第二十九話:違和感
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ライアスは、しばらく歩いてから足を止めた。
前線へ向かう道でもない。
戻る道でもない。
ただ、誰にも邪魔されない位置だった。
槍を地面に立て、
その穂先に手を添える。
確認するまでもない。
重さも、位置も、いつも通りだ。
狂いはない。
息を整える。
深くは吸わない。
浅く、数度。
それで十分だった。
さっきの声が、
頭の奥で反復する。
「白が来ると、終わりだ」
言葉そのものではない。
言い方だ。
評価でも、称賛でもない。
ただの事実確認。
共有事項。
それが、なぜ引っかかったのか。
考えない。
考えれば、
余計なものまで拾ってしまう。
白は強い。
それは事実だ。
前に置かれるのも、
使われるのも、合理だ。
理解はできる。
否定する理由もない。
それでも、
胸の奥に残る感覚は消えなかった。
ざらつき。
乾いた引っかかり。
ライアスは、目を閉じる。
浮かぶのは、
白い鎧ではない。
剣でもない。
――空白。
そこにあるはずのものが、
抜け落ちている感覚。
誰も、
白の話をするときに、
そこを見ていない。
だから、
見ない方がいい。
そう判断して、
目を開ける。
遠くで、
号令が上がる。
時間だ。
ライアスは槍を担ぎ直し、
何事もなかったように歩き出す。
違和感を、
言葉にしないまま。
まだ、
問題にはならない。
この時点では――
それでいい。




