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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
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第十五話:名前をよぶ前に




部隊は、思ったより少人数だった。

新兵が多い。

装備も、まだ新しい。


それでも、整列した彼らの視線は、

一点に集まっていた。

白い鎧の前に。


「……あ、あの!」


最初に声を上げたのは、

一番若い兵だった。

緊張で、声が裏返っている。


「俺、噂で聞いてました!

 白の巨人の部隊に入れるって!」


周囲が、どっと笑う。


「おい、言い過ぎだろ!」

「でも本当だろ!」


誰かが言う。


「前の戦、見ました!

 あれ、一人で戦線ひっくり返してましたよね!」


サダオミは、何も言わない。

兜の奥から、彼らを見る。


若い。

生きている。


「俺たち、運がいいですよね!」


別の兵が、無邪気に続ける。


「こんな人の下につけるなんて!」

「生きて帰れますよ、絶対!」


自信満々の声。

根拠はない。

だが、不安もない。


サダオミは、口を開いた。


「……前に出すぎるな」


それだけだった。


一瞬、空気が止まる。

だが、すぐに誰かが笑う。


「分かってますって!」

「ちゃんとついていきますから!」


その言葉が、

なぜか胸に残った。


移動中も、彼らはよく喋った。


家族の話。

帰ったらやりたいこと。

酒場の噂。


「終わったら、あの店行きません?」

「俺、金貯めてて!」


未来の話ばかりだった。


野営。

火を囲み、

乾いたパンを齧る。


誰かが、ふと聞いた。


「……名前、聞いていいですか?」


サダオミは、少しだけ間を置いた。


「サダオミだ」


それ以上は、言わない。


部下たちは、嬉しそうに頷いた。


「俺は――」

「俺は――」


名前が、次々に出る。


サダオミは、

覚えようとしなかった。


覚えてしまうと、

後が困る。



命令は、あっさり下った。


「白は、こちらだ」


指が示すのは、

主戦線。


「残りは、別方向から回り込め」


地図上では、

合理的な配置だった。


「……了解しました」


誰かが言う。

誰かが、サダオミを見る。


期待と、信頼。


一瞬だけ、

言葉が喉まで上がった。


だが、

出なかった。


命令は、命令だ。


戦場は、騒がしかった。


白い鎧は、前に出る。

斬る。

押す。

崩す。


いつも通りだ。


戦線は、予定より早く終わった。

だが――



戻った場所には、

誰もいなかった。


倒れた兵。

崩れた陣。

血の匂い。


声を出そうとして、

やめた。


名前を、

一つも呼べなかった。


呼ぶ前に、

終わっていた。


サダオミは、立ち尽くす。


白い鎧が、

戦場の真ん中に立っている。


生き残ったのは、

一人だけだった。


刀を、下ろす。


遅かった。

それだけだ。


白い影は、

何も言わずに、前を向く。


次は、

もっと前に出る。


そうしなければ、

また、同じことが起きる。

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