第三十七話:数歩
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前線へ向かう通路は、広くはない。
兵が通り、
荷が運ばれ、
声が交差する。
白い鎧が、先に立っていた。
いつも通りだ。
前に出る位置。
誰も、そこを疑わない。
少し遅れて、ライアスが来る。
距離は、これまでと同じ。
詰めすぎず、
離れすぎず。
並ぶ――
はずだった。
ライアスは、一瞬だけ迷った。
迷ったこと自体に、
気づいてしまった。
人格者として、
ここで迷うのは正しくない。
だが。
「……なあ」
声は、低かった。
呼び止めるほどでもない。
聞こえなければ、それでいい程度の声。
白い兜が、わずかに動く。
振り返らない。
立ち止まらない。
ただ、歩調が揃う。
「最近」
それだけ言って、
言葉が続かない。
用件はない。
確認も、報告もない。
白は、何も言わない。
無視ではない。
待っている、というほどでもない。
ライアスは、
その沈黙を長くしなかった。
「……いや」
自分で、切った。
それ以上を言えば、
理由を探すことになる。
理由を探せば、
感情に触れる。
人格者として、
そこに踏み込む必要はない。
「気にするな」
誰に向けた言葉かは、
はっきりしなかった。
白は、答えない。
だが、
歩調が、完全に揃った。
ほんの数歩。
それだけ。
前線の入口が見える。
白は、前に出る。
いつも通り。
正しい位置へ。
ライアスは、その背中を見る。
呼び止めなかった。
名前も、呼ばなかった。
声をかけた。
だが、繋がなかった。
それでいい。
そう処理した。
だから、
この瞬間の意味を、
彼はまだ知らない。




