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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
122/123

第四十四話:正面の役割





 戦争は、始まっていた。


 宣戦布告はない。

 号令もない。


 ただ、

 軍が動き、

 線が引かれ、

 位置が確定した。


 それだけだ。


 ベイオスディアの前線は、

 広く取られている。


 押し込むためではない。

 崩させないためだ。


 十神槍が、

 その中央に立つ。


 全員が揃っているわけではない。

 だが、

 欠けてもいない。


 それぞれが、

 それぞれの位置にいる。


 前に出る者。

 線を保つ者。

 詰める気配を見せる者。


 全てが、

 計算の内側だった。


 ライアスは、

 正面に立っている。


 目立たない位置ではない。

 だが、

 突出もしない。


 ここが、

 自分の役割だと、

 疑っていない。


 前方。

 敵陣の奥に、

 動きがある。


 金の装飾が見える。

 銀の気配が、遅れて走る。


 サルディアとモルフェイス。


 まだ、出てこない。


 出る必要がないからだ。


 正面が、

 成立している。


 十神槍がいる。

 それだけで、

 戦線は崩れない。


 敵は、

 仕掛けどころを失う。


 出れば潰される。

 引けば押される。


 戦争として、

 最も嫌な状態。


 それを作るのが、

 今日の役割だった。


 ライアスは、

 槍を担いだまま、

 一歩も動かない。


 踏み込まない。

 煽らない。


 だが、

 退く準備もしていない。


 正面に立つとは、

 そういうことだ。


 時間が、流れる。


 衝突はない。

 だが、

 戦は進んでいる。


 周囲の部隊が、

 小さく削られ、

 補給線が細る。


 十神槍の正面は、

 ただ在るだけで、

 圧になる。


 敵が動く。


 銀の影が、

 一瞬だけ走る。


 だが、

 踏み込まない。


 サルディアも、

 前に出ない。


 分かっている。


 ここは、

 白のいない戦場だ。


 裏は、

 まだ空いている。


 ハルガンは、

 後方から全体を見る。


 指示は出さない。

 修正もしない。


 正面は、

 完璧だった。


 だからこそ――


 この戦場は、

 まだ終わらない。


 終わらせる役割が、

 ここにはいない。


 視線は前のまま。

 戦場から、もう半歩引いた位置で。


 敵陣を見たまま、


「金と銀か」


 一息。


「ありゃ、確かに手強いな」


 それだけ言って、

 それ以上は続けない。


 ライアスは、何も返さなかった。


 だが、

 その言葉は、

 評価でも慰めでもなく、

 ただの事実として、そこに残った。


 十神槍は、

 前に立つ。


 勝つためではない。

 崩させないために。


 その間に、

 別の場所で、

 別の前提が、

 静かに動き始めていることを。


 この正面は、

 まだ知らない。

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