アンネリーゼの秘密。
三章です。
里帰りをして一ヶ月。
アンネリーゼたちはラファリエール領を後にし、プロセルピナ神殿へと向かっていた。
神殿までは馬車で二日。
この世界ではそれが普通なのだが、移動慣れしていない者には少し退屈な道のりだ。
「リース。ここ何日か、なんだか聞きたそうな顔してるわね?」
いつもは馬で行動するケルネリウスが、今日は珍しく馬車に乗っている。
気配でわかるくらいに、ずっと何かを迷っている様子だ。
「いや……そこまで大事な話ではないんだが……」
「そう? じゃあ、さっさと話して。言っちゃった方が楽になるわよ?
それに――一応、婚約者なんだから隠し事はなしでしょ?」
小首を傾げるアンネリーゼの仕草は、どう見ても年相応の少女そのもの。
だが、彼女の口からふと出た“中身は四十歳”という一言が、どうにも気になっていた。
「……前に言っていた“中身は四十歳”ってやつ、あれはどういう意味だ?」
「ん? あぁ、そのこと?」
アンネリーゼはぽかんとした顔をして――次の瞬間、ぷるぷると震え出した。
ケルネリウスは慌てて身を乗り出す。
「だ、大丈夫か!?」
「ふ、ふふっ……ふはははは!! なにそれ、そんな顔で聞くから真面目な話かと思ったじゃない! 中身が四十歳って、ただの事実よ!」
「いや、事実って……!」
お返しとばかりに、ケルネリウスが彼女の頬をむにっとつねる。
「いひゃい、いひゃいわ! はなして、はなしてってばぁ!!」
つねられながらもけらけら笑うアンネリーゼ。
その様子に呆れながらも、ケルネリウスはつい手を放した。
「私ね、前世の記憶があるのよ。というよりは、私のお母様もそうだったみたい。
ルシフェール国ができる前の話、聞いたことあるでしょ?」
「一応な。セラフィエル帝国がどうとか、家庭教師に習った。」
「そうそう、そのセラフィエル帝国。
昔はルシフェール、ウリエーラ、ラファリエールの三領地が並び立つ大国だったのよ。
でも――帝国を滅ぼしたのはルシフェール。
歴史では“反乱を起こしたウリエーラとラファリエールが悪”って書かれてるけど、実際は逆。」
「……逆、だと?」
「うん。ルシフェールが帝国を乗っ取ったの。
あの家は昔から傲慢で、自分たちが一番正しいと思ってた。
民なんて奴隷くらいにしか見てなかったのよ。
でもね、不思議と口が上手くて、人を従わせるのは得意だった。
だからあっという間に帝国は崩壊して――“ルシフェール国”ができたの。」
ケルネリウスは目を丸くする。
「……聞いてた話と全然違うぞ。」
「まぁ、歴史なんてそんなものよ。
勝った方が正義、ってね。」
セラフィエル帝国が滅んだあと、
ラファリエールはルシフェールに降りることで難を逃れた。
けれどウリエーラは最後まで抵抗した。
その結果、領地は荒れ果て、逃げ延びた人々はラファリエールへ亡命――。
そして今の荒地セラフィエルが生まれた。
「でね、私のお母様はその亡命したウリエーラ領主の血縁なの。
その血を継ぐ者の中に、たまに生まれるのよ。
私みたいに、他の世界の記憶を持って生まれる“転生者”が。」
ケルネリウスは、ただ黙って彼女の言葉を聞いていた。
そして、アンネリーゼはふっと微笑む。
「そう。私は別の世界――“地球”という場所で生きていたの。
その時の名前は……栗花落杏菜。」
「……あん、な?」
「そう! 結婚目前のアラフォー女!!
浮気されて、捨てられて、チャリに轢かれて転生コース!!」
「……いや、情報量が多い。」
アンネリーゼは小さく笑って、でもどこか懐かしそうに窓の外を見た。
「ふふ……今なら笑えるけどね。
あの時は本気で泣いたのよ。結婚式の準備も全部終わってたのに、
“花嫁を浮気相手に変えてほしい”って言われたんだもの。
馬鹿みたいでしょ? でも――あの瞬間、吹っ切れたの。
“じゃあ、次の人生は絶対好きに生きてやる!”ってね。」
そう言って、いたずらっぽくウインクする。
「で、結果がこれ。美味しいもの食べ放題の異世界転生生活!
あの頃の私に教えてあげたいわ、“浮気男よりカニの方がずっと偉大”って♪」
「……お前という女は本当に、神も悪魔も困らせるな。」
「褒め言葉として受け取っておくわ♪」
馬車の中に、笑い声が響いた。
こうして、二人を乗せた馬車はゆっくりと――プロセルピナ神殿へと向かっていった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
アンネリーゼの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです✨
次回はいよいよ荒地に到着です。
アンネリーゼはこれからどうなるのか…?
明日8:10公開予定です✨
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それでは、次回もお楽しみに!




