私、ラスボスなんですか!?
「見てみて! あの空を飛んでる鳥みたいな魔物。から揚げとかにしたら絶対おいしいわよね。チキン南蛮でもいけるわ~!」
「ほら、あっち歩いてる魔物……ホーンラビットの上位種じゃない? ホーンラビットって淡泊だけどおいしいのよねぇ~」
「あれは……皇帝豚……? いえ、女帝豚かしら!? 絶対おいしい……!」
「「うるさい!!」」
王城へ向かう道中――。
あちこちに魔物が徘徊し、地獄のような光景が広がっているにもかかわらず、アンネリーゼはまるで遠足にでも来たかのように、目を輝かせていた。
見たことのない魔物に出会うたび、肩がわずかに跳ねる。
あまりの緊張感のなさに、ケルネリウスとイアンも思わずツッコミを入れた。
「ご、ごめんなさい……でもおいしそうなんだもの。仕方ないじゃない。」
二人は大きなため息をつく。
しかし、アンネリーゼの目を見た時、二人は彼女が別の“何か”を見ていることに気が付いた。
(……いつものか)
ケルネリウスは何も言わずに横目で彼女を見る。
(やはり、アンナも見えていたか……)
イアンもまた、それ以上口を開こうとはしない。
「……全部、聞こえているのよ……」
アンネリーゼが小さい声で呟く。
それはケルネリウスや、イアンがアンネリーゼに近づいてやっと聞こえるくらいの小さな声。
王都に入ってから、“魔物たちの声”がどんどん大きくなっていた。
最初は遠くの悲鳴だったのに、今はすぐそばで響いているように聞こえる。
"ギャアアアァァーーッ!! ギャァーーッ!!"
『……たすけて……にげられない……』
"ウォォォォォーーー……ウォォォ……"
『……もう、ころしたくない……』
"キィィィィ……キィィィィィィ!!"
『……こわい……やだ……もう……』
悲鳴と、か細い嘆きが、まるで同じ喉から絞り出されているかのようだった。
悲しみと苦しみの声しかない。
明るい気配など――ひとつもない。
だからアンネリーゼは、あえて笑った。
(ごめんね。すぐに終わらせるから。それまで……もう少しだけ耐えていて頂戴。)
その胸の奥では、静かで強い決意だけが、燃え続けていた。
***
「どうしたのです……? エルネスト様。」
急に立ち上がったエルネストを見て、レリアは妖艶な笑みを浮かべながら首を傾げた。
「外ガ……騒がシい……」
以前はわざと片言だったはずのレリア。
だが――イザークが姿を消したことで、もう“演じる必要”がなくなったのだろう。
彼女の声は、まるで別人のように流暢だった。
「ふふ……そんなに外が気になるのですか? あなたは、私だけを見ていればいいのですよ?」
赤い瞳。
血を塗ったような鮮やかな唇。
周囲には黒い百合が咲き誇り、その花弁には――濃い瘴気がまとわりついている。
蕾が少しずつ大きくなり花を咲かせる姿は、他の花が咲く瞬間とは違い、まるで生きている花のようだった。
まるで、百合の花が“瘴気の器”であるかのように。
「……ソ、そウダな……」
レリアが声を掛ければ、エルネストは素直に身体を預け、膝の上に頭を乗せて目を閉じる。
(ふふ……本当に愚かな男。なにも気づかないなんて……可愛いものね。)
レリアはエルネストの頭に生えた角を撫でながら、ゆっくりと妖しく微笑んだ。
その指先は、愛おしげで――。
同時に、獲物を転がす魔の手でもあった。
(そろそろ、ルシフェール国も終わりが近いわね。)
レリアは窓から外を眺める。
外を見れば日の光はなく、夜よりも暗い漆黒の世界へと変わっていた。
その世界をみて、一人ほくそ笑んだ。
「……やっとよ。
この国は――全部わたくしのもの。」
「ン…? 何カ言ッたカ…?」
レリア自身口に出しているとは思わなかったのか、自分の口に手を添えて軽く微笑んだ。
「いえ…何でもないのです。ただ…私たち二人だけの世界が出来上がったのがうれしくて…」
その言葉は甘く、まるで毒のよう…。
「ハハはハ……そ、そウか。
僕モ……キミと二人になれて、幸せダ……」
エルネストの虚ろな声が、薄暗い寝室の中に溶けていく。
レリアはその声を撫でるように受けとめ、ゆっくりと目を細めた。
(これで……この国は完全に“わたくしのもの”――あの方もきっと私を見つけてくれるはずだわ。)
そう確信した――まさにその瞬間。
明かり一つない闇の世界に“異物”が差し込んだ。
それは――
暗黒の王都には本来あり得ない、
柔らかく、澄んだ――光。
「……え?」
レリアがわずかに目を見開くと、
その光に混じるように――
王都中へ、美しい歌声が広がっていった。
「な、なによ…これ。」
黒い百合がざわりと震え、瘴気が揺らぐ。
「……この光……ッ、消えなさい……!」
レリアが眉をひそめたその刹那――。
――バンッ!!
扉が勢いよく開いた。
「み~~っつけた!! やっ~~っとお会いできましたねぇ!?
えっと…エ、エ、エ、エルベルト王太子殿下に、レ、レ、レ、レアリー様!」
「レリアよ!! レ・リ・ア!!!」
思わぬ乱入者にレリアはつい本気で叫んだ。
しかし、寝転がったエルネストは、自分の名を呼ばれたことすら気づかず、レリアの膝の上で微動だにしない。
その後ろから入ってきたケルネリウスが、ため息まじりにアンネリーゼの頭を軽く小突いた。
「……エルネストな。」
「そんなのどっちでもいいじゃない! それより――見て、あれ!」
アンネリーゼが強く指をさす。
そこには、黒い百合の花がいくつも咲き乱れ、それぞれが濃い瘴気をため込んで、まるで生き物のように蠢いているのが見える。
空気そのものが暗黒に染まるような不気味さ。
「アンネリーゼ……お前は排除したはず……な、なんで……ここに……!」
レリアは真っ赤な唇をギリ、と噛みしめた。
今まで一度も揺らいだことのないその瞳が、わずかに泳ぐ。
黒い百合が一輪、バキッと音を立ててひび割れた。
「……あり得ない……そんなはずは……」
膝に頭を乗せていたエルネストの頬に、レリアの爪が食い込み、細い傷が走った。
その瞬間――。
ぱちり。
閉じていたはずのエルネストの瞳が開いた。
「ア……あンねりぃーゼ、だと……ッ!?」
その目はどこまでも濁っていて、どこまでもアンネリーゼだけを追っていた。
それは恋のようでいて、恋とは決して言えない――歪んだ執着。
エルネストの瞳は濁っているのに、どこか“別の何か”に操られているようだった。
(……レリアの瘴気に、思考まで侵されているのか)
ケルネリウスはわずかに眉をひそめた。
「はい。アンネリーゼです。えっとここでは厄災のアンネリーゼとでも言っておいた方がいいでしょうか?」
厄災と言われたことを根に持っているのか、強調する姿をみてケルネリウスとイアンは心の中で溜息を吐いた。
((いや、最近まで知りも知らなかっただろうが…))
アンネリーゼが名乗れば、その言葉がまるでトリガーにでもなっているかのように起き上がった。
「ま、ッていタゾ!! 厄災アんねりーゼ……
お前ノせいデこの国は滅亡寸前ダ……!
こ、ここデ……お前ヲ倒シて……
ぼ、ボ、僕は……英雄王ニ……」
(一瞬、正気に戻った気がしたが…気のせいか。)
再び濁った光がエルネストの瞳を覆う。
そして、エルネストから出た“英雄王”という言葉に一同騒然とした。
(……レリアに吹き込まれか。“アンネリーゼを倒せば、英雄王になれる”とでも)
ケルネリウスがちらりとレリアの方を見る。
レリアは「自分は何も知らない」とでもいうように、にこりとほほ笑んだ。
「えっと…それでは私がラスボスみたいなんですが…」
(えっ、いま!?)
アンネリーゼの思わぬ言葉に、ケルネリウスとイアンも唖然とした。
「ム…。ラスボすトは何か…わからヌが。イい響キだ。
ラスぼスアンねりーゼ、お前ヲここデ始末すル!」
その言葉と同時に、たくさんの魔人たちがアンネリーゼたちを取り囲んだ。
そもそもこれまで厄災だなんだと言われていたというのに…。
今まで知ろうともしなかったくせに…。
よく言えたものである。
アンネリーゼは少し静止し、
直後――。
「えぇぇぇぇぇぇ~~~~!!
私……ラスボスだったのぉぉぉぉ!?」
その場に響いた叫びが、王城中にこだました。
「いや今はそこじゃない!」
「そうだぞアンナ、お前は大聖女であって俺のかわいい妹だ! ラスボスなんかじゃない!」
二人のツッコミにも、アンネリーゼはがっくり肩を落とした。
「……ひどいわ。私、今日まだ何も悪いことしてないのに……」
「アンナ、そこでもない。」
「帰ったら絶対クレーム入れるんだから……っ!!」
そう言いながらアンネリーゼは調理器具スキルでペティナイフを取り出す。
先ほどの笑みがすっと消え、彼女の瞳に違う光が帯びる。
「……じゃあ、ここからは――私の番ね」
その瞬間――
王城の空気がピンと張りつめた。
✿いつもアンネリーゼを応援いただきありがとうございます(*.ˬ.)"
アンネリーゼが遂に…ラスボスと呼ばれていることを知りました。
果たしてラスボスと呼ばれたアンネリーゼはどう動くのか…!?
次回、21:10更新予定です♪
どうぞ、お楽しみに✨




