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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
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第十八話:白という兵器




 白い鎧は、前に出続けていた。

 だが――

 配置は、明確に変わっていた。


 部隊は、付かない。

 補佐も、最低限。


 代わりに飛んでくるのは、

 短い指示だけだった。


 ここを開けろ。

 ここを潰せ。


 それだけ。


 軍は、学び始めていた。


 白は、

 守るものではない。


 白は、

 使うものだ。


 戦場。


 敵が布陣する前に、

 白が前に出る。


 隊列が整う前に、

 白が踏み込む。


 違和感は、腰元から消えていた。


 そこに、刀はない。

 背にも、ない。


「あれ……武器はどこにあるんだ?」


 誰かが、思わず呟いた。


 次の瞬間。


 白の腕が、わずかに動いた。

 それだけだった。


 振りかぶりはない。

 踏み込みも、大きくない。


 ただ、腕が通った。


 前列が、崩れる。


 一人、二人ではない。

 まとめて、数十。


 誰も、斬られた瞬間を見ていない。


 音が、遅れて届く。

 倒れる音。

 血が落ちる音。


「……見えたか?」

「いや……腕、振っただけだ」

「……当たったのか?」


 誰も、答えられなかった。


 それが、常態になる。


 白が動く。

 敵が消える。


 理由は、問われない。


 噂は、形を変えていく。


 白は、近づくと終わる。

 白は、武器を見せない。

 白は、結果だけを残す。


 兵たちは、理解し始める。


 あれは、

 技ではない。


 処理だ。



 サダオミは、説明しない。


 脇差では、足りなかった。

 それだけの話だった。


 巨大な白鎧では、

 その位置にある武器に、

 意味はない。


 必要なのは、

 即座に引き抜けること。

 終わらせられること。


 空間に置いた刀を、

 抜いて、

 納める。


 それだけ。



 軍は、知ろうとしなかった。


 知る必要が、ない。

 使えればいい。


 白は、

 命令の前に置かれる。


 白が行けば、

 戦場は短くなる。


 被害は減る。

 数字が、整う。



 少し離れた場所から、

 その様子を見ている者がいる。


 派手な外套。

 気楽な立ち姿。


 サリド・ヤン。


「なあ」


 酒を煽りながら、軽く言う。


「最近の白、

 ちょっと変わってきてねぇか」


 隣にいた男が、視線を向ける。


 静かな目。

 ライアス・カッファ。


「前からだろ」


 短く返す。


「いや、そうじゃなくてさ」


 サリドは、肩をすくめた。


「前は、

 でかくて強い、だったろ」


 言葉を探す。


「今は……」


 少し間を置いてから続ける。


「触ったら、終わる、だ」


 ライアスは、答えなかった。


 戦場の方を見る。


 白い影が、前に出る。

 腕が、動く。

 敵が、消える。


 理由は、分からない。

 だが――

 視線が、外れなかった。


 ふと、思い出してしまう。


 あの踊り子の舞。

 間合いだけで場を制する、

 あの感覚。


 似ている、とは言えない。

 同じだと、断じる理由もない。


 それでも、

 胸の奥に、

 濁りが残った。


 白と踊り子が、

 親しいという噂を、

 思い出す。


 だからか。

 そう考えかけて――

 ライアスは、思考を止めた。


 気分が悪かった。

 理由を探すこと自体が。


 白は、白だ。

 踊り子は、踊り子だ。


 それ以上、

 考える必要はない。



 白い鎧は、

 何事もなかったように、

 次の指示を待っている。


 軍は、白を配置する。

 兵は、白を避ける。

 噂は、白を歪める。


 そして――

 白は、ますます前に出る。


 誰のためでもなく。

 理由を、持たないまま。



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