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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
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第九話:私物化された灯




酒場は、相変わらず賑わっていた。


賑わってはいる。

だが、どこか落ち着かない。


笑い声は大きい。

杯の音も多い。


それなのに――

空気が軽い。


サダオミは、カウンターの内側でその違和感を噛みしめていた。


金が落ちている。

確かに、前よりずっと。


だが、

その金が“どこから来ているのか”を、

誰も気にしなくなっている。



「これでよし」


ダンおじさんが、帳面を閉じた。


分厚くなった帳面。

頁をめくる指が、以前よりも軽い。


「今日も満席だ」


「……そうですね」


サダオミは、曖昧に頷いた。


「なぁ」


ダンおじさんが、声を落とす。


「今日は、やるんだろ?」


サダオミは、手を止めた。


「……決めてません」


「決めろ、今日はそういう日だ」


即答だった。


悪気はない。

命令でもない。


ただ――

“当然”のような口調。


「今日は、あいつらも来てる」


顎で示された先。


サリドの派手な外套。

その隣に、あの無口な男。


黙って、見ている。


サダオミは、視線を逸らした。


「一回だ」


ダンおじさんが言う。


「一回舞えば、今日は全部片付く」


「……何がですか」


「借りだよ」


さらりと言う。


「仕入れも、修繕も、

 次の分の酒もな」


サダオミは、胸の奥で何かが軋むのを感じた。


――借り。


いつから、

自分の舞が“返済”になった?


「俺がな」


ダンおじさんは、少し声を低くした。


「あんたを拾った」


それは事実だ。


「飯も、寝床も、仕事も出した」


それも、事実だ。


「だから――」


その先を、サダオミは聞かなかった。


「……わかりました」


口が、勝手に動いた。


自分の意思かどうか、

もう、よくわからなかった。



衣装に袖を通す。


薄い布。

視線を引き寄せる形。


鏡に映る自分を、

サダオミは長く見なかった。


見れば、

何かが決定的に変わる気がした。



舞は、拍手で迎えられた。


期待。

欲。

熱。


それらが、混じり合って空気を満たす。


サダオミは、舞った。


足運びは正確だ。

間合いも狂っていない。


だが、

“見せるための舞”になっていることを、

自分が一番よくわかっていた。


舞が終わる。


歓声。

金貨の音。


ダンおじさんは、満足そうだった。

サリドは、楽しげに笑っている。


だが。


無口な男は、

一度も拍手をしなかった。


ただ、

サダオミを見ていた。


評価でも、欲でもない。


――理解しようとする目。


サダオミは、なぜか目を逸らした。







その夜。


川原。


白い鎧を磨く。


磨く。

磨く。


布が白くなるたび、

胸の奥のざらつきが、少しだけ削られる。


「……ここには、長くいられないな」


自然と、そう呟いていた。


鎧は、答えない。

ただ、白く光る。


サダオミは、

その胸部に額を預ける。


――もう、恩は返した。


そう、

自分に言い聞かせるように。


灯は、まだ灯っている。


だが――

それはもう、

守るための灯じゃなかった。

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