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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
一騎大国
102/122

第二十四話:一言だけ




 戦線は、さらに奥へ移っている。


 短縮された線の、その先。

 判断が一つ遅れれば、全体に影響が出る地点だ。


 白が、前に置かれる。


 理由は書かれない。

 必要がない。


 白がいれば、終わる。

 いなくても、耐えられる。


 それでも、

 前に置かれる。


 配置は、正しい。


 誰も疑わない。


 黒い鎧の男は、

 前線から一歩引いた位置に立っている。


 前に出る必要はない。

 指示を出す必要もない。


 視界は、十分だ。


 配置表を一度だけ確認する。


 線は短い。

 想定は成立している。


 数字に、歪みはない。


 問題は、ない。


 だから、

 彼は動かない。


 ――ここまでは、いつも通りだ。



 白が、視界を横切る。


 歩調は一定。

 速すぎず、遅すぎず。


 誰の合図も受けていない。


 黒い鎧の男は、

 もう一度だけ、戦場を見る。


 白がいない場合の線。

 成立。


 止める理由は、ない。

 配置を変える理由も、ない。


 それでも。


 彼は、白から視線を外さなかった。


 必要のない確認。

 意味のない時間。


 ほんの一拍。


 その間に、

 誰にも求められていない判断が、

 一つだけ残る。


 声をかける根拠は、ない。

 制度は、すでに答えを出している。


 それでも、

 声が届く距離まで歩いた。


 距離を詰めるでもなく、

 背後に回るでもない。


 止める位置でも、

 守る位置でもない。


 ただ、

 声が届く場所。


「……行く前に」


 白は、止まらない。


「一言だけだ」


 白い鎧が、

 わずかに速度を落とす。


 止まらない。

 だが、行き過ぎもしない。


 黒い鎧の男は、

 名を名乗らない。


 名を呼びもしない。


 制度に、割り込まないためだ。


「人として、言う」


 その言葉だけが、

 戦場から浮いた。


「帰ってこい」


 命令ではない。

 願いでもない。


 確認に近い。


 白は、答えない。


 答える必要が、ない。



 配置は変わらない。

 線も、変わらない。


 白は、前に出る。


 背中が、遠ざかる。


 黒い鎧の男は、

 それを見送らない。


 見る必要が、ない。


 言うべきことは、

 すでに言った。


 世界は、

 何事もなかったように進む。


 ただ、

 その場にいた者の何人かが、


 理由を説明できない違和感を、

 一瞬だけ覚えた。


 配置は、正しい。


 それでも。


 人の声が、

 一度だけ、そこにあった。

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