それぞれの帰り道
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謁見の間は広い。
広いくせに、今日は妙に人の声がする。
形式は終わっている。
王も、騎士も、言葉としての儀礼は片付いた。
なのに空気が固まらないのは――
華勇者PTが、いつも通りに“いつも通り”だからだ。
「え、だから海はね!」
「その話さっきも聞いたぞ」
「聞かせたいのよっ!」
笑い声が重なる。
場に、余計な緊張が残らない。
――だからこそ、助かる。
◇
定臣は、星勇者PTの方へ歩いた。
呼ばれたわけじゃない。
ここで区切る。
それだけを、やりに来た。
◇
最初に視線が合ったのは、
オルティス・クライシスだった。
柔らかな笑顔。
けれど、今日は少しだけ奥が固い。
「行くのですね」
「行く行く。ここにいると仕事が増えるしね」
「勇者の仕事は減りませんよ?」
「だから逃げるんだよ」
オルティスは苦笑してから、
少しだけ真面目になる。
「……ありがとう」
「それ、俺に言うと割に合わないぞ」
「承知の上です」
一拍。
それ以上、言葉は続かなかった。
続ければ、余計なものになる。
◇
次に一歩出てきたのは、
クレハ・ラナトスだった。
肩の力は抜けている。
いつもの、少し軽い笑み。
「若は不器用だからなぁ~」
「知ってる。まったく面倒なタイプだよ」
「ははっ」
――一瞬。
クレハの表情から、冗談の色が消える。
「……でも信じていいんだぜ?」
短い沈黙。
その一言だけで、
言いたいことは全部伝わった。
次の瞬間、
またいつもの調子に戻る。
「まっ、心配しなくても
置いていったものはこっちの方で
なんとか拾うからよぉ」
「ありがと、助かるよ」
「遠慮せず戻ってきてもいいんだぜ?」
「ははっ、考えとくよ」
それで終わりだった。
約束はしない。
でも、道は残した。
◇
ドナポス・ニーゼルフが続く。
騎士団長ではない。
一人の男として、向き合っている。
「サダオミ殿」
「その呼び方、今はいらないですよ」
「……サダオミ」
それだけで、空気が少し変わる。
「あなたが示した“線”は、国に残りました」
「俺は、きっかけにすぎないよ」
「それで足ります」
深い礼。
だが、形式ではない。
「そんなに頭下げると腰を痛めるよ」
「がはは、ここまでにしておきますか」
ドナポスは相変わらずな笑顔を咲かせた。
◇
腕を組み、壁に寄りかかっていた
ミレイナ・ルイファスが口を開く。
「チャッピー……うまくやったな」
「褒めてくれてます?」
「相応の評価だ」
即答。
尊大。
いつもの様子。
「私から言うことは特にない」
「どうせわかっていますしね」
「だから」
一拍置いて、視線を向ける。
「勝手に消えるな。観測できなくなる」
「やだなー、こわいなー」
「ふんっ」
赤髪の小覇王は、今日も素直じゃない。
◇
最後に、
セナキがひょこっと顔を出す。
「ねー定臣」
「なんだ」
「君ってさ、やっぱり変だよ」
「今さら?」
「うん。でも面白かった」
「それならよかった」
「以上!」
「そういうとこやっぱりシアに似てるよね」
セナキは満足そうに笑った。
◇
星勇者PTは、
誰かの合図もなく、自然に場を引いていく。
見送りはない。
改まった言葉もない。
最後にオルティスが、軽く手を上げた。
定臣も、同じように返す。
それだけ。
扉が閉まる。
◇
謁見の間に残ったのは、
華勇者PTの面々だった。
空気が、少しだけ緩む。
「さて」
定臣が息を吐く。
「場所、移すか」
「ジョナサンだねっ!」
「声がでかい」
「いいじゃない!」
笑い声が戻る。
――別れは終わった。
次は、軽い余韻だ。
◇
――そして。
◇
ジョナサンが引く迎賓室。
扉を開けた瞬間、
定臣は小さく息を吐いた。
ミレイナが、
いつもの特等席に、既に座っていた。
「……早いですね」
「とっくにだ」
即答。
偉そう。
いつも通り。
「早くないですか」
「遅い」
華勇者PTが次々と入ってくる。
「え、なにこれ二次会?」
「二次会だねっ!」
「勝手に決めるな」
「いいじゃない!」
椅子に腰を下ろし、
飲み物を手に取り、
どうでもいい話が始まる。
海の話。
馬車の話。
しょうもない言い合い。
笑って、
少しだけ黙って、
また笑う。
ふと、
誰かが言葉を止める。
それで、
全員が理解した。
ここまでだ。
◇
「じゃあ」
定臣が立ち上がる。
「各自、帰ろう」
「……あっさりだな」
「長引かせると面倒だろ」
「確かに」
それぞれが、
それぞれの場所へ戻っていく。
振り返らない。
呼び止めない。
ここでの別れは、
ちゃんと終わった。
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