第二十話:商人たちの夜
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街道沿いの中立都市は、
戦から少しだけ距離があった。
だからこそ、
情報が集まる。
酒場の灯は明るく、
机の上には、
未確認の噂と確定した数字が並ぶ。
商人たちは、
杯を傾けながら、
戦況を肴にする。
利益になるか。
危険か。
今、動くべきか。
それだけだ。
「結局、最強はベイオスディアだろ」
年嵩の商人が、
当然のように言った。
「十神槍を抱えてる」
「戦線が崩れない」
「併合の速度が、異常だ」
誰も反論しない。
それは、もう前提だった。
「最近は、白の死神なんて呼ばれてるのもいるらしいな」
別の男が、
思い出したように付け足す。
「でかい白鎧で」
「一人で戦線を終わらせる、とか」
「噂だろ」
すぐに、別の声が被せる。
「盛ってる」
「そういうのは、いつもな」
「いや、でもな」
最初の男が、
指で机を叩いた。
「終わるって話は、複数から来てる」
「勝つ、じゃない」
「終わる、だ」
言い直す。
一瞬、
酒場の空気が止まる。
「……兵器扱いか」
誰かが、ぽつりと零した。
「そういうことだろ」
「英雄じゃねぇ」
「名前も、はっきりしない」
話題は、自然に移る。
「だが、分からんぞ」
若い商人が、
声を上げた。
「カラカルフィンが伸びてる」
「紫陽がいるだろ」
「ああ、あそこか」
別の男が頷く。
「この前も、隣国を一つ併合したって話だ」
「動きが早い」
「紫陽は、単独で戦況をひっくり返す」
「ベイオスディアとは、やり方が違う」
誰かが、面白そうに笑った。
「どっちが勝つか、賭けるか?」
冗談のような声。
だが、
誰も否定しない。
「……いや」
先ほど黙っていた男が、
ゆっくり口を開いた。
「もう一つ、ある」
視線が集まる。
「グインデルだ」
「聞かねぇな」
「無名だろ」
「今はな」
男は、杯を置く。
「だが、金と銀を抱えてる」
「サルディアと、モルフェイス」
ざわり、と空気が揺れた。
「二人いるのか」
「本物か?」
「本物だ」
「問題は、誰が最初にぶつけるか、だな」
誰も、
白の名を出さなかった。
だが、
話題の底には、
確かにそれがあった。
戦は、
国と国がやるものだ。
英雄が動かすものじゃない。
そういう前提で、
彼らは話をしている。
酒場は、騒がしい。
噂は、軽い。
だが――
その軽さのまま、
世界は、次の局面へ進もうとしていた。




