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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
124/125

第四十六話:賭けが成立しなくなった





 中立都市は、静かだった。


 戦場からは遠い。

 だが、情報からは近い。


 だから、

 人が集まる。


 剣ではなく、

 数字を持った者たちが。



 酒場の奥。

 丸い卓を囲んで、

 商人たちが杯を傾けている。


 賭けの紙は、

 まだ置かれていた。


 だが、

 誰も触らない。


「……今回は、張れねぇな」


 年嵩の男が、

 紙を指で弾いた。


「ベイオスディアが勝つか、じゃない」

「勝ち方が、読めねぇ」


 別の男が、

 低く頷く。


「正面は、十神槍だろ」

「なら、普通は崩れねぇ」


「だが、グインデルは終わった」


 その言葉に、

 一瞬だけ、杯が止まる。


「金と銀がいた」

「正面は、成立してた」


「それでも、消えた」


 言い切る声。

 感情はない。


「負けた、じゃねぇ」

「終わった、だ」



 若い商人が、

 不満そうに眉を寄せる。


「でもよ」

「ベイオスディアが強いのは、分かってただろ」


 すぐに、

 否定が返る。


「違う」

「強さじゃねぇ」


「予測が、効かない」


 誰かが、

 杯を置く音がする。


「戦線は崩れてない」

「英雄も出てねぇ」

「なのに、国が消えた」


 沈黙。


 その沈黙が、

 答えだった。



「賭けにならねぇな」


 最初の男が、

 紙を畳む。


「勝つか負けるか、じゃない」

「いつ終わるかも、誰が終わらせるかも」

「分からねぇ」


「張ったところで」

「理由を説明できねぇ」


 苦笑が混じる。


 商人にとって、

 それは致命的だった。



 別の卓でも、

 似たような会話が流れている。


「一騎で終わったって話、聞いたか」


「誇張だろ」

「でも、金と銀が消えてる」


「名前、分かってんのか」


 首を振る。


「知らねぇ」

「英雄じゃないらしい」


「兵器か?」


「それも違う」


 言葉が、

 そこで詰まる。



 都市の外では、

 次の戦争の準備が進んでいる。


 だが、

 都市の中では、

 すでに一つ、

 前提が壊れていた。


 勝敗を予測できる戦争。


 賭けとして成立する戦争。


 それが、

 成り立たなくなった。



 紙は片づけられ、

 卓は空く。


 商人たちは、

 利益の話をやめ、

 別の話題に移る。


 だが――


 その夜以降。


 どの酒場でも、

 どの卓でも、


 戦争の話になると、

 最後に同じ言葉が出るようになる。


「……今回は、張れねぇな」


 理由は、

 誰も説明しない。


 ただ、

 世界が、

 そうなってしまっただけだった。

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