天界 Ⅲ・前編
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───終わった、か。
光の中で、そう思った。
後悔はなかった。
自分で決めたところまでは、やり切った。
時間の感覚は、相変わらず曖昧だ。
だが、不意に聞こえてきたオルゴールの音色が、
思考を静かに整えていく。
───天界の音だ。
その音を合図に、記憶が揃っていく。
自分がどこから来て、どこへ戻ったのか。
視界が晴れる。
白い回廊。
均一な光。
見覚えのある、天界の風景。
定臣は、帰還していた。
周囲には他の天使の気配もある。
だが、今は誰とも話す気にならなかった。
『戻ったか』
背後から、短い声。
振り返らなくても分かる。
小波透哩だ。
「……ああ」
それだけ答えて、定臣はその場に腰を下ろした。
床は硬いが、気にならない。
少し、間が空く。
『今回は、早かったな』
「自分で決めたゴールがあったからな」
『ふうん』
それきり、透哩は黙った。
定臣は、透哩の方を見ないまま続ける。
「なあ」
『なんだ』
「一つだけ聞かせてくれ」
どうせ答えは返ってこない。
それでも、聞いておくべきだと思った。
「……向こうにいた時」
ほんの一拍、間を置く。
「なんで、お前が降りてきてたんだ?」
『……』
返事はない。
だが、立ち去る気配もなかった。
「……いや、なんでもないかな」
定臣はそれ以上追及せず、
視線を前に戻す。
しばらく、何も起こらない時間が流れた。
透哩は、答えなかった。
触れもしなかった。
だが、その場を離れもしなかった。
───あれ?
定臣は、ほんの一瞬だけ思う。
今日の透哩、
もしかして、機嫌いいのか?
もちろん、確信なんてない。
そんなことを考えた自分に、
少しだけ苦笑して――




