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荒地に追放された食いしん坊聖女はいつの間にかラスボス認定されていたようです!!  作者: ゆずこしょう
食いしん坊聖女の決戦。

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102/112

イアン、王の剣を振るう時。

「うっ……苦しいわね……。まるで、初めてプロセルピナ神殿に着いた時みたい……」


同じ頃――。


王都の片隅にある小さな神殿の中では、瘴気にやられた聖女たちと、逃げ遅れた人々が肩を寄せ合っていた。


(ダミアンの話によると、全員逃げたということだったが……邪魔になりそうな者だけ置いていった、というところか)


ラケルは、残っている人々を見渡し、ため息を吐く。


乳飲み子を抱えた母親。

足の悪い老人。

魔物に両親を奪われたであろう、泣きじゃくる子ども。


「よく魔人化しなかったものだ……。恐らく、早い段階でここに避難したことが幸いしたか」


外よりも、少し清浄に感じる空気。


そのおかげか、聖女たちも楽になってきたのか、呼吸が少しずつ落ち着いてきているのが見えた。


そんな時――。


ラケルは、アンネリーゼに言われた言葉を思い出した。


『ラケル、オリザールス。あなたたちは、聖女たちと一緒に行動してちょうだい』


『なぜ、我々があ奴らと行動を共にせねばならん……』


『お願いよ? あなたたちにしか頼めないの。それでね……もし誰かが体調を崩したり、動けなくなったら、これを食べてって渡してほしいの』


そう言って渡された、大きな風呂敷。

解けば、中にはぎっしりと――。


『アンネリーゼ特製ハンバーガーよ!! とろっと絡むソースに、ふわふわのパン……えへへ……あ、違う違う! 皆のために作ったの! これを食べれば、この瘴気の中でも、多少は動けるはずだから。頼んだわよ?』


(……本当は、自分も食べたかったんだろうな)


ラケルは、あの時のアンネリーゼの、どこか悲しそうな笑顔を思い出し、首を横に振った。


(いかん、いかん。あ奴の笑顔に持っていかれるところだった)


近くにいた聖女の一人に声をかける。


「おい、お前!! これを食べるように言え!!」


アンネリーゼに持たされた風呂敷を、一人の聖女に渡す。

中身を確認した彼女は、理解したのか、ぱっと表情を明るくした。


「ラケル様、ありがとうございます! すぐ、皆に配りますね!!」


ほどなくして、神殿中にパンの温かい香りが広がった。


「……はむっ……なに、これ……おいしい……」


「アンネリーゼ様が作ったものよ! ほら、まだあるから!」


「アンネリーゼって……厄災とか言われてる、あの……?」


怯えていた人々の顔に、ほんの少し、血の気が戻る。


だが、次の瞬間――。


聖女たちが、勢いよく叫び出した。


「厄災!? そんなわけないでしょ! あの方は、すっっごい方なのよ!!」


「武勇伝を聞きなさい!!」


しかし語られる武勇伝はすべて、

魔物を倒し、美味しくいただく話ばかりだった。


(……いや、それは逆効果だろう……)


「た、倒して……食べる……?」


と青ざめる領民たちを見て、ラケルは心底、同情した。


それでも――。


温かい食事。

人の声。

人の気配。


それらが、少しずつ神殿の空気を変えていく。


(時代が変わっても……良いものだな。人の笑顔というものは)


ラケルは微かに笑みを浮かべ――

ふと、昔のアゼール領を思い出した。


***


ドスンッ!!


「いたた……。まったく、我が妹ながら人使いが荒いな」


まさか床を破壊され、下の階に落とされるとは思っていなかったイアンは、腰をさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。


そして、目の前に立つ影を見て、ふっと目を細めた。


「お、お前ハ……」


「やぁ、久しぶりだね、ペドロ。

 いつかの夜会で会ったきりだったかな。

 君たちの弟妹には――我が妹が、随分とお世話になっているよ」


イアンが軽く手を払うと、床に散った瓦礫が、からからと転がる。


向かいでは、魔人となったペドロが、ギリ、と牙を剥き、背中には黒い羽根が生えていた。


(もう、人ではないな……)


「イ、イあん……。お、お前ダけハ……許さなイ……!」


なぜ自分だけ狙われているのか、イアンは首を傾げ――

ふと、何かを思い出した。


「あぁ……もしかして、アレットのことかい?」


アレットは、アンネリーゼと神殿に入る前、伯爵家の令嬢として社交界に顔を出していた。

その頃、しつこく言い寄っていたのが――ペドロだ。


(つくづく……アンナと言い、アレットと言い……ゴモリー家とは因縁しかないな)


イアンが呆れたように息を吐くと、その仕草が癪に障ったらしい。


「バカにしやガッてぇぇえええ!!」


怒号とともに、ペドロが剣を振りかざして突っ込んでくる。


「うおっと……。そんな乱暴に振り回したら危ないじゃないか。

 騎士団で、君は何も教わらなかったのか?」


すれすれを斬り抜ける剣を、イアンはひらりと身を傾けてかわす。

その顔色は変わらず、冷静そのものだった。


さらに何度も斬りかかってくるが、イアンは軽いステップで避け続ける。


(……本当に、怒り任せだな)


それが、さらにペドロの癇に障ったらしい。


「い”ア”あ”ァ”ぁ“ァ”ぁ“ァ”ァ”ァ”ぁ“ァ”ぁ“ーーーーーーん”!!」


叫び声とともに、ペドロは黒い翼をバサバサと広げ、獣じみた動きで空へと舞い上がった。


そして旋回しながら、渦を巻くような速度で、イアンめがけて急降下する。


ドッカァァァン!!


床を破壊したアンネリーゼのせいで建物は脆く、城壁ごと吹き飛び、真っ暗な空が覗いた。


「ふッ……はーハッはっハっ!! ざまぁ見ろ!!」


瓦礫の山の上で、勝ち誇るペドロ。

崩れた壁から吹き込む夜風が、魔人の黒い翼を揺らす。


だが――。


「いやぁ……大振りにもほどがあるだろう?

 君、戦いというものを、もう少し学んだ方がいいね」


瓦礫を払いながら、イアンが静かに姿を現した。


傷一つないわけではないが、その歩みに乱れはない。


「ナ、な、ナ……ナぜ……生キていル……」


「なぜって?

 それは僕が……アンナの兄で、アレットの婚約者だからかな」


その言葉とともに、イアンは腰の剣を、ゆっくりと引き抜いた。


アンネリーゼが浄化した剣。

刃先から白い光が、細く立ちのぼり、空気が澄んだように震える。


次の瞬間、イアンの声が、わずかに低く落ちた。


「……さて――ここからは、私の番でいいかな?」


バサッ、と見えない風が吹いたように、空気が一段、冷たく張りつめる。


「ア”ァぁ”ぁァ”ぁぁ”ぁァア”ァぁ”ぁァ”ぁぁ”ぁァ」


ペドロは咆哮を上げると、再び空高く舞い上がり、バサッと羽根を広げた。


すると――。


黒い羽根が、矢のように一直線にイアンの方へ飛んでいく。


数にして、百を超えるだろうか。

一つでも当たれば、死んでもおかしくはない速度だ。


だが、イアンは足を止めることなく、ペドロへ向かって歩いていく。


「そんな玩具で、僕が倒せると思うかい?」


頬をかすめた黒い翼が、細く赤い線を描いた。

一瞬、熱を伴う痛みが走る。


だが、イアンは瞬き一つせず、目の前の敵を見据えた。


「ア”ア”ァ”ァ”ぁァ”ア”ァァ!!」


ペドロは叫びながら、上空から急降下する。

城壁ごと、イアンを押し潰すつもりのようだ。


だが、その瞬間――。


イアンの足元で、光が弾けた。


キィンッ。


浄化の剣が、空気を切り裂きながら真横へ振り抜かれる。

目に映ったのは、“白い線”だけ。


遅れて、空を飛んでいた黒い翼たちが、

ぱらぱらと、花びらのように落ちてきた。


「な……ッ!?」


ペドロの目が見開かれる。

自身の翼の何枚かが、根元から断たれていた。


「遅い……。そんな攻撃で、私は殺せないよ」


イアンは、ゆっくりと剣を構え直す。


「できれば、あまり乱暴な真似はしたくないんだけれど……」


足が床を蹴る。


その瞬間、世界が音を失った。


一歩。


踏み込んだ瞬間、イアンの姿は、すでにペドロの懐へ滑り込んでいた。


「私の大切な婚約者と妹に手を出す者を前にして、

 遠慮などすると思うかい?」


白い光が、弧を描いた。


次の瞬間――。


ドガァァァンッ!!


床ごと衝撃が走り、ペドロの身体が大きく後方へ弾き飛ばされる。

崩れた壁に叩きつけられ、石が砕け散った。


イアンは剣を下ろし、静かに息を吐く。


「さぁ……まだ続けるかい?

 それとも――ここで終わりにするか?」


その声は穏やかだが、拒絶を許さない強さを持っていた。


「な、なゼ……。こノ僕が……な、なゼ……お前ばかリ……

 アレッとは、僕ノ物ナのニ……」


ペドロの瞳は震え、

ついさっきまで獣のように吠えていた喉が、恐怖で、ひゅ、と小さな音を漏らした。


「なぜって……まだ分からないのか?

 アレットは物じゃない。

 好きだったのなら、もっと違う方法があっただろう」


イアンの眉が、わずかに震える。


(あの時のアレットは……本当に、泣いていた)


アレットが、社交界の花と呼ばれていた頃――。


ペドロは彼女を“自分のもの”にしようとして、

ゴロツキを使い、誘拐を企てた。


イアンが気づいたことで事なきを得たが……

そのせいで、アレットは傷物と扱われ、神殿に入らざるを得なくなった。


(表向きは、アンネリーゼの付き添い……

 そんな建前で、隠すしかなかった。)


「すべては、お前が蒔いた種だ。

 そんなお前に、私が負けるはずがないだろう?」


イアンが見下ろすその姿は、

まさに――“王”そのものだった。


「ま、ま、待っテくレ……。た、頼ム……。た、助けテくれ……」


じりじりと後ずさるペドロへ、イアンは一歩ずつ近づいていく。


ペドロの指先が、何かを掴もうとするように宙を彷徨った。


そして――。


次の瞬間、イアンは、ペドロめがけて剣を突き立てた。


「……終わりにしようか、ペドロ」


その言葉とともにペドロは靄となって空へと消えていった。

✿いつもアンネリーゼを応援いただきありがとうございます(*.ˬ.)"


今回はイアンお兄様の回でした。

さすがアンネリーゼの兄だけありますね(笑)

無茶苦茶度でいけば、アンネリーゼの方が上ですが……


次回、21:10更新予定です♪

どうぞ、お楽しみに✨


「私の出番は!?」


「頼む。もう少し大人しくしていてくれ……」

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