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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
ラナクロア
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それぞれの帰り道


 謁見の間は広い。

 広いくせに、今日は妙に人の声がする。


 形式は終わっている。

 王も、騎士も、言葉としての儀礼は片付いた。


 なのに空気が固まらないのは――

 華勇者PTが、いつも通りに“いつも通り”だからだ。


「え、だから海はね!」

「その話さっきも聞いたぞ」

「聞かせたいのよっ!」


 笑い声が重なる。

 場に、余計な緊張が残らない。


 ――だからこそ、助かる。



 定臣は、星勇者PTの方へ歩いた。

 呼ばれたわけじゃない。


 ここで区切る。

 それだけを、やりに来た。



 最初に視線が合ったのは、

 オルティス・クライシスだった。


 柔らかな笑顔。

 けれど、今日は少しだけ奥が固い。


「行くのですね」

「行く行く。ここにいると仕事が増えるしね」

「勇者の仕事は減りませんよ?」

「だから逃げるんだよ」


 オルティスは苦笑してから、

 少しだけ真面目になる。


「……ありがとう」

「それ、俺に言うと割に合わないぞ」

「承知の上です」


 一拍。

 それ以上、言葉は続かなかった。

 続ければ、余計なものになる。



 次に一歩出てきたのは、

 クレハ・ラナトスだった。


 肩の力は抜けている。

 いつもの、少し軽い笑み。


「若は不器用だからなぁ~」

「知ってる。まったく面倒なタイプだよ」

「ははっ」


 ――一瞬。

 クレハの表情から、冗談の色が消える。


「……でも信じていいんだぜ?」


 短い沈黙。

 その一言だけで、

 言いたいことは全部伝わった。


 次の瞬間、

 またいつもの調子に戻る。


「まっ、心配しなくても

 置いていったものはこっちの方で

 なんとか拾うからよぉ」

「ありがと、助かるよ」

「遠慮せず戻ってきてもいいんだぜ?」

「ははっ、考えとくよ」


 それで終わりだった。

 約束はしない。

 でも、道は残した。



 ドナポス・ニーゼルフが続く。

 騎士団長ではない。

 一人の男として、向き合っている。


「サダオミ殿」

「その呼び方、今はいらないですよ」

「……サダオミ」


 それだけで、空気が少し変わる。


「あなたが示した“線”は、国に残りました」

「俺は、きっかけにすぎないよ」

「それで足ります」


 深い礼。

 だが、形式ではない。


「そんなに頭下げると腰を痛めるよ」

「がはは、ここまでにしておきますか」


 ドナポスは相変わらずな笑顔を咲かせた。



 腕を組み、壁に寄りかかっていた

 ミレイナ・ルイファスが口を開く。


「チャッピー……うまくやったな」

「褒めてくれてます?」

「相応の評価だ」


 即答。

 尊大。

 いつもの様子。


「私から言うことは特にない」

「どうせわかっていますしね」

「だから」


 一拍置いて、視線を向ける。


「勝手に消えるな。観測できなくなる」

「やだなー、こわいなー」

「ふんっ」


 赤髪の小覇王は、今日も素直じゃない。



 最後に、

 セナキがひょこっと顔を出す。


「ねー定臣」

「なんだ」

「君ってさ、やっぱり変だよ」

「今さら?」

「うん。でも面白かった」

「それならよかった」

「以上!」

「そういうとこやっぱりシアに似てるよね」


 セナキは満足そうに笑った。



 星勇者PTは、

 誰かの合図もなく、自然に場を引いていく。


 見送りはない。

 改まった言葉もない。


 最後にオルティスが、軽く手を上げた。

 定臣も、同じように返す。


 それだけ。

 扉が閉まる。



 謁見の間に残ったのは、

 華勇者PTの面々だった。


 空気が、少しだけ緩む。


「さて」

 定臣が息を吐く。

「場所、移すか」

「ジョナサンだねっ!」

「声がでかい」

「いいじゃない!」


 笑い声が戻る。


 ――別れは終わった。

 次は、軽い余韻だ。


 ――そして。


 ジョナサンが引く迎賓室。


 扉を開けた瞬間、

 定臣は小さく息を吐いた。


 ミレイナが、

 いつもの特等席に、既に座っていた。


「……早いですね」

「とっくにだ」


 即答。

 偉そう。

 いつも通り。


「早くないですか」

「遅い」


 華勇者PTが次々と入ってくる。


「え、なにこれ二次会?」

「二次会だねっ!」

「勝手に決めるな」

「いいじゃない!」


 椅子に腰を下ろし、

 飲み物を手に取り、

 どうでもいい話が始まる。


 海の話。

 馬車の話。

 しょうもない言い合い。


 笑って、

 少しだけ黙って、

 また笑う。


 ふと、

 誰かが言葉を止める。


 それで、

 全員が理解した。


 ここまでだ。



「じゃあ」

 定臣が立ち上がる。


「各自、帰ろう」

「……あっさりだな」

「長引かせると面倒だろ」

「確かに」


 それぞれが、

 それぞれの場所へ戻っていく。


 振り返らない。

 呼び止めない。


 ここでの別れは、

 ちゃんと終わった。


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