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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
121/124

第四十三話:二つの影





 国境線は、分かりやすかった。


 地図の上でも。

 実際の地形でも。


 ここから先が、グインデルだと誰にでも分かる。


 だからこそ、

 小細工はない。


 正面から来る者だけが、

 ここに立つ。


 ライアスは、歩みを止めなかった。


 視界の先に、

 一人の男が立っている。


 金の装飾。

 派手ではない。

 だが、隠す気もない。


 サルディアだった。


 間合いは遠い。

 だが、逃げる距離ではない。


 互いに、

 前に出る理由だけを持っている。


「ここまでだ」


 声は低い。

 感情は乗っていない。


 宣告ではなく、

 確認だった。


 サルディアは槍を構える。


 力を誇示しない。

 技を見せる気もない。


 正面。

 それだけを選び取った構え。


 ライアスは、それを見て理解した。


 成立する。


 ここは、戦いになる。


 踏み込む。


 金属がぶつかる音が、

 一拍遅れて響く。


 技は、拮抗していた。


 押し込めない。

 だが、押し返されもしない。


 正面で、成立している。


 その瞬間だった。


 影が、横切る。


 音はない。

 気配も、薄い。


 ただ、

 殺意だけが通った。


 銀。


 モルフェイスだった。


 死角。

 踏み込みの外。

 視線の裏。


 戦争として、

 正しい位置。


 ライアスは、踏み止まる。


 下がらない。

 崩れない。


 だが、

 正面を維持したまま、

 二つを相手取る形になる。


 成立しない。


 理解は、早かった。


 退路はある。

 撤退もできる。


 だが、

 それを選べば、

 ここに立った意味が消える。


 槍を振るう。


 正面を崩さない。


 だから――


 届かない。


 衝撃が走る。


 致命ではない。

 だが、十分だ。


 体勢が、

 半歩ずれる。


 それで終わった。


 追撃はない。


 殺す必要が、

 ないからだ。


 サルディアは、槍を下げる。


 モルフェイスは、

 すでに距離を取っている。


 結果だけが残った。


 勝敗ではない。

 殲滅でもない。


 ただ、

 ここは抜けない、

 という事実。


 ライアスは、立っていた。


 膝はついていない。

 武器も、落としていない。


 正面に立ったままだ。


 だから、

 この結果は、

 敗北ではない。


 相性だ。


 配置だ。


 正面を選んだ結果だ。


 そう処理できるだけの、

 材料は揃っている。


 サルディアは、

 一言だけ残した。


「次は、もっと大きい戦になる」


 忠告ではない。

 予告だった。


 二つの影は、

 そのまま引く。


 国境線は、

 越えさせないまま。


 ライアスは、

 振り返らない。


 引き返す。


 正面を崩さずに。


 その背中を、

 誰も嘲らなかった。


 だが――


 同じことを、

 白がやったら。


 結果は、

 違ったかもしれない。


 その考えは、

 まだ浮かばない。


 浮かばないまま、

 戦争は、

 本戦へ向けて動き出す。


 二つの影は、

 確かにそこにあった。


 そして――


 正面に立った者だけが、

 それを受け止めていた。

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