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第四十一話:消えた前提
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街道沿いの詰所は、珍しく静かだった。
人はいる。
荷も動いている。
だが、声が少ない。
壁際で、数人の兵が立ったまま話している。
「……今の、聞いたか」
誰に向けたとも分からない声。
「聞いた」
短く返る。
「カラカルフィンだ」
一瞬、間が空く。
「……紫陽の国だろ」
「そうだ」
冗談めかした否定は、出なかった。
代わりに、誰かが眉を寄せる。
「盛りじゃないんだな」
「確定だ」
言い切りだった。
書類を見たわけでもない。
だが、そういう言い方だった。
別の兵が、低く息を吐く。
「まさか、あの紫陽がやられたってのか」
誰もすぐには答えない。
否定する言葉も、
補足する情報も、
出てこなかった。
ただ、その名が、
そこに落ちたままになる。
紫陽。
単独で戦況を動かすと言われた存在。
国そのものより、先に名が知られていた男。
「……次、どこだ」
ぽつりと、誰かが言う。
問いではない。
確認に近い。
「分からん」
「でも」
言葉が続きかけて、止まる。
分かっていることを、
口に出す必要はなかった。
詰所の外を、
補給の列が通り過ぎていく。
いつもと同じ速度。
いつもと同じ手順。
だが、その背中を見送る視線は、
どこか違っていた。
戦は、
まだ始まっていない。
だが――
終わり方だけが、
一つ、消えた。




