第三十八話:同じ線
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戦場は、静まりかけていた。
終わったわけではない。
だが、崩れる兆しはもう見えている。
敵の主力は削られ、
残るのは踏み止まる理由を失った線だけだ。
白い鎧が、前に出ている。
深く踏み込まない。
走らない。
だが、確実に要点に立つ。
その一歩で、
戦場の形が変わる。
押す必要はない。
崩れる位置に、最初から置かれている。
その少し後ろ。
黒い槍が、地に立っていた。
ライアスは、前に出ない。
だが、下がりもしない。
槍は構えているが、
踏み込む気配はない。
必要がないと、
分かっている。
視線は、白を追わない。
敵も見ている。
両方を、
同じ距離で捉えている。
白が動く。
腕が通り、
音が遅れて届く。
倒れる。
線が抜ける。
それで十分だった。
ライアスは動かない。
出れば、余計になる。
出なければ、成立する。
判断は一瞬だった。
白の背中が、
戦場の中心を外れていく。
追撃は不要。
残る敵は、もう戦にならない。
号令がかかる前に、
戦場は終わっていた。
兵が、息を吐く。
歓声はない。
ただ、終わったという空気だけが残る。
白は、振り返らない。
その隣に、
黒が並ぶ。
距離は詰めない。
だが、離れすぎてもいない。
肩が触れるほどではないが、
声は届く位置だ。
ライアスは、
白を見ない。
見る必要がない。
ここに立っている。
それで足りる。
同じ線に置いて、
問題が起きなかった。
それだけで、
判断は済んでいる。
白も、何も言わない。
息を整え、
次に進む準備をしているだけだ。
戦場の後処理が始まる。
兵が動き、
指示が飛ぶ。
その中で、
二人は一瞬だけ並んだまま立つ。
会話はない。
視線も交わらない。
だが、
どちらも退かない。
それが、
この戦場の結論だった。
ライアスは、
槍を担ぎ直す。
白は、
次の位置へ歩き出す。
並んでいた距離が、
自然にほどける。
だが――
同じ列に立てると、
分かってしまった事実だけが、
静かに残った。




