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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
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第二話:無名の始まり




 ――困らないな。


 そう思って歩き出して、


 十数分後。


 サダオミは立ち止まった。


「……あ」


 声に出してから、気づいた。


 金が、ない。


 正確に言うなら、


 一文無しだ。


「……ないわぁ……」


 力なく、呟く。


 少し考える。


 腹は、まだ減っていない。


 野宿も、正直なところ慣れている。


 このまま一晩くらいなら、どうとでもなる。


 だが。


 いずれ腹は減る。


 水も必要になる。


 そして何より、


 この世界で動くには、金が要る。


「……となると」


 盗む、は論外。


 奪う理由もない。


 残る選択肢は、一つだった。


「働くしかない、か」


 ため息混じりに呟き、


 街道の先へ視線を向ける。


 人が集まる場所。


 仕事がありそうな場所。


「……まずは職場探しかな」


 自分でも妙に冷静だと思う。


 だが、こういう時ほど、


 焦ってもろくなことにならない。


 サダオミは歩き出した。







 城壁が見えた。


 高くはないが、厚みのある石壁。


 無駄な装飾はなく、補修の跡が目立つ。


 ――使われ続けている。


 サダオミはそう感じた。


 人の往来は多いが、だらけた空気はない。


 門を守る兵の立ち姿も、どこか無駄がなかった。


「……ここ、強いな」


 根拠はない。


 ただ、そう思った。


 街門の前には短い列ができていた。


 行商人。


 旅人。


 家族連れ。


 サダオミはその最後尾に並ぶ。


 白アーマーは空間に収納している。


 今の装いは、この世界に溶け込む簡素な服だけだ。


 やがて順番が来る。


 門番が顔を上げ――


 一瞬、止まった。


 もう一人の門番も、遅れて視線を上げ、


 同じように言葉を失う。


 サダオミは、その理由を考えていない。


「……通っていいですか?」


 ようやく門番の一人が咳払いをした。


「旅の方か?」


「はい。仕事を探しに」


 嘘ではない。


 門番はもう一人と視線を交わす。


 武器は見当たらない。


 鎧もない。


 だが――


 弱そう、とは思えなかった。


「身分証は?」


「ないです」


 正直に答える。


 門番は一瞬迷い、


 それから肩をすくめた。


「街で問題を起こすなよ」


「気をつけます」


 それだけで、通された。







 街の中へ、一歩踏み出した瞬間。


 空気が、変わった。


 ざわり、と。


 音ではなく、視線が動いた感覚。


 前から。


 横から。


 背後から。


「……あ」


 そこで、思い出す。


 ――そうだ。


 今の自分は、


 この世界基準で見れば、かなり目立つ。


 白アーマーを脱いだあとの姿。


 髪も、顔立ちも、体格も。


「……そうだったな、これ」


 小さく呟く。


 門の前では忘れていた。


 忘れようとしていた、と言った方が正しい。


 だが街に入った途端、


 人の多さがそれを許さなかった。


 視線は好奇のもの。


 値踏みするようなもの。


 中には露骨な欲を含んだものもある。


 慣れていない。


 だが、動揺もしない。


 ただ、少しだけ居心地が悪い。


「……目立つな」


 サダオミは歩調を落とさず、


 無意識に人通りの多い方へ進路を変えた。


 孤立するのは、


 こういう時にろくなことにならない。



「ねえ」


 背後から声がかかる。


 距離が、近い。


 サダオミは足を止めず、


 ほんの少しだけ首を回した。


「はい?」


 声をかけてきたのは、


 身なりの整った男だった。商人だろう。


「旅の人?」


「そんな感じです」


 肯定も否定もしない。


「案内しようか。宿とか、飯とか」


 なるほど、と内心で頷く。


 サダオミは一瞬だけ考え、


 相手の視線を正面から受け止めた。


「助かります。


 ただ……お金がなくて」


 正直に言う。


 男の眉が、わずかに動く。


「働ける場所を探してます。


 今日明日をしのげれば十分なので」


 余計なことは言わない。


 目的だけを置く。


 男は数秒、サダオミを眺め、


 それから肩をすくめた。


「それなら酒場だな」


「酒場?」


「人手が足りないところが多い。


 皿洗いでも、配膳でもな」


「……ありがとうございます」


 深追いされる前に、一歩引く。


 距離感は、悪くない。







 通りを進むと、


 賑やかな音が聞こえてきた。


 笑い声。


 食器の音。


 酒の匂い。


 サダオミは、その建物を見上げる。


「……まずは、ここからだな」


 そう呟いて、


 酒場の扉を押した。


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