第四十七話:並ばない差
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戦後処理は、滞りなく進んでいた。
戦線は整理され、
補給は再接続され、
報告は簡潔にまとめられる。
誰かが責められることもない。
誰かが称えられることもない。
少なくとも、
表向きは。
◇
ライアスは、
詰所の端に立っていた。
地図の前でもない。
会議の中央でもない。
邪魔にならない位置。
だが、外れてもいない位置。
これまでと、
変わらないはずの場所だ。
だが、
何人かの視線が、
そこを素通りしていく。
意図的ではない。
避けてもいない。
ただ、
そこに「用」がないだけだった。
◇
名前が呼ばれる。
ひとつ。
またひとつ。
任務の割り振り。
次の配置。
補給線の再構築。
十神槍の名が、
順に挙がる。
誰が前に立つか。
誰が抑えるか。
誰が詰めるか。
役割が、
自然に決まっていく。
ライアスの名も、
呼ばれた。
正面。
いつも通りの役割だ。
違和感はない。
異議もない。
◇
だが、
その後だった。
もう一つ、
別の話題が出る。
声は低く、
報告というより、
確認に近い。
結果の整理。
どこが落ち、
どこが消え、
どこが「終わった」か。
その中で、
一つだけ、
扱いが違う項目があった。
詳細はない。
経過もない。
ただ、
結果だけが記されている。
それだけで、
十分だという扱い。
◇
誰も、
その名前を呼ばない。
呼ぶ必要が、
ないからだ。
そこは、
「そうなった」として、
処理されている。
ライアスは、
それを見ていた。
見て、
理解してしまう。
自分の敗北は、
整理されている。
理由も、
配置も、
記録されている。
正面で成立しなかった。
それだけだ。
だが――
あちらは、
整理されていない。
説明も、
理由も、
比較もない。
ただ、
結果が置かれている。
◇
それが、
差だった。
並べない差。
優劣ではない。
上下でもない。
役割が、
違う。
そう処理されている。
ライアスは、
そのことを、
誰にも言わない。
言えば、
理由を探すことになる。
理由を探せば、
感情に触れる。
それは、
人格者として、
やるべきではない。
◇
詰所を出ると、
風が吹いていた。
戦場の匂いは、
もう薄い。
だが、
消えてはいない。
ライアスは、
一度だけ、
立ち止まる。
振り返らない。
比べない。
ただ、
前を見る。
自分は、
正面に立った。
それは事実だ。
そして、
正面は、
最後まで崩れなかった。
それも事実だ。
だから、
自分は、
間違っていない。
そう判断するだけで、
足りていた。
◇
だが――
並べなかった。
それだけが、
静かに残る。
その差は、
まだ、
名前を持たない。
だが確かに、
そこにあった。




