表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
ラナクロア
64/121

不可逆点

 魔王城は、すでに目前だった。


 星勇者一行は、

 ここまで一度も、まともな妨害を受けていない。

 それが、何より異様だった。


 剣も。

 魔法も。

 敵意すらも。


 まるで――

 こちらが辿り着くことを、

 最初から織り込まれていたかのように。


 ミレイナは不機嫌そうに腕を組み、

 ドナポスは落ち着かず、何度も周囲を見回している。


 セナキは、理由の分からない笑顔を崩さない。

 クレハは無言で、

 オルティスの半歩後ろに立っていた。


 オルティスだけが、

 いつも通りの笑顔を浮かべている。


 ――ただし、その奥に張りつめたものを隠しながら。




 謁見の間の扉は、音もなく開いた。


 広い。

 だが、空虚ではない。


 奥に在る玉座。

 そこに座す存在は、

 威圧も、殺気も放っていなかった。


 ただ、在る。


 それだけで、

 この場の主であることが分かる存在だった。


 視線が、オルティスに向けられる。


 長い沈黙のあと、

 低く、しかし穏やかな声が響いた。


「ここまで来たな」


 それは確認だった。

 歓迎でも、拒絶でもない。


 オルティスは一歩、前に出る。

 笑顔は崩さない。


 だが、喉がわずかに鳴った。


「話をしに来ました」


 言葉を置き、

 逃げ場を残さない距離で、続ける。


「戦いに来たわけじゃありません」


 玉座の存在は、

 すぐには答えなかった。


 沈黙が、場に沈む。


 やがて、問いが落ちる。


「戦うか」


 その一言で、

 空気が張りつめた。


 続く言葉が置かれる。


「それとも――」


 だが、最後までは語られなかった。


 言葉を遮るように、

 場の空気が、僅かに歪んだ。


 最初に異変を感じたのは、

 オルティス自身だった。


 胸の奥。

 血の奥。


 脈打つたびに、

 別の意思が混じる。


 ――許さない。


 誰の声でもない。

 だが、確かにそこにある衝動。


 理屈ではない。

 思想でもない。


 もっと原始的な、

 血の拒絶。


 オルティスは、息を詰めた。

 足が、僅かに揺れる。


 ミレイナが眉をひそめ、

 ドナポスが息を飲む。


 クレハの視線が、

 鋭くなった。


 玉座の存在が、

 静かに立ち上がる。


「……そうか」


 驚きではない。

 怒りでもない。


 理解だった。


 次の瞬間、

 オルティスの内側で、

 何かが暴れ出す。


 殺せ。

 壊せ。

 滅ぼせ。


 向けられた先すら曖昧な衝動が、

 理性を塗り潰そうとする。


 それでも、

 オルティスは前を見る。


 退かない。

 逃げない。


 拳を握りしめ、

 歯を食いしばる。


「……違う」


 声は小さい。

 だが、確かだった。


 血が叫ぶ。

 世界が歪む。


 それでも、

 笑顔を捨てなかった。


 選んだのだ。

 誰かに与えられた答えじゃない。


 自分で。


「それは、俺の望みじゃない」


 言い切った瞬間、

 暴走していた衝動が、

 一瞬だけ、止まる。


 消えはしない。

 だが、押し切れもしない。


 拮抗。


 玉座の存在は、

 その様子を黙って見つめていた。




 やがて、

 低く、確かな声が響く。


「ならば」


 その一語だけで、

 場に重みが走る。


 続く言葉は、

 試すように置かれた。


「その選択の先を、見せてもらおう」


 それが、

 許可なのか。

 試練なのか。


 誰にも分からない。


 ただ一つ、

 はっきりしていたことがある。


 この瞬間を境に、

 オルティスは、

 もう元の立場には戻れない。


 融和を選んだことも。

 血の衝動に抗ったことも。


 すべてが、不可逆だった。


 星勇者一行は、

 まだ気づいていない。


 この選択が、

 世界を救うものになるのか。


 それとも――

 別の地獄を呼ぶのかを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ