表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒地に追放された食いしん坊聖女はいつの間にかラスボス認定されていたようです!!  作者: ゆずこしょう
食いしん坊聖女の決戦。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/112

アンネリーゼと黒百合の魔人。

「ふふ…ふふふふ…」


バサッ…バサッ…


一枚ずつ花びらが開くたびに、

笑い声が深く、濁り、歪んでいく。


(本当に……不気味ね。)


バサァァァァ……


最後の一枚がめくれ上がった瞬間――


悪意そのものが、這い出してきた。


「ふふ……ふふふふふふふふふ」


黒い肌は墨を流したように滑らかで、どこまでも深い闇。

瞳は真っ赤に染まり、中心では黒い線が渦を巻いている。

歯は獣のように鋭く、唇は血を塗ったかのような深紅。


そして黒い大きな翼が、ゆらりと背中で揺れた。


二人の間を風がひゅうっと吹き抜ける――


と、同時に黒百合の花びらがレリアの身体へとまとわりつき、

妖艶で不気味なドレスへと形を変えていく。


「はぁ~……きもっちぃぃぃいいいい~~~」


快楽にも似た震えを全身で味わいながら、

その“何か”はゆっくりとこちらを見た。


それはもう、レリアではなかった。


アンネリーゼは細めた目の奥で、静かに警戒の色を深めた。


「……お前、何者?」


「ふふふふふふふふ……私はレリアよ?

 れ・り・あ……あなたのだぁ~~いすきな、レリアじゃない……?」


返ってくる声はレリアそのものの声色なのに、

響きも抑揚も、まるで別人。


人とは思えない冷たさに、背筋にひやりとした感覚が走った。


アンネリーゼは小さく息を吐き、

目の前の“レリアだったもの”を睨む。


「そう……まぁ、あなたがレリアだろうが、レリアじゃなかろうがどっちでもいいわ。

 だって私……あなたのこと、だ~~いっ嫌いだもの!!」


べぇ~~~っと舌を出して子供みたいに言い返しながらも、

アンネリーゼはメッザルーナをクルリと回して構えた。


カチンッ。


その軽い金属音に、レリアは瞳を細くして笑う。


「ウフフ……奇遇ね。私もあなたのこと、大っ嫌いだったのよ。

 だって、あなた……」


レリアは頬に手を置き、ゆっくり首を傾げた。


「……“あいつ”に、そっくりなんだものぉぉぉおおお!!」


その瞬間、レリアの周囲に浮かび上がった瘴気が一斉に形を変え、

黒い百合の蕾へと変質する。


ポンッ! ポンッ! ポンッ!


次々と膨らむ蕾から、生き物の卵でも破るように

“瘴気の球”が飛び出した。


(こ、これは……まずい!!)


嫌な予感と同時に――


ドォォォーーーーンッ!!


球が床や壁に触れた瞬間、爆ぜた。


「あ、あぶなぁ~~!!

 ほんっと、さっきから不意打ちばっかり……!」


レリアは楽しげにくすくす笑う。


「ふふふふふふ……ごめんなさいねぇ?

 でもあなたにはお似合いでしょぉぉ? だって、あなた…」


自分の黒い髪を人差し指でくるくるといじりながら、

アンネリーゼを睨みつける。


「私から“あの方”を奪った、卑怯者なんだからぁぁああ!!」


レリアの声が急に低くねじれ、

妖艶な微笑みが、憎悪どころか“呪いそのもの”に変貌する。


ギリ……ギリ……ッ。


鋭い歯が唇を食い破り、

赤黒い血がぽたり…ぽたり…と落ちる。


落ちた血が瘴気に触れた瞬間、

足元の影から黒百合の蕾が“ポン”と芽吹いた。


そして、それらは一斉に――


アンネリーゼへと牙を向けて襲いかかってきた。


(これは……まるでマシンガン!?)


黒百合の蕾が次々と撃ち出す瘴気弾が、

四方八方から同時にアンネリーゼを狙い撃つ。


「戦いづらいな……」


アンネリーゼは一歩跳んでかわしながら、

手にしていたメッザルーナを軽く振ってため息を漏らした。


「ん~…メッザルーナはやめましょ。」


言い終えるより早く――


アンネリーゼはスキルでから細い刃を取り出した。


ペティナイフ。


しかも、一つではない。


指の間に挟まったナイフの数、八本。


「フフ……やっぱりこれよね!!

 小さい獲物を狙うなら一番しっくりくるわ!」


刃先を軽く舐め、


にこりと笑った瞬間――


アンネリーゼの身体がふわりと宙へ跳ね上がった。


そして、空中で体をぎゅっと丸め――


くるりと一回転すると、

その勢いのまま、八本すべてのナイフを、黒い百合へと放つ。


バシュッ…! バシュッ…! バシュッ…!


投げるたびに黒い蕾が破裂し、霧散していく。

まるで夜空に消える火花のように。


(ビンゴ!! やっぱりこれが一番ね!)


片足でトン、と軽く着地した瞬間、

アンネリーゼの姿はすでにレリアの横に移動していた。


次の瞬間には前。

さらに斜め後ろ。


見えない速度で駆け、的確にナイフを放つ。


バシュッ、バシュッ!


黒い蕾が次々と散る。


が、次から次へと新たな黒い蕾が生まれていく…。


「チッ……これじゃ埒が明かないわね……!」


アンネリーゼが舌打ちをしたのと同時に、

レリアが妖艶な笑みを浮かべた。


「ふふ……降参かしら?

 でも残念ね。今回はあなたを助けてくれる人はいないわよ?」


その“今回は”という言葉が、

アンネリーゼの胸の奥にチクリと刺さる。


──誰かと比べられ、

──“卑怯者”と罵られ、

──助けなしでは勝てないと言われて。


ずっと堪えていたものが、

ぐつぐつと煮え始める。


アンネリーゼはナイフをくるりと指で回し、

ふっと息を吐いた。


「ん~……さっきから誰と比べてるのかわからないけど、

 私はあなたの知ってる“あいつ”じゃないわよ?」


煽るような笑みを浮かべた次の瞬間、

声色は冷たく、鋭く変わった。


「でもね……これだけは言っておいてあげる。」


レリアの赤い瞳が、ピクリと揺れる。


アンネリーゼは静かに言い放った。


「きっとあなたが愛してた“あの方”は、

 あなたのこと……嫌いだったと思うわ。」


二人の間の空気が、一瞬止まった。


だが――

アンネリーゼは構わず続ける。


「じゃなきゃ捨てないでしょ。

 それに、もし…あなたのことが好きなら、

 ここに迎えに来ているはずだもの。」


刃物より鋭い言葉。

嘘のない直球。


レリアの心臓をえぐるような真実。


その瞬間、

レリアの瞳がギギギ……と音を立てるように歪んだ。


「……私は嫌われていない……」


誰にも聞こえないほどの小さな声。


だがそれは、

自分に言い聞かせる“呪い”のようでもあった。


「私は嫌われていない……

 私は……嫌われていない……」


フラフラと首を傾けながら繰り返すその姿は、

人でも魔でもなく、壊れた人形そのもの。


そして――


「私は嫌われていないわぁぁぁぁぁあああああああああ!!」


耳を裂く悲鳴とともに、

黒百合の小さな蕾たちが一斉に舞い上がった。


ボウッ!!


それらが一つに集まり、

巨大な黒百合へと姿を変えていく。


それを見たアンネリーゼは、

大きな声で笑い出した。


「んふふ……やっとまとまってくれたわね~。

 これで戦いやすくなったわぁぁぁ!!」


ペティナイフをしまい、

お馴染みの柳刃包丁をゆっくりと取り出す。


「大きい花は……大きい刃で斬るものよ。」


その瞬間――


~~♪~~♪


風に乗って届く歌声が、

アンネリーゼの身体に温かく染み込んだ。


疲労が溶け、力が満ちていく。


「あぁ……ふふ。

 あの子たち、本当に……どんどん強くなってるわね!」


その笑顔が、

レリアの癇癪のスイッチを押した。


「何ひとりで笑ってるのよぉォォォォオオオオ――!!」


幼子のヒステリーのような叫び。


声は震え、感情はぐしゃぐしゃで、

怒りだけが溢れていく。


アンネリーゼは、

ゆっくりと小さく首を傾げた。


「別に、笑ってないわ。

 ただ……あなたはかわいそうね。

 仲間もいないんだもの。」


その言葉に反応するように、

レリアの呼吸が荒くなる。


アンネリーゼは刃を下に向け、

体勢を低く――


野生の動物のように、すっと構えた。


空気が震える。


そして――


次の瞬間、

風が一瞬だけ止まり――鋭い光だけが横切った。


アンネリーゼは柳刃包丁を、

左から右へと振り切る。


ザシュッ…


音とともに、

レリアの身体から瘴気が噴き出す。


「ふふふふふふははははははあ――!!」


切られて痛いはずなのに笑い出すレリアを見て、

アンネリーゼは顔をしかめた。


(痛覚すらマヒしてるのね……。)


溢れ出す瘴気が渦を巻き、

巨大な黒百合の花が、もう一枚の翼のように広がり始めた。


最後の暴走と言わんばかりに、

瘴気を貪るように飲み込んでいく。


百合というより、

もはや果肉植物。


涎のように、

黒い瘴気がぽちりと落ちる。


(来る……!)


熱を帯びた風が、

アンネリーゼの頬をかすめた。


「アンネリーゼぇぇぇぇ……!!」


「あなたさえいなければぁぁぁ……!!」


レリアの叫びとともに、

黒い花が一斉に開こうとした瞬間――


アンネリーゼは、

レリアごと黒百合を断ち切った。


ザッ――


「私を恨むのは構わないけど……

 もう終わりにしましょう。レリア。」


断ち切られた場所から、

瘴気が溢れ出す。


「わ、私は…

 あの方が好きだっただけなの…」


「……そう。」


「ただ……愛してほしかっただけ。

 見てほしかっただけなのに……」


「……幸せになりたかったなぁ……」


それは、

自分に言い聞かせるような呟きだった。


アンネリーゼは、

胸元の核めがけて柳刃包丁を突き刺す。


「次は幸せになれるといいね。

 そのためにも……今は静かに眠って……。」


ピキピキと音を立て、

核にひびが走る。


パリィーーン……


割れた核から溢れた瘴気は、

金色の粒へと変わり、空へと昇っていく。


同時に、

彼女の過去が流れ込んできた。


――セラフィエル帝国の、とある小さな村。


たまたま訪れていた貴族の男に声をかけられ、

恋をした。


相手が本気だったのかは分からない。

だが、彼女は本気だったのだろう。


『必ず迎えに来るから、待っていて欲しい。』


そう言い残し、

男は去った。


だが、

何年経っても迎えは来なかった。


「レリア……

 あなたは、きっと寂しかったんだわ。

 どうか、安らかに……」


アンネリーゼは空を見つめ、

小さくため息を吐いた。

✿いつもアンネリーゼを応援いただきありがとうございます(*.ˬ.)"


アンネリーゼとレリアの最期の決戦、いかがでしたでしょうか?


食いしん坊聖女もいよいよ最終章。


あと少しお付き合いいただけますと嬉しいです♪


次回、21:10更新予定♪

どうぞ、お楽しみに✨

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ