第二十八話:立ち止まる理由
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任務ではなかった。
配置にも、報告にも、関係しない。
それでも、
ライアスは足を止めた。
瓦礫の前だ。
酒場だった場所。
今は、崩れた壁と、割れた瓶と、
乾ききらない血の跡が残っているだけの場所。
理由はない。
探していたわけでも、
確認する必要があったわけでもない。
ただ、
通り過ぎられなかった。
槍を下ろし、
穂先を地面につける。
ここで、
踊っていた。
酒場の中央で、
ひとりだけ空気の密度が違っていた。
外套を脱いだ姿は、
灯りの下でも、はっきりと目を引いた。
誰かが声を落とし、
誰かが動きを止める。
理由を探す必要はなかった。
足運びは軽く、
無駄がない。
刃物のように切れ、
それでいて、誇示がなかった。
前に出ない。
それでも、
場の中心にいた。
ただの演者だと、
その時は思っていた。
今、目の前にある瓦礫に、
別の光景が重なる。
血と破壊の痕が残る中で、
外套に身を包み、
ただ立ち尽くしていた背中。
動いていなかった。
泣いてもいない。
誰かを探してもいない。
踊っていた時より、
ずっと小さく見えた。
だが、
違う人物だとは思わなかった。
同じ場所で、
同じ人間が、
違う時間を過ごしていただけだ。
似ている、で済ませたかった。
だが、
それでは済まなかった。
二つの姿が、
はっきりと一人の像として繋がってしまった。
それだけのことだ。
理由は考えない。
意味もつけない。
ただ、
忘れたつもりでいたものが、
正しい形で戻ってきただけだった。
ライアスは、
自分が任務中でないことを思い出す。
だからこそ、
ここで立ち止まっている。
槍を担ぎ直す。
もう、見る理由はない。
それでも、
足が止まったという事実だけが、
静かに残った。




