に切ったお肉を投入する。
ジュッ…
お肉の香ばしい香りが、シルトクレーテ中に広がった。
「ん~いい香り~!」
焦げ目がついてきたところでひっくり返し、焼き色がついたら、泣き玉を入れてゆっくりと炒める。
すると……だんだんと色が付き、黄金色へと変わっていく。
「ふふ…いい感じね!」
それに続けて、にんじん、ジャガイモ、セロリを加え、赤ワインを注ぐと、立ちのぼる蒸気が戦場の冷気を溶かすように広がった。
以前作っておいたデミグラスソースと、湯むきしてつぶしたトマトを投入すると、濃厚な香りが鍋を満たした。
ぐつぐつ……
それから一時間、ゆっくり、じっくり煮込んでいく。
「ん~出来上がりまで、あと少しね」
初めはビクビクしていた避難民たちも、料理の匂いのお陰か、少しずつ緊張感が和らいでいくのがわかる。
ぐぅ~~~
いたるところで、お腹の音が鳴り始めた。
「ふふ…
こんなにいい匂いがしてたら…誰だってお腹がすくわよね~」
煮込まれるラム肉は柔らかくなり、じゃがいもがほろりと崩れる頃、鍋の中は癒しの歌のような調べを奏でていた。
戦場の疲れを包み込むように、ラムシチューは静かに完成へと近づいていた。
「さっ! できたわよ~!」
アンネリーゼの声とともに、お皿を持って一列に並んでいく避難民たち。
それを見たアンネリーゼは、幸せそうな笑顔を向けた。
それは、先ほどまでレリアや魔物たちと戦っていたとは思えないほどの、綺麗な笑顔。
皆が、ごくりと息を呑む。
一人ひとり声をかけながら盛り付けをし、皆に行き渡ると、自分のお皿にもシチューを盛っていく。
「でかぁぁ~!!」
「さっすがアンナね…」
「ふふふ…
いつものアンナが戻ってきたって感じがするわ~!」
他の人たちの十倍はあるお皿を見て、皆が笑う。
「いいじゃない、べつに~。
だって、お腹すいちゃったんだもの!」
口をとがらせながら話すアンネリーゼは、どこか幼さが残る。
その姿を見て、皆が笑った。
「さぁ~食べましょ!」
アンネリーゼが、祈りの歌を捧げる。
「昼の女神エメラール様。
今日という日が無事に終えられたことを感謝いたします。
夜を守護する女神ノクスーレ様。
皆が新しい朝を迎えることができますよう、お守りください。
豊穣の女神ケレスティナ様に、感謝を。」
祈りの歌が終わると同時に、シチューをスプーンですくって一口。
「「「「ん~~~~~~~、おいしいいいいいいい!!!!」」」」
「「「はははははは!!」」」
「生きててよかった~!」
その声に、アンネリーゼはそっと微笑んだ。
戦いのあとに灯る小さな幸せが、静かに夜を満たしていった。
「ふぅ~。運動の後はやっぱりこれよねぇ。あとはお酒が飲めたら完璧なんだけど……」
「お前……俺が気づいていないと思っているのか?」
「ギクッ……な、な、なんの話し?」
「知っているか?夜な夜な厨房から変な声が聞こえると噂になっているんだ。」
「……」
「お前……俺に隠れて美味いもの食ってるんだろ?」
「……なんだそっちか…。」
✿いつもアンネリーゼを応援いただきありがとうございます(*.ˬ.)"
久しぶりのあったか?ごはん回でした。
次回21:10更新予定です♪
どうぞ、お楽しみ✨




