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荒地に追放された食いしん坊聖女はいつの間にかラスボス認定されていたようです!!  作者: ゆずこしょう
食いしん坊聖女の決戦。

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104/112

魔王、覚醒。

「さて、アンナの所に向かうか。」


ペドロとの戦闘を終え、イアンは剣を腰へ戻した。

先ほどまで戦っていたせいか、まだ身体に熱が残っている。


(久しぶりだな……ここまで血が騒ぐのは)


心を落ち着けようと、深く息を吸った、そのとき──


バサッ……バサッ。


頭上の闇を切り裂くような、重い羽ばたきの音が響いた。


(……なんだ?)


見上げた空は、さっきよりもさらに暗く沈んでいる。

その中を、ひらひらと黒い羽が舞い落ちてきた。


まるで、何かから“千切れ落ちた”かのようだ。


(羽根か……)


落ちてきた一枚を、そっと手に取る。


「見ツ……けたゾ……」


頭上から、低く濁った声が響いた。


その声音は、もはや人とは呼べない。


「ふっ……まさか、君から来てくれるとはね。エルネスト。」


ほんの一瞬だけ、イアンは笑った。


だが次の刹那、

その笑みは音もなく消える。


全身の血が逆流するような寒気が、イアンの背筋を貫いた。


「オ前……ダレ、ダ……?」


人の関節ではありえない角度で、カクンと首を傾げる。


「あぁ……私のことは忘れてしまったのかい?

 一応、君の元婚約者――アンネリーゼの兄なんだけどね。」


「アン、ねりーゼ……?」


その名を聞いた瞬間、赤い瞳がきらりと光った。


空気そのものが凍りつくように冷え込む。


イアンの心臓が、ドクン、と脈打つ。


(これは……まずいな)


先ほどしまった剣を、ゆっくりと腰から引き抜く。

どこから攻撃が来てもいいように、自然と構えが整った。


(あれは……今まで戦ってきた相手よりも強いな……。

 一人で倒せるか……いや、倒せるか倒せないか、じゃない)


イアンの目が、静かに細められる。

殺気が、空気を震わせた。


「……アンネリーゼに手を出すなら、兄の俺が相手だ。」


膝に力を込め、腰を落とすと――


イアンは一気に地を蹴った。

風を裂く勢いで、エルネストの懐へと踏み込む。


その踏み込みも、体の使い方も、

まるでアンネリーゼが戦う時と、そっくりだ。


下から上へ剣を振り抜き、

その勢いのまま高く放り投げる。


イアンは滑るように足を運び、体勢を崩したエルネストを押し倒した。


ズドォォォーーン!


すかさず高く跳躍し、空中で剣を掴む。


そのまま、エルネストの胸元へ突き刺した――


――はずだった。


パリィィィンッ!


刃は肉を裂くことなく、

まるで岩に叩きつけられたかのように、ひび割れ――折れた。


「……鋼かよ。」


イアンの呟きは、あまりにも冷たく、空気に落ちた。


――その瞬間。


視界が、ふっと揺らぐ。


イアンが反応するより早く、

エルネストの拳が頬にめり込んだ。


ドォォォンッ!!


凄まじい衝撃が頭を突き抜け、

身体は投げ出されたボールのように吹き飛ぶ。


壁を一枚、二枚、三枚……

次々とぶち破り――ようやく止まった。


「っ……ぐ……っ」


肺の奥の空気が押し潰され、喉が震える。


(これは……ペドロの数倍どころじゃないな……!)


「ゲホッ……ゲホッ! ゲホッ!!」


口元から、赤い血がたらりと落ちた。


――重い。

――痛い。

――速い。


たった一撃で、格の違いを嫌というほど思い知らされる。


首を必死に上へ向けると――


先ほどよりもさらに冷たい気配をまとったエルネストが、こちらを見下ろしていた。


角は“メリメリ”と音を立て、竜の爪のように湾曲し、

黒い鱗めいた紋様が浮かび上がっていく。


黒く変色した顔にはヒビが走り、

その割れ目から赤黒い光が滲み出ていた。


(っ……なんて、威圧……!?)


角が伸びるたび、

空気そのものが押し潰されるように沈み込む。


「……ッハ……ハァッ……」


肺に圧が重くのしかかる。


完全に伸び切った角は、

すでに“人間の頭では支えきれない”ほど巨大だった。


夜の闇を切り裂くように鋭く――


まるで本物のドラゴン……いや、


魔王そのもの。


「……これは……もう、エルネストじゃないな……」


喉が、自然と鳴る。


目の前に立つのは、

もはや“人”の名残さえない存在――


魔王へと堕ちきった姿。


「フッフッフ……ハハハハハハハ!!

 この時を――待っておったぞォ!!」


先ほどまでの片言は、完全に消えていた。


声も、目も、立ち姿さえも、

エルネストの面影は一切残っていない。


「……お前は、本当にエルネストか……?」


問いかけに、“それ”はゆっくりと首を傾げる。


「ふむ。そう呼ぶ者もいたな。

 だが――お前には、こちらの名の方が馴染み深いのではないか?」


赤黒く輝く瞳が、イアンを射抜いた。


「ヴァルドリク・ルシフェール……とな。」


その名を聞いた瞬間、

イアンは息を呑んだまま目を見開く。


「ヴァ、ヴァルドリク……だと……!?」


次の刹那、瞳が鋭く細まり、

目の前の魔王を真正面から睨みつけた。


胸の奥――

決して思い出してはならなかった“前世の闇”が、


ざらり、と音を立てて逆巻く。


「久しいな――レオポルド。」


その一言が、内側で何かを切り裂いた。


前世の名を呼ばれた瞬間、

心臓がひときわ強く脈打つ。


「まさか、この世界でも再び相まみえるとはな。

 ハッハッハッハッハ!!」


魔王の笑い声が、壊れた王城に響き渡る。


その瞬間――


ピシャァァァァァァッ!!

ゴロゴロゴロ……!!


黒雲が裂け、雷撃が一直線に降り注いだ。


「ヴァルドリクゥゥゥゥゥウ!!!!」


叫びとともに、イアンは折れた剣を投げ捨て、地を蹴る。


キィィン――


空気と金属が擦れ合うような音が鳴り響いた。


そこに、冷静なイアンはいない。

残っているのは、純粋な怒りと――

“レオポルド”としての記憶だけ。


次の瞬間――

怒りをすべて乗せた拳が、魔王の顔面へ放たれる。


――放たれる、はずだった。


「レオポルドよ……お前は昔から変わらんな。」


乾いた声が、耳元で響いた。


ヴァルドリクの手が、

羽虫を払うかのように、拳を受け止める。


「なっ……」


「頭より先に手が出る。

 ……だから“私に”負けたのだ。ハッハッハ!!」


そのまま、軽々と身体を持ち上げ――投げ飛ばした。


ドォン!

ガァン!!

ドォォォンッ!!!


天井、柱、床――

身体は何度も弾かれ、瓦礫とともに叩きつけられる。


肺から空気が押し出され、

視界が白く弾けた。


「……っぐ……は……っ」


(私は……今回も……負けるのか……)


指先が震える。

それでも、床を叩いた。


(……いや。考えろ。

 約束したんだ。必ず、アレットのもとへ……)


壁に手をつき、ふらつきながら立ち上がろうとした――


その瞬間。


キラリ、と視界の端で光が走る。


「よっ。ボロボロじゃないか、イアン。」


「……ケ、ルネリウス……か……」


崩れ落ちそうな身体を、ケルネリウスが受け止めた。


「そこまでやった。あとは俺が代わる。」


「……た、のむ……」


そう言い残し、イアンは目を閉じる。


「フハハハハハハハ!!

 やはり貴様は私の敵ではなかったな、レオポルド!」


魔王の視線が、ケルネリウスへ移る。


「次はお前か。羽虫め……」


ケルネリウスは鼻で笑った。


「ふっ……羽虫?

 羽虫は……お前だろうが、エルネスト。

 その翼、羽虫そっくりだぞ?」


フレア・レメディアを抜いた瞬間――

空気が、ビリ、と震えた。


「……それを、抜くか。」


ケルネリウスは口角を上げる。


「さぁ、戦おうか――羽虫。」


その笑みは挑発でも余裕でもない。


むしろ――

目の前の魔王すら霞むほど、


ケルネリウスは、魔王じみていた。

「ちょっと、私の出番あるって言ったのになかったじゃない。」


「すみません……次こそは……」


「これじゃあ食いしん坊聖女じゃなくて食いしん坊イアンよ?」


「いや、それは違うかと……。それに、主役は遅れてやってくるものですよ。」


「ふふ……主、役……それなら仕方ないわね。」


「あ、それは納得してくれるんだ……」


✿いつもアンネリーゼを応援いただきありがとうございます(*.ˬ.)"


今回こそはと思っていたのですが……アンネリーゼ出れず……。


次回21:10更新予定です♪

どうぞ、お楽しみに✨

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