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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
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第四十話:席が空いている





 戦場は、すでに片づいていた。


 終わった、というより。

 これ以上、やることがなくなっただけだ。


 白は、前に出ていない。

 だが、下がってもいなかった。


 境目の位置。

 誰かの半歩前で、誰かの半歩後ろ。


 そこに、ライアスが並ぶ。


 視線が合うことはない。

 だが、向いている方向は同じだった。


 前線。

 結果。

 その先。


 言葉は、要らない。


 評価もしない。

 確認もしない。


 並んで立っているという事実だけで、

 十分だった。


 先に動いたのは、サリドだった。


 血の匂いが薄れ始めた頃、

 外套を翻しながら近づいてくる。


「なあ」


 軽い声。

 だが、逃がす気はない距離感。


「もう終わりだろ」


 白は答えない。

 ライアスも答えない。


 否定しない沈黙を、

 サリドは都合よく受け取った。


「じゃ、行こうぜ」


 指で親指を立てる。

 方向は、街の方だ。


「一杯で済ます気はねーんだけどな」


 冗談めいた調子。

 だが、引く気は最初からない。


 白は、一瞬だけ立ち止まる。


 考えているようにも見える。

 考えていないようにも見える。


「……まあ」


 短い返事だった。


 拒否ではない。

 積極でもない。


 それで十分だったらしく、

 サリドは満足そうに笑った。


「決まりだな」


 白は、何も持たない。

 武器も、構えも、見えない。


 それでも、

 戦場にいた時と同じ歩調で、

 ついてくる。



 酒場は、いつも通りだった。


 騒がしく、

 雑で、

 どこか安心する音が混じっている。


 先に座っていたのは、ライアスだった。


 杯を手に、

 周囲を観察している。


「あれ」


 サリドが声を上げる。


「珍しい並びだな」


 からかう調子。

 だが、悪意はない。


 ライアスは肩をすくめるだけだ。


「仕事が終わっただけだ」


 それ以上は言わない。


 説明もしない。


 白は、少し離れた位置に立ったまま、

 店内を見回している。


 視線が集まる。

 だが、声はかからない。


 サリドが、椅子を引く。


「ほら」


 空いている席を示す。


「座れよ」


 白は、一拍だけ置いてから腰を下ろす。


 音は、立てない。


 サリドは満足そうに頷いた。


「やっぱりな」


 理由は言わない。

 言う必要もない。


 ライアスは、

 二人を一度だけ見てから、

 杯に視線を戻す。


 変な組み合わせだ。

 だが、悪くはない。


 白は無言のまま、

 二人のやり取りを見ている。


 口を挟まない。

 だが、遮断もしていない。


 それを見て、

 サリドは面白そうに笑った。


「お前さ」


 白を見る。


「無口だけど、変だな」


 評価ではない。

 結論でもない。


 ただの感想だ。


 白は、否定しない。


 ライアスは、その様子を横目で見ながら、

 何も言わなかった。


 並んで立つ戦場とは違う。

 だが――


 ここにも、

 列はある。


 席が空いていて、

 そこに座った。


 それだけのことだった。


 だが、その夜から。


 サリドは、

 酒場に来るたび、

 白を引っ張ってくるようになる。


 理由は、誰も言わない。

 名前も、まだ呼ばれない。


 ただ、

 並ぶのが、

 少しだけ自然になった。

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