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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
ラナクロア
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同じ未来をみていた

 ――その時は、まだ分からなかった。


 あの場で、

 何が担保され、

 何が閉じられたのか。


 ただ、

 確かなことが一つだけあった。


 あの瞬間から、

 取り返しのつかない未来が、

 静かに固定されたということだ。

 ――あとになって、

 ミレイナは、あの光景を何度も思い返すことになる。

 あれは、魔法じゃなかった。

 少なくとも、

 彼女の知る魔法ではない。





 謁見の間を離れてからも、

 記憶はやけに鮮明だった。

 身体が、

 そこに在った。

 ただそれだけのことなのに、

 世界の理屈が、

 一つ、置き去りにされたような感覚だけが残っている。


 魔力の痕跡はない。

 召喚の残り香も、

 構築の揺らぎもない。

 それなのに、

 血が巡り、

 呼吸があり、

 確かに「生きている」。

 幻影ではない。

 代替でもない。

 最初から、

 そうであったかのように。


 ミレイナは、

 自分が震えていることに気づいて、

 ようやく視線を落とした。

 ――見たことがない。

 魔法でも、

 奇跡でも、

 権能でもない。

 分類できないものを、

 彼女は初めて見た。


 だからこれは、

 回想だ。

 誰にも話していない。

 記録にも残らない。

 ただ、

 ミレイナの中に残ってしまったもの。


 あの場に、

 身体を得た存在がいた。

 それが何であれ、

 少なくともその瞬間、

 “人の形”をしていた。





「……お前、もしかして」

 血を司る魔王は、

 一度だけ相手の姿を確かめるように見てから、

 言葉を選んだ。

 深刻というより、

 それ以上考えないようにした時の顔だ。


「それならさ」

 溜息混じりに、

 視線を逸らしたまま続ける。

「回りくどく説得するくらいなら、

 最初から正体を明かせばよかっただろ」


 前魔王は、

 ほんの少しだけ目を細めた。

 怒ってはいない。

 責めてもいない。

 ただ、

 ずっと昔から知っている癖を見つけた、

 そんな顔だった。

「だってあなた」

 声は静かだった。

「昔から、

 言っても聞かなかったじゃない」


「それは――」

 血の魔王が言いかけて、

 言葉を失う。

 反射的に、

 いつもの言い訳を探してしまった自分に、

 気づいてしまったからだ。


「ほら」

 前魔王は、

 視線を逸らさずに続けた。

「今も、そういう顔してる」


 血の魔王は、

 口を閉じた。

 反論はできたはずだ。

 理屈も、正論も。

 それでも、

 何も言えなかった。

 ――図星だった。


 ミレイナは、

 そのやり取りを、

 すべて見ていた。

 呪いの話じゃない。

 世界の話でもない。

 ただ、

 長い時間、

 すれ違い続けた二人の会話。


 それでも、

 二人は同じ場所に立っていた。

 対立ではない。

 断絶でもない。

 選び方を間違えたまま、

 同じ未来を見ていた。


 その結果、

 世界は長いあいだ、

 血に染まった。


 ――救われたのは、

 誰だったのか。

 ミレイナは、

 まだ答えを出せずにいる。


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