第四十話:席が空いている
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戦場は、すでに片づいていた。
終わった、というより。
これ以上、やることがなくなっただけだ。
白は、前に出ていない。
だが、下がってもいなかった。
境目の位置。
誰かの半歩前で、誰かの半歩後ろ。
そこに、ライアスが並ぶ。
視線が合うことはない。
だが、向いている方向は同じだった。
前線。
結果。
その先。
言葉は、要らない。
評価もしない。
確認もしない。
並んで立っているという事実だけで、
十分だった。
先に動いたのは、サリドだった。
血の匂いが薄れ始めた頃、
外套を翻しながら近づいてくる。
「なあ」
軽い声。
だが、逃がす気はない距離感。
「もう終わりだろ」
白は答えない。
ライアスも答えない。
否定しない沈黙を、
サリドは都合よく受け取った。
「じゃ、行こうぜ」
指で親指を立てる。
方向は、街の方だ。
「一杯で済ます気はねーんだけどな」
冗談めいた調子。
だが、引く気は最初からない。
白は、一瞬だけ立ち止まる。
考えているようにも見える。
考えていないようにも見える。
「……まあ」
短い返事だった。
拒否ではない。
積極でもない。
それで十分だったらしく、
サリドは満足そうに笑った。
「決まりだな」
白は、何も持たない。
武器も、構えも、見えない。
それでも、
戦場にいた時と同じ歩調で、
ついてくる。
◇
酒場は、いつも通りだった。
騒がしく、
雑で、
どこか安心する音が混じっている。
先に座っていたのは、ライアスだった。
杯を手に、
周囲を観察している。
「あれ」
サリドが声を上げる。
「珍しい並びだな」
からかう調子。
だが、悪意はない。
ライアスは肩をすくめるだけだ。
「仕事が終わっただけだ」
それ以上は言わない。
説明もしない。
白は、少し離れた位置に立ったまま、
店内を見回している。
視線が集まる。
だが、声はかからない。
サリドが、椅子を引く。
「ほら」
空いている席を示す。
「座れよ」
白は、一拍だけ置いてから腰を下ろす。
音は、立てない。
サリドは満足そうに頷いた。
「やっぱりな」
理由は言わない。
言う必要もない。
ライアスは、
二人を一度だけ見てから、
杯に視線を戻す。
変な組み合わせだ。
だが、悪くはない。
白は無言のまま、
二人のやり取りを見ている。
口を挟まない。
だが、遮断もしていない。
それを見て、
サリドは面白そうに笑った。
「お前さ」
白を見る。
「無口だけど、変だな」
評価ではない。
結論でもない。
ただの感想だ。
白は、否定しない。
ライアスは、その様子を横目で見ながら、
何も言わなかった。
並んで立つ戦場とは違う。
だが――
ここにも、
列はある。
席が空いていて、
そこに座った。
それだけのことだった。
だが、その夜から。
サリドは、
酒場に来るたび、
白を引っ張ってくるようになる。
理由は、誰も言わない。
名前も、まだ呼ばれない。
ただ、
並ぶのが、
少しだけ自然になった。




