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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
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第三十二話:人格者




 詰所の外は、夜に向かって静まり返っていた。


 当番を終えた兵と、次の当番が入れ替わる。

 武器の受け渡し。

 配置の確認。

 それだけの、短い時間。


 その合間に、

 どうでもいい言葉が落ちる。


「今日の前線さ」


 誰かが、気楽に言った。


「白、使った?」


「使ったな」

「そりゃ使うだろ」


 短い笑い。


「白が来ると、終わるしな」


 断定だった。

 評価でも称賛でもない。

 事実確認。

 共有事項。


「来なかったら?」


「長くなるだけだろ」


 即答だった。

 迷いはない。


「便利だよな」

「最悪、白がいるって分かってると楽だ」


 悪意はない。

 軽口だ。

 引き継ぎの間に消える音だ。


 少し離れた場所で、

 ライアスはそれを聞いていた。


 聞くつもりはなかった。

 止める理由もなかった。


「兵器みたいなもんだ」


 誰かがそう言う。

 悪口ではない。

 効率の話だ。


 ライアスは視線を落としたまま動かない。


 割って入ることはできた。

 言葉を正すこともできた。


 人格者として。

 十神槍として。


 だが、しなかった。


 正しい振る舞いだと判断した。


 今ここで止めれば、

 場は重くなる。

 引き継ぎは滞る。


 無駄だ。

 必要がない。


 彼らは間違ったことを言っていない。


 白は強い。

 前に置かれる。

 結果が出る。


 合理だ。


 だから、

 何も言わなかった。



 胸の奥に、わずかな違和感が走る。


 だが、それは処理すべきものではない。


 これは個人的な感情だ。


 職務ではない。

 人格者として持ち込むべきではない。


 そう判断する。


 引き継ぎが終わる。


 兵たちは散り、

 詰所の前は元の静けさに戻る。


 ライアスは歩き出した。

 振り返らない。


 胸の奥に残るものに、

 名前はつけない。


 つける必要がない。


 正しい振る舞いをした。

 そう結論づける。


 だから、

 今日はこれでいい。


 まだ、問題ではない。


 少なくとも――

 人格者としては。

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