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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
ラナクロア
72/120

任せるね




 城の廊下は、やけに静かだった。


 朝から続く政務の時間帯だというのに、

 人の気配が薄い。


 執務室の扉の前で、少しだけ立ち止まる。


 中ではきっと、

 今日もルブランが机に向かっている。


 ――ノックは、しない。

 今さらだ。


 扉を開けると、

 机に向かっていたルブランが顔を上げた。


「……定臣様?」


 一瞬、驚いたような顔。

 でもすぐに、いつもの端正な表情に戻る。


「どうされましたか。

 何か問題が――」


「問題はないよ」


 短く答える。

 それで十分だったらしく、

 ルブランはそれ以上、言葉を続けなかった。


 沈黙。


 窓から差し込む光が、

 机の上の書類を照らしている。


「ね」


 ふと思いついたみたいに、

 俺は言った。


「少し、一緒にいようよ」


 それだけ。

 理由も、期限も、説明もない。


 ルブランは瞬きを一つしてから、

 小さく息を吸った。


「……はい」


 ただ、それだけ答えた。


 それからの時間は、

 本当に何もなかった。


 同じ部屋にいて、

 同じ景色を見て、

 時々、書類をめくる音だけが響く。


 言葉は、ない。


 でも――

 ルブランは、もう分かっていた。


 この沈黙が、

 この「何も言わない時間」そのものが、

 別れなのだと。


 やがて、

 俺は立ち上がる。


「……そろそろ、行くね」


 ルブランは立たなかった。

 ただ、視線を下げたまま、静かに言う。


「はい」


 扉に手をかけて、

 最後に一言だけ残す。


「あとは、お願いね?」


 ルブランの肩が、

 ほんのわずかに揺れた。


「――お任せください」


 顔は上げない。

 でもその声には、迷いがなかった。


 扉を閉める。


 その向こうで、

 彼女が長く息を吐いた気配がした。


 ――それでいい。

 もう、言葉はいらない。

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