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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
ラナクロア
65/120

救われたように見えた世界



 不可逆点を越えた。


 少なくとも、

 この場にいる者たちは、

 そう受け取っていた。


 謁見の間は静まり返っている。

 だがそれは、

 緊張ではなく、

 判断が下された後の静けさだった。


 玉座の前で、

 オルティスはそのまま立っていた。


 胸の奥で脈打っていた衝動は、

 完全には消えていない。

 だが、

 場を壊す力を失っている。


 拒絶されたのではない。

 押し留められただけだ。


 その違いを、

 オルティスは言葉にできなかった。


 玉座に座す存在は、

 すでに結論を出していた。


 それは感情ではなく、

 統治としての判断だった。


 低く、静かな声が響く。


「人間を、滅ぼす理由は失われた」


 それは赦しではない。

 和解でもない。


 ただ、

 争いを継続する根拠が、

 否定されたという宣言だった。


 その言葉を受けて、

 場の空気が、目に見えて緩む。


 ミレイナは視線を伏せ、

 ドナポスは大きく息を吐いた。


 セナキは、

 少しだけ安堵の色を帯びた笑顔を浮かべている。


 彼らは理解したのだ。


 ――少なくとも、

 この場で戦は起きない。


 星勇者一行にとって、

 それは十分な成果だった。


 誰も死なず、

 誰も斬らず、

 世界が次へ進む。


 正しい終わり方だと、

 そう受け取れるだけの材料は揃っていた。


 オルティスもまた、

 胸を撫で下ろしていた。


 自分の選択は、

 間違っていなかったのだと、

 信じる理由が与えられたからだ。


 だから、

 胸の奥に残る違和感を、

 深く掘り下げようとはしなかった。


 ただ一人、

 クレハだけが、

 その空気に馴染んでいなかった。


 納得も、

 安堵も、

 達成感もない。


 あるのは、

 まだ“決着していない何か”への警戒だけだ。





 謁見の間の外では、

 すでに次の準備が始まっている。


 戦のためではない。

 統治のための準備だ。


 争いが終わった世界として、

 次へ進むための段取り。


 それが始まっているという事実が、

 この場の判断が、

 世界の側では確定したことを示していた。


 世界は、

 静かに前へ進もうとしている。


 まだ、

 そこに立ち尽くしている者がいることを、

 知らないまま。

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