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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
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第十話:灯の外へ




朝の酒場は、まだ静かだった。


夜の名残が床に残り、

酒と汗の匂いが、薄く混じっている。


サダオミは、いつもより少し遅く店に出た。


身体は軽い。

気持ちは、重い。



客は、もう来ていた。


早い時間だというのに、

昨日の顔が、いくつもある。


椅子は中央を空けて並び、

視線は、無意識にそこへ向いている。


――待っている。


サダオミは、その空気を一目で理解した。


「今日は、どうする」


ダンおじさんが、いつもの調子で言った。


昨日の続きのような声。

帳面を脇に置き、酒樽に手を伸ばしながら。


「……まだ、決めてません」


嘘ではなかった。


もう、答えは出ている。

だが、それを口にする準備が、まだ整っていない。


「決めとけ」


ダンおじさんは、軽く言う。


「客は来てる」


事実だった。


「今日も、いい日だ」


その言葉に、悪意はない。


だからこそ、

サダオミの胸は、静かに痛んだ。


皿を運ぶ。

酒を注ぐ。

視線を受ける。


どれも、昨日までと同じだ。


違うのは――

自分が、その中心に立つつもりがないこと。


「なあ」


客の一人が、遠慮なく声をかけてきた。


「今日はやらねぇのか」


周囲の会話が、わずかに止まる。


サダオミは、足を止めなかった。


「今日は、やりません」


淡々と答える。


「昨日も見たぞ」


「今日は、やりません」


繰り返す。


理由は言わない。

説明もしない。


ざわめきが、戻る。


だが、その中に

落胆と、苛立ちが混じり始めるのを、

サダオミは感じていた。


ダンおじさんが、こちらを見る。


視線が合う。

ほんの一瞬。


言葉はない。


だが――

理解されないということだけは、

はっきり伝わった。







その夜。


サダオミは、川原にいた。


白い鎧を取り出し、

黙々と磨く。


布が白くなる。

光が戻る。


その繰り返し。


「……やっぱり」


ぽつりと呟く。


「ここじゃないな」


答えは、返ってこない。


だが、否定もされない。


それで、十分だった。


酒場の灯は、まだ灯っている。


人も、金も、噂も集まっている。


――だが。


それを守るために舞う自分は、

もう、ここにはいない。


サダオミは、立ち上がった。


次にここを出るとき、

自分はもう、戻らない。


その確信だけを胸に、

川原を後にした。

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