第二十一話:白い前提
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戦線は、短くなっていた。
国境線という言葉は、もはや機能していない。
塗り潰され、引き直され、
意味を失いながら更新されていく。
併合は、段階的に進められる。
制圧。
再配置。
徴用。
順番は、崩さない。
滅ぼされた国の民は、分類される。
動ける者。
動けない者。
使える者。
使えない者。
感情は、計上されない。
最前線には、兵が集められる。
元の所属は問われない。
昨日まで敵だったかどうかも、考慮されない。
必要なのは、数だ。
作戦盤の上で、線が引き直される。
この地点は、不要。
この戦線は、短縮。
ここは、前提を変更。
「白を、ここに置く」
誰かが言った。
命令ではない。
提案でもない。
確認に近い。
誰も異を唱えなかった。
白が行けば、
ここは終わる。
それだけが、共有されている。
部隊は付けない。
補佐も付けない。
必要がない。
白が前に出る。
それを前提に、
後方の配置が組み替えられる。
戦闘は、短くなる。
被害は、減る。
数字は、整う。
報告書に残るのは、結果だけだ。
撃破数。
制圧完了。
次の配置。
白の名前は、書かれない。
書く必要が、ない。
別の場所では、
別の処理が、同時に進んでいる。
派手な外套の男が、
前線とは逆の街道を抑えている。
戦は起きていない。
だが、通れない。
別の地点では、
静かな槍が、橋を封じている。
壊さない。
奪わない。
ただ、渡らせない。
さらに遠く、
報告書の端にだけ記される戦場がある。
戦闘終了。
制圧完了。
詳細、省略。
どれも、
白とは関係のない場所だ。
だが――
同じ時刻に、
同じ速度で、
同じ精度で終わっている。
世界は、
それらを特別扱いしない。
それぞれが、
すでに役割を与えられている。
ただ、それだけだ。
◇
白い鎧が、進む。
号令は、ない。
合図も、ない。
敵が布陣する前に、
白が踏み込む。
隊列が整う前に、
戦場が終わる。
誰も、
武器を見ていない。
誰も、
動きを追えていない。
結果だけが、残る。
白は、止まらない。
守るためでも、
奪うためでもない。
理由は、問われない。
世界は、
白を理解しようとしない。
理解する必要が、ない。
白は、
人ではない。
英雄でもない。
脅威でもない。
ただの前提だ。
地図の上で、
一本の線が引かれる。
それが、
白の進行方向。
次の作戦が、
その線を前提に組まれる。
白い鎧は、
すでに視界の外にある。
誰も、
その背中を見送らない。
世界は、
何事もなかったように、
次へ進む。




