第四十三話:二つの影
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国境線は、分かりやすかった。
地図の上でも。
実際の地形でも。
ここから先が、グインデルだと誰にでも分かる。
だからこそ、
小細工はない。
正面から来る者だけが、
ここに立つ。
ライアスは、歩みを止めなかった。
視界の先に、
一人の男が立っている。
金の装飾。
派手ではない。
だが、隠す気もない。
サルディアだった。
間合いは遠い。
だが、逃げる距離ではない。
互いに、
前に出る理由だけを持っている。
「ここまでだ」
声は低い。
感情は乗っていない。
宣告ではなく、
確認だった。
サルディアは槍を構える。
力を誇示しない。
技を見せる気もない。
正面。
それだけを選び取った構え。
ライアスは、それを見て理解した。
成立する。
ここは、戦いになる。
踏み込む。
金属がぶつかる音が、
一拍遅れて響く。
技は、拮抗していた。
押し込めない。
だが、押し返されもしない。
正面で、成立している。
その瞬間だった。
影が、横切る。
音はない。
気配も、薄い。
ただ、
殺意だけが通った。
銀。
モルフェイスだった。
死角。
踏み込みの外。
視線の裏。
戦争として、
正しい位置。
ライアスは、踏み止まる。
下がらない。
崩れない。
だが、
正面を維持したまま、
二つを相手取る形になる。
成立しない。
理解は、早かった。
退路はある。
撤退もできる。
だが、
それを選べば、
ここに立った意味が消える。
槍を振るう。
正面を崩さない。
だから――
届かない。
衝撃が走る。
致命ではない。
だが、十分だ。
体勢が、
半歩ずれる。
それで終わった。
追撃はない。
殺す必要が、
ないからだ。
サルディアは、槍を下げる。
モルフェイスは、
すでに距離を取っている。
結果だけが残った。
勝敗ではない。
殲滅でもない。
ただ、
ここは抜けない、
という事実。
ライアスは、立っていた。
膝はついていない。
武器も、落としていない。
正面に立ったままだ。
だから、
この結果は、
敗北ではない。
相性だ。
配置だ。
正面を選んだ結果だ。
そう処理できるだけの、
材料は揃っている。
サルディアは、
一言だけ残した。
「次は、もっと大きい戦になる」
忠告ではない。
予告だった。
二つの影は、
そのまま引く。
国境線は、
越えさせないまま。
ライアスは、
振り返らない。
引き返す。
正面を崩さずに。
その背中を、
誰も嘲らなかった。
だが――
同じことを、
白がやったら。
結果は、
違ったかもしれない。
その考えは、
まだ浮かばない。
浮かばないまま、
戦争は、
本戦へ向けて動き出す。
二つの影は、
確かにそこにあった。
そして――
正面に立った者だけが、
それを受け止めていた。




