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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
79/121

第一話:白の降臨

ここから3部開始です。




 風が吹いていた。


 草原だ、とサダオミは思った。

 丈の短い草が一面に広がり、遠くには低い丘が連なっている。

 空は高く、雲の流れはゆっくりだ。


 ――静かすぎる。


 戦場でもなく、街道でもない。

 人の気配が、ない。


 サダオミはその場で一度、深く息を吸った。


「……あと一つ、確認しておくことがあるな」


 独り言のように呟き、背中に意識を向ける。


 天使として世界に降りた直後、

 必ず行う確認がある。


 意識を集中させる。

 力を“出す”というより、“通す”感覚。


 ――翼。


 だが。


 何も起こらなかった。


 風が草を揺らすだけで、

 背後に重さは生まれない。

 空気の抵抗も、魔力の流れも、

 何一つ感じられなかった。


「……出ない、か」


 小さく息を吐く。


 概念がない世界、という可能性はある。

 だが、それにしては感触がなさすぎた。


 “拒否された”のではない。

 “呼ばれてすらいない”。


 サダオミは眉を寄せる。


 ――もう一つ。


 今度は、もっと根源的な確認だ。


 周囲を見回す。


 草原、空、丘。

 そして――人。


 いない。


 正確には、

 “誰が主人公か”が、まったく掴めない。


 通常なら、世界に降りた瞬間にわかる。

 近くにいるのか、遠くにいるのか。

 あるいは、まだ出会っていないだけなのか。


 だが今は、

 その“引っかかり”自体が存在しなかった。


「……はは」


 乾いた笑いが漏れる。


「これは、明らかにおかしいな」


 翼が出ない。

 主人公がわからない。


 ――異常だ。


 ここでようやく、

 サダオミは自分の身体に違和感を覚えた。


 視界の端に、白が映る。


 視線を落とす。


 そこにあったのは、

 純白の装甲だった。


 胸部、腹部、脚部。

 無駄な装飾のない、

 異様なまでに滑らかな曲線。


 白一色。

 だが、生物的な柔らかさではなく、

 完全に“外装”としての白。


「……なんだ、これ」


 サダオミは、ゆっくりと自分の腕を動かす。


 重い。


 いや、重いのに――動く。


 関節の駆動は驚くほど滑らかで、

 自分の意思が遅延なく伝わる。


 装備している、という感覚じゃない。

 乗り込んでいる。


 そう表現した方が、しっくりきた。


 指を握ると、

 白い装甲の指も同時に動く。


 感覚は、ある。


 皮膚の上から触れているのではなく、

 感覚そのものが、

 装甲の先端まで延びているようだった。


「……目立ちすぎだろ」


 苦笑する。


 全身を覆う純白。

 さらに、頭部。


 フルフェイスの兜。

 白を基調に、

 額から後頭部にかけて真紅の装飾が走っている。


 角とも、冠とも取れる形状。


 ――どう見ても、隠密向きじゃない。


 背中に違和感があった。


 振り返る必要はない。

 もう、わかっている。


 大太刀。


 だが、普段よりも距離が近い。

 いや、近すぎる。


「……間合い、変わるな」


 この装甲サイズで、あの刀。

 扱える。


 だが、

 今までと同じ感覚では無理だ。


 サダオミは一度、深く息を吐いた。


「……便利魔法は」


 試すしかない。


 指先に意識を集める。

 魔力を“引き出す”。


 普段より、薄い。

 はっきりと、希薄だ。


 だが――ゼロじゃない。


「……いけるな」


 空間収納。

 マリダリフの便利魔法。


 意識を通すと、

 白アーマーがゆっくりと輪郭を失い、

 空間へと沈んでいった。


 重量が、一気に消える。


 代わりに現れたのは、

 この世界に溶け込む程度の、

 簡素な衣服。


 サダオミは、自分の身体を見下ろす。


「……よし」


 魔法は使える。

 翼は出ない。

 主人公は不明。


 異常は、確定だ。


 だが。


「困るかって言われると……困らないな」


 そう呟いて、前を向く。


 草原の向こうに、

 街がある気がした。


 理由はない。

 勘だ。


 そして、

 こういう時の勘は、

 だいたい当たる。


 サダオミは歩き出した。


 この世界の“異常”の中へ。


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