第四十五話:終わる側
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戦争は、続いていた。
正面は、崩れていない。
押されてもいない。
十神槍が立ち、
線は保たれ、
前線は動かない。
それが、
ベイオスディアの戦い方だった。
だが――
戦争は、
正面だけで終わるものではない。
◇
補給線が、途切れた。
一本ではない。
二本でもない。
気づいた時には、
複数が同時に、だった。
理由は分からない。
斥候が戻らない。
伝令が来ない。
村が、
いつの間にか、
通れなくなっている。
地図の上では、
まだ線は引かれている。
だが、
実際の地形では、
意味を失っていた。
陣の奥で、
小さな混乱が起きる。
命令が届かない。
確認が取れない。
敵が来たわけではない。
戦闘も起きていない。
ただ、
終わった場所が増えていく。
気づけば、
後方が薄くなり、
前方が孤立する。
それでも、
正面は成立している。
だからこそ、
判断が遅れる。
国境線の外れで、
ひとつの拠点が落ちた。
戦闘は、なかった。
守備隊は、
姿を消していた。
次の日、
別の拠点も同じように消える。
線は、
切られるのではなく、
抜かれていく。
敵は、見えない。
だが、
結果だけが積み上がる。
物資が届かない。
指示が回らない。
前線は、
戦えているのに、
戦争が成立しなくなる。
正面に立つ者たちは、
まだ、気づかない。
自分たちが、
勝っていることに。
そして同時に、
すでに、
終わっていることにも。
◇
数日後。
撤退命令が出る。
敗北ではない。
崩壊でもない。
ただ、
これ以上、
続ける理由がなくなった。
正面は、
最後まで破られなかった。
だから、
誰も責められない。
誰も、
間違っていない。
なお、
正面に姿を見せていた二つの影は、
その時点で、
すでに戦場から消えていた。
金の装飾も、
銀の気配も、
後方では確認されない。
誰が倒したのか。
どこで起きたのか。
報告は、
最後まで上がらなかった。
ただ、
次に確認されたのは、
二人がいたはずの位置に、
何も残っていない、という事実だけだった。
◇
国が、
一つ、
戦争から消えた。
グインデルの名は、
戦場から外される。
記録上は、
併合。
実態は、
終結。
後に、
人々はこう言う。
ベイオスディアは、
正面から勝った。
そして、
一騎で終わらせる存在がいた、と。
名前は、
まだ、
定まらない。
英雄とも、
兵器とも、
呼ばれない。
ただ――
その戦争は、
その存在が動いた側から、
終わっていった。
それだけが、
事実として残った。




