第十八話:白という兵器
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白い鎧は、前に出続けていた。
だが――
配置は、明確に変わっていた。
部隊は、付かない。
補佐も、最低限。
代わりに飛んでくるのは、
短い指示だけだった。
ここを開けろ。
ここを潰せ。
それだけ。
軍は、学び始めていた。
白は、
守るものではない。
白は、
使うものだ。
戦場。
敵が布陣する前に、
白が前に出る。
隊列が整う前に、
白が踏み込む。
違和感は、腰元から消えていた。
そこに、刀はない。
背にも、ない。
「あれ……武器はどこにあるんだ?」
誰かが、思わず呟いた。
次の瞬間。
白の腕が、わずかに動いた。
それだけだった。
振りかぶりはない。
踏み込みも、大きくない。
ただ、腕が通った。
前列が、崩れる。
一人、二人ではない。
まとめて、数十。
誰も、斬られた瞬間を見ていない。
音が、遅れて届く。
倒れる音。
血が落ちる音。
「……見えたか?」
「いや……腕、振っただけだ」
「……当たったのか?」
誰も、答えられなかった。
それが、常態になる。
白が動く。
敵が消える。
理由は、問われない。
噂は、形を変えていく。
白は、近づくと終わる。
白は、武器を見せない。
白は、結果だけを残す。
兵たちは、理解し始める。
あれは、
技ではない。
処理だ。
◇
サダオミは、説明しない。
脇差では、足りなかった。
それだけの話だった。
巨大な白鎧では、
その位置にある武器に、
意味はない。
必要なのは、
即座に引き抜けること。
終わらせられること。
空間に置いた刀を、
抜いて、
納める。
それだけ。
◇
軍は、知ろうとしなかった。
知る必要が、ない。
使えればいい。
白は、
命令の前に置かれる。
白が行けば、
戦場は短くなる。
被害は減る。
数字が、整う。
◇
少し離れた場所から、
その様子を見ている者がいる。
派手な外套。
気楽な立ち姿。
サリド・ヤン。
「なあ」
酒を煽りながら、軽く言う。
「最近の白、
ちょっと変わってきてねぇか」
隣にいた男が、視線を向ける。
静かな目。
ライアス・カッファ。
「前からだろ」
短く返す。
「いや、そうじゃなくてさ」
サリドは、肩をすくめた。
「前は、
でかくて強い、だったろ」
言葉を探す。
「今は……」
少し間を置いてから続ける。
「触ったら、終わる、だ」
ライアスは、答えなかった。
戦場の方を見る。
白い影が、前に出る。
腕が、動く。
敵が、消える。
理由は、分からない。
だが――
視線が、外れなかった。
ふと、思い出してしまう。
あの踊り子の舞。
間合いだけで場を制する、
あの感覚。
似ている、とは言えない。
同じだと、断じる理由もない。
それでも、
胸の奥に、
濁りが残った。
白と踊り子が、
親しいという噂を、
思い出す。
だからか。
そう考えかけて――
ライアスは、思考を止めた。
気分が悪かった。
理由を探すこと自体が。
白は、白だ。
踊り子は、踊り子だ。
それ以上、
考える必要はない。
◇
白い鎧は、
何事もなかったように、
次の指示を待っている。
軍は、白を配置する。
兵は、白を避ける。
噂は、白を歪める。
そして――
白は、ますます前に出る。
誰のためでもなく。
理由を、持たないまま。




