同じ未来をみていた
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――その時は、まだ分からなかった。
あの場で、
何が担保され、
何が閉じられたのか。
ただ、
確かなことが一つだけあった。
あの瞬間から、
取り返しのつかない未来が、
静かに固定されたということだ。
――あとになって、
ミレイナは、あの光景を何度も思い返すことになる。
あれは、魔法じゃなかった。
少なくとも、
彼女の知る魔法ではない。
◇
謁見の間を離れてからも、
記憶はやけに鮮明だった。
身体が、
そこに在った。
ただそれだけのことなのに、
世界の理屈が、
一つ、置き去りにされたような感覚だけが残っている。
魔力の痕跡はない。
召喚の残り香も、
構築の揺らぎもない。
それなのに、
血が巡り、
呼吸があり、
確かに「生きている」。
幻影ではない。
代替でもない。
最初から、
そうであったかのように。
ミレイナは、
自分が震えていることに気づいて、
ようやく視線を落とした。
――見たことがない。
魔法でも、
奇跡でも、
権能でもない。
分類できないものを、
彼女は初めて見た。
だからこれは、
回想だ。
誰にも話していない。
記録にも残らない。
ただ、
ミレイナの中に残ってしまったもの。
あの場に、
身体を得た存在がいた。
それが何であれ、
少なくともその瞬間、
“人の形”をしていた。
◇
「……お前、もしかして」
血を司る魔王は、
一度だけ相手の姿を確かめるように見てから、
言葉を選んだ。
深刻というより、
それ以上考えないようにした時の顔だ。
「それならさ」
溜息混じりに、
視線を逸らしたまま続ける。
「回りくどく説得するくらいなら、
最初から正体を明かせばよかっただろ」
前魔王は、
ほんの少しだけ目を細めた。
怒ってはいない。
責めてもいない。
ただ、
ずっと昔から知っている癖を見つけた、
そんな顔だった。
「だってあなた」
声は静かだった。
「昔から、
言っても聞かなかったじゃない」
「それは――」
血の魔王が言いかけて、
言葉を失う。
反射的に、
いつもの言い訳を探してしまった自分に、
気づいてしまったからだ。
「ほら」
前魔王は、
視線を逸らさずに続けた。
「今も、そういう顔してる」
血の魔王は、
口を閉じた。
反論はできたはずだ。
理屈も、正論も。
それでも、
何も言えなかった。
――図星だった。
ミレイナは、
そのやり取りを、
すべて見ていた。
呪いの話じゃない。
世界の話でもない。
ただ、
長い時間、
すれ違い続けた二人の会話。
それでも、
二人は同じ場所に立っていた。
対立ではない。
断絶でもない。
選び方を間違えたまま、
同じ未来を見ていた。
その結果、
世界は長いあいだ、
血に染まった。
――救われたのは、
誰だったのか。
ミレイナは、
まだ答えを出せずにいる。




