第十六話:白の死神
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次に配属された部隊は、前よりも落ち着いていた。
新兵ではない。
戦場をいくつも越えてきた顔だ。
無駄な声も、余計な期待もない。
整列した兵たちは、白い鎧を見て、
静かに頭を下げた。
敬意ではない。
理解だ。
前に立つ者が、
ただの駒ではないと知っている目だった。
「……よろしくお願いします」
誰かが言った。
サダオミは、少しだけ間を置いてから答える。
「……前に出すぎるな」
前と同じ言葉。
だが、今度は笑いは起きなかった。
戦場。
配置。
判断。
結果。
すべてが、合理的だった。
それでも――
戻った時、
残っていたのは、サダオミ一人だった。
説明は、なかった。
配置が悪かった。
判断が遅れた。
敵が多かった。
理由はいくつも並べられる。
だが、
結果は変わらない。
次も、同じだった。
次も。
また、次も。
部隊が付く。
戦場に出る。
白が前に立つ。
戦果は上がる。
主戦線は崩れる。
――背後で、何かが終わっている。
もっと速く。
もっと前に。
もっと深く。
サダオミの中で、
それだけが、繰り返される。
次の合流地点。
兵が、視線を逸らした。
わずかな沈黙。
「……名乗らなくていい」
サダオミは、先に言った。
低く、淡々と。
「どうせ、すぐいなくなる」
兵たちは、一瞬だけ固まった。
だが、
誰も反論しなかった。
否定も、怒りもない。
ただ、理解があった。
結果は、同じだった。
生き残るのは、
いつも白い鎧だけだった。
噂が、流れ始める。
最初は、小さく。
「……白の下についた部隊、
全滅してないか?」
「戦果は出るんだよ」
「でも、生き残らない」
「一人だけだ」
「白だけが、戻ってくる」
誰かが、冗談めかして言った。
「……そんなの、死神じゃねぇか」
笑いは、起きなかった。
冗談として、受け取れなかった。
呼び方が、変わる。
遠目に見えた時は、
――白。
近くで見た者は、
――白の死神。
口にするのを憚る者は、
――化け物。
サダオミは、気づいていた。
人が、近づかなくなっている。
視線が、交わらなくなっている。
それでいい。
そう思った。
それなら、
誰も背負わずに済む。
白い鎧は、
今日も前に出る。
理由は、もう考えない。
考える必要が、なくなった。
生き残るのは、
白だけ。
それが、
戦場の常識になりつつあった。
そして――
その異常な常識を、
遠くから見ている者がいることを、
サダオミはまだ、知らない。




