第三十九話:並ぶ位置
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戦場は、すでに終わっていた。
終わった、というより――
終わらされていた。
線は崩れず、
陣は保たれ、
余計な追撃もない。
白が前に出た。
それだけで、
戦は閉じた。
その少し後ろ、
同じ列に、
ライアスが立っている。
前でもなく、
後ろでもない。
指示を出す必要も、
補佐に回る必要もなかった。
並んでいる。
ただ、それだけだ。
白は、
いつも通りだった。
構えない。
名乗らない。
武器に触れる気配もない。
そもそも、
どこに武器があるのかさえ、
周囲からは分からない。
戦場に残るのは、
結果だけだ。
ライアスは、
横目で白を見る。
評価ではない。
警戒でもない。
同じ位置に立つ者として、
確認するような視線だった。
白は、
それに応えない。
視線を返すことも、
外すこともない。
前を見ている。
それで、十分だった。
号令がかかる。
後処理が始まる。
並びは、
自然にほどける。
その瞬間、
横から雑音が割り込んだ。
◇
「はいはい、お疲れさーん」
軽い声。
場違いなほど軽い。
サリド・ヤンだった。
血の匂いがまだ残る中、
外套を翻し、
まるで稽古帰りのような顔をしている。
「いやー、今日も早かったな」
誰に言うでもなく、
だが視線は白に向いている。
「俺、出番なかったんだけど?」
白は、答えない。
それを気にする様子もなく、
サリドは肩をすくめる。
「まあ、いいか」
一拍。
そして、急に距離を詰めた。
「なあ白」
呼び止めるでもなく、
頼むでもなく。
「一杯だけだ」
白が、
ほんのわずかに首を傾ける。
止まらない。
だが、歩き出しもしない。
その間を、
サリドは勝手に肯定と解釈した。
「一杯で済ます気はねーんだけどな」
楽しそうに笑う。
少し離れた場所で、
ライアスがそれを見ていた。
口は出さない。
止めもしない。
白を見る。
次に、サリドを見る。
そして――
何も言わずに、歩き出す。
白が、
その背中を一瞬だけ追った。
追っただけで、
声はかけない。
だが、
足は動いた。
白が歩き出すと、
サリドは満足そうに頷いた。
「ほらな」
理由はない。
説明もない。
ただ、
同じ列に立っていた者たちが、
同じ方向へ向かう。
それだけのことだった。
まだ、
言葉は少ない。
だが――
距離は、確かに縮まっていた。




