表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天邪鬼  作者: なもゆ
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

プロローグ

この作品はフィクションです。

 時は1945年、硫黄島にて。日本軍は、アメリカ軍を迎え撃つために、準備をしていた。ところが、援軍は最近になり来なくなった。それに加えて、聞いた話では日独伊三国同盟の内、イタリアが降伏。最近ではドイツもどこか頼りなくなっているそうだ。

「雨宮さん。少しよろしいですか?」

 彼の名前は、雨宮(あまみや)与四治(よしはる)といい、大日本帝国陸軍少佐だ。雨宮は、黒髪で軍服を纏っている。少ししか出ていない肌にいくつもの縫い目とやけどの跡が痛々しくあった。

 今、雨宮に話しかけてきた兵士は、今回の作戦立案者で、雨宮の直属の部下だ。今も慎重を期すために雨宮に作戦の再確認を行っている。

「それで、アメリカ軍はこの島の手前まで来るのにどれくらいかかる?」

「――それは私からよろしいですか?」

 立案者とは別の兵士が前に出てきた。そして、俺は無言のまま顔を少しだけ縦に振った。

「ハッ! 予想では明日の夕刻だと思われます。現在は太平洋ハワイ沖にて補給している最中です」

 その兵士が敬礼して、声を大にして言った。

「流石にあっちの戦闘機でもさすがに届かない距離か⋯⋯」

「そう思われます」

「よし、そういうことだから明日に備えて休んでくれ」

「「「はいッ!」」」

 続いて全員がそう叫んだ。それが解散の合図へとなる。

 雨宮は、実を言ってしまうと戦争に反対だった。日本はただでさえ資源が少なく、外国の支援がなければ戦争どころではないというのに、大国のアメリカを初め、様々な国に戦争を仕掛けた。それは国民の意志ではなく、軍の上層部による暴走が引き金だ。鉄の塊や、空飛ぶ兵器がうろつくところに喜んで行く者などいないだろう。それこそ、死ねと言っているものと同義である。

 周りを見回すと、兵士はそれぞれバラバラな行動をしていた。本国にいるであろう妻や子供たちに向けて手紙を書く者や、明日に備えすでに就寝の準備をしている者など様々だ。

 それからかなり待ったが全員が寝静まるにはまだまだかかりそうであった。

(そろそろ就寝準備を初めたいが……)

 大半の兵士は寝ているが、まだ作業をしているものがちらほらいたため、もう少し見守ることにした。

 ――それから三時間がたった。既に、今は深夜一時を回っていた。一人、他の者が寝る中で、黙々と作業をしていた。さすがに遅すぎるということもあり、注意することにした。

「もう少しかかりそうですか?」

 その兵士は雨宮よりも少し若く小柄だった。少し痩せこけており、目の下にはクマがあった。

「すみません。もうすぐ終わります」

 その兵士は申し訳なさそうに振り向いた。

 手紙を書いていたようだ。その手紙には自分の子供たちへの手紙であった。そこで雨宮がふと思ったのが、

「――婦人は……?」

 つい口に出してしまった。

「妻は私が徴兵される前に空襲でなくなりました」兵士は寂しそうな笑顔を見せた。

「あっ! 本当に申し訳ない。そのようなことを聞いてしまって……」すぐに雨宮は申し訳なさそうに頭を下げた。

「いえ、頭まで下げなくていいんです。今や、子供たちが私の宝です。あの時に子供たちまで失っていたらと考えると……」

「……」

「雨宮さんは気になさらないでください」

 この状況で気にするなという方が無理である。それに、この話題を出した自分に非があると分かっているがために心から謝るだけでは済まない罪悪感でいっぱいだった。

「……書き終わったので私はもう寝るとします」

 その兵士は一礼してから自分の布団へ去っていった。

(……このことを深く心に受け止めて明日に臨むとしよう)

 心に誓ったのだった。


「――さん! 雨―さ―!」

 誰かが、横たわっている雨宮の肩を揺らし、呼びかけている。

(うるさい。静かに寝させてくれ)

 寝起きだからか、視界がぼやけて耳鳴りがする。他にも音がすると思ったらそれは、異常なほどの銃弾の音と断末魔だったのだ。そして、目の前にどこからか飛んできた爆弾が落ちてきて、爆発した。

「ドォォン!!」

 ――そこで目が覚めた。

「うわぁぁ!」

 布団からガバっと起き上がった。息は乱れて、顔は青ざめている。

「なんだ夢か……」と呟いた。

 寝起きで視界がぼやけていた。寝床から立ち、洗面所へ向かい、顔を洗ったら、ようやく気分がシャッキっとしてきた。

「にしても、不吉な夢だったな……」

 まだ雨宮以外の兵士は起きてきていない。

(今のうちに準備をしちゃうか)

 準備を初めた。今は朝の4時弱だったので特段、兵士たちを起こしたりはしない。

 準備が終わった雨宮は椅子に座り、書類に目をとうしていた。現在、朝の5時。作戦開始まであと9時間。

 六時頃になってくると兵士たちも続々と起きていている。皆、起き上がってすることは同じで、顔を洗いに行っていた。その後は神に祈りを捧げる者、軽い準備運動をするものとこれまた、昨夜のようにバラバラだった。別に気にすることもないので雨宮は何も言わなかった。

 それから朝食を取り、副官のもとで作戦の準備を進めている。

 作戦の内容の一部では、このテントを空っぽにして、わざとここへ誘導する。勿論、テントには(・・)人は一人としていない。銃口とテントを繋いだパイプを伝って銃弾が通り、誘導されて中に入った米兵を悲鳴を上げさせずに撃ち殺す。例え撃ち逃したとしても、外に狙撃兵が木の上からスナイパーライフルで狙撃する。安直だからこそ、なのだ。

 準備も終わり、あとは待つだけとなった。

「各自持ち場に着いた後、砲撃部隊は海軍の援護射撃を開始だ!」と雨宮が叫ぶ。

「「「はい!」」」

 兵士たちが各々の持ち場へ走っていくのを見届けた雨宮は、別の班に情報伝達と物資移動をするために、地下に張り巡らせた広大な地下トンネルへと潜っていった。

 現在午前十時。

 ――それから三時間のことだった。

「くッ、海戦はだめだったか!」

 情報伝達と物資移動を終えた雨宮が、双眼鏡を覗き込んで見ていたものは、先ほどまで行われていた海戦だった。結果は見事に日本の艦隊は海の藻屑になってしまっていた。

「アメリカ軍、上陸を確認しました」

「ああ、こっちもだ」

 ある兵士が近づいてきて耳打ちをした。雨宮はそれを聞いて無線で暗号(サイン)を出す。米軍が艦隊から降りてきて、突撃を始めた。

『至急、作戦態勢』

 周りの兵士が無線を聞き動き出した。しかし、森の中にいるのにも関わらず物音がとて静かであり、それが訓練の成果であることがわかる。

(よしよし。わざとつけた足跡を追ってきているな。それに我々の兵士たちは訓練の成果が存分で発揮されている)茂みから少し顔を出し、双眼鏡をのぞき込みながらそう思った。

 作戦開始の合図を受けて、遊撃隊が米軍に向けて射撃を開始する。米軍は岩などの銃弾が当たらない位置に身を隠しながら、進軍してきている。

 それから少し経ち、アメリカ軍兵士の五人がテントの前に到着した。それを確認して無線機に手を伸ばした。

 テントへ入っていったアメリカ兵が次々に倒れていった。一人、テントから逃げ出した者がいたが、大きな音とともに腹部を押さえながら俯けに倒れた。

 ここはアメリカ軍の本隊に届かない距離にあるので銃声は届かない。

「……撃退成功」

 無線がなった。それと同時にエンジン音がしてきた。その音はだんだんと近づいてきているように感じられた。

(これは、この音はっ!)

 雨宮はすぐに上を見上げた。目線の先にあったものは、戦闘機だった。

「速やかに戦闘機を撃墜せよ!」

 雨宮の命令が無線に流れた。


 ――アメリカ軍本隊。

「107連隊との連絡が取れません!」

 隊長クラスが焦って乱雑に扉を開けた。

「なんだと!」

 それに続き、一般兵が隊長クラスの兵士に向けて耳打ちをした。

「日本軍の無線盗聴により、107連隊は撃退されたと思われます!」

「いや、予想はしていたがここまでとはッ……」

 兵士が報告を聞いて、上官たちにはざわめきが生じた。

「こうなったら、あれをッ!」

 上官が声を荒らげながら叫んだ。

「そんな! あの機体(・・)はまだテスト飛行中ではないかッ!」

「いやしかし、それしか…ないのでは……?」

 反論する者もいるが上官を支持する者のほうが多数派であった。


 日本軍側。

 アメリカ軍を(おび)き寄せるというのは作戦の一部であり、全てではなかった。こちらへ向かってきている戦闘機に向けて石が飛んでいった。パイロットは、精一杯避けようとしたが、数個が右翼部分に被弾して穴が空いてしまった。バランスが取れず、ゆっくりと地面へ落ちていき、爆発しながら地面に衝突した。今のは、対飛行機用の投石機で石を何個も一気に相手の飛行機へと投げる。これこそが日本軍側の作戦だったのだ。

 基本的に、日本軍では資源や、火薬、対戦車兵器などが少ない。なので、雨宮たちはこの作戦のように、火薬をなるべく使わないように工夫をしている。誘き寄せる作戦もそうだがなるべく銃弾を使わずに敵を倒して、相手の武器を奪うといった事が必要なのである。

 パイロットは危機一髪で機体から飛び降り、パラシュートを展開することで墜落を回避していたが、その直後に、頭を撃たれて殺されてしまった。パイロットの死体は脱力したようになっており、地上に向けて大量の血液が垂れており、まだ生き残っていたアメリカ兵の頭に付着した。そのアメリカ兵は血を見てしまった。新兵だったからか、血を見慣れておらず、パニックを引き起こし、アメリカ本隊へ逃げようとした。後ろから日本軍の遊撃部隊に胸を撃たれて地面にうずくまった。

「うげぎゃぁぁあ゙」出血が酷く、この兵士はもうすでに助からないところに来ていた。その兵士は恐怖と痛みからか、とてつもない叫び声を上げ、絶命してしまった。

「総員、気を抜くな! 次に備えて石を装填だ!」

 雨宮は、ここからが本番だと言わんばかりに叫んだ。その声を聞いて日本軍兵士は一気に行動を開始した。

(しかし…だ。今は運良く歯車が絡み合いこの状況を保てているが、少しでも歯車がずれると我々は、奈落(敗北)へと真っ逆さま……)

 この作戦最大の弱点はバランスが常に不安定だということだ。進軍してきたアメリカ兵を一人でも撃ち損ねると本隊へ伝えられ、作戦がバレてしまう。飛行機への投石作戦に関しても、投石機は一回撃ち終わると次に撃つのに時間がかかるのに加え、投石機の数もそこまで多くないので、外すと一気に飛行機によって攻め落とされてしまう。

 アメリカ軍の第二陣の歩兵隊がこちらへ向かってきた。第一陣と同じく、誘き寄せて一網打尽にした。しかし、最後に撃った米兵がわずかに腕が動いたが、日本兵は見逃してしまった。そして、その生き残っていた米兵が手が震えながらも、手榴弾のピンを抜き、日本兵向けて投げつけた。

「ドォン!!」

 雨宮を含めた多くの日本兵は手榴弾に気づかなかった。そして、続々とアメリカ軍が進軍してきた。その場所は一気に鉄の雨が降り注ぐ戦場と化す。

 雨宮が急に目の前が真っ白になり目をパチパチしていると、少しずつ視力が回復してきた。それでやっと自分が、地面に倒れており、自分の上に何か重い物が乗っかっていると分かった。それに触れると、手にドロッとした赤く、液体らしきものが手を占領した。それの正体は視界がぼんやりしてもわかるものだった。なんと、人間の血液だった。

 雨宮は驚愕した。血液自体に驚いているのではなく、なぜ血が手に触れたのかに驚いているのだった。視界もほぼ治り、自分の上に乗っかっているものを見てこれまた驚愕した。昨夜、雨宮と会話した兵士が大量の血を出しながら倒れていた。

「お、おい! 一体何が起こったんだ!」すぐに起き上がり、その兵士に話しかける。

「よかった…ゴホッ…無事で……」

 兵士は吐血しながら目をゆっくり開けたが、その瞳は今にも死にそうなうつろな目だった。そして、段々と生気が目から失われていくのが分かる。

「……」

 兵士は爆発があった地点に向けて指をさした。それを追って雨宮の視線もその地点にいく。そこは中心から放射状に黒く焦げていた。それを見てやっと理解する、作戦が失敗に終わったのだと。

 兵士の腕がパタンと落ちった。

「し、死ぬな! お前が死んだら残された子供たちはどうするんだ!」

 すぐに視線を兵士に戻した。兵士の眼は焦点が合っていなく空を見ている。

「いいんですよ……」

 雨宮が知ることはないが、彼がこの部隊にきた数日後に彼の子供たちが避難していた場所に空襲があったとの連絡と子供たちの行方が不明だという旨の手紙がきたそうだ。

「私より……あなたが生きた方がいい……」

 言い終えてすぐに満足そうに眼を閉じた。いつの間にか雨宮は息が荒くなり、顔は汗だらけになっていた。

 周りを見渡すと、今いたアメリカ兵は一掃し終わったようだが、まだ生きている兵士は数えるほどしかいない。皆、疲弊しきっておりこれ以上の戦闘は無理だと判断した。

「ごめんな……」

 自分を庇った兵士に顔を戻した。そして、立ち上がり、残りの兵士へ向かった。雨宮の目には憎しみとも怒りとも違う感情がある。

「お前ら()撤退するんだ!」

「雨宮さんは!?」

「俺のことは気にするな……絶対に生きて帰れ!」

「し、しかし……」

 兵士たちは雨宮が何をしようとしてるか理解し、止めようとした。

「命令だ⋯最後のな⋯⋯」

 その言葉を聞いて兵士たちはそれ以上深追いはしなかった。素早く撤退に向けて行動を開始したのを見て雨宮は安心することが出来た。

「準備が終わったらさっさと行け!」

 進軍してくるアメリカ軍を遠目に指示した。そして、準備を終えた兵士たちが敬礼をして走り去っていった。

 現在、手にある武器は先端に刃が付いた銃と数個の手榴弾があるだけで最新装備のアメリカ軍相手に張り合えるわけがない。

(武器は心もとないが時間は稼ぐことはできるか)

 銃を構えアメリカ軍を見据えた。


 そこらは死体の山になっていた。戦闘開始から何時間たったかもわからない。雨宮は疲弊しきっていた。怪我がないわけではないが重傷を受けずにアメリカ兵を倒していたが、体力的には厳しいものとなっている。

 雨宮は不甲斐なくて惨めな自分に怒っていた。アメリカ兵に申し訳ないと思いながらもこれは八つ当たりだった。そうしないと自分自身に(いか)っておかしくなりそうだったから。

 その場に立ち尽くし、今にも倒れそうにふらついている。すると変な形をした飛行機が飛んできた。木が邪魔で雨宮の視界から隠れていたとしてもエンジンとプロペラの音がしないという違和感に雨宮はすぐに気づいた。

 その飛行機は空をある程度旋回した後に雨宮の方へ向き機銃を乱射してきた。雨宮は木の陰に隠れたが弾幕の威力と量によって木は粉砕されて雨宮に命中した。飛行機は機銃を打ち終わると、ミサイルを打ち込み、アメリカ軍本隊へと飛び去っていた。

 煙が晴れると体中が穴だらけの雨宮が膝をついていた。運よくミサイルは雨宮のいる場所をそれたようだ。左足の脛の一部と右のわき腹が吹き飛ばされ、わき腹からは腸が露出していた。幸か不幸か頭部に弾丸はあたらなかったようだ。その瞬間、森林の奥が目を細めるほど眩しく光ったと思ったら一瞬で右腕が消し飛び、その衝撃で後ろに倒れた。

(何が起こったんだッ……)

 引っ込んでいた痛みが右腕が吹き飛ばされたことにより戻ってきた。弾幕にハチの巣にされたこともあり、声も出ないほどの痛みが精神を蝕み、感じたことのない恐怖を与えてくる。しかし、目を開けると入ってきた景色、悔しくも美しい青空と自然を見ると自然に痛みが引いてきてふわっとした暖かい感覚に包まれた。

「もう死ぬか⋯あいつらは⋯⋯」

 アメリカ軍本隊の反対方面に、小さいボートで逃げていく残存日本兵が、視界の端に映った。アメリカ軍も消耗が激しいためか、これ以上攻撃しようとしていなかった。それを見た雨宮は、ゆっくり目を閉じ、少しだけ安堵の表情をしながら息を引き取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白いですね しかし見ていてイライラしてきた 俺はいつもイライラしないのに!
2025/09/15 12:47 陰毛パスタ
とても素敵な話だと思いました 戦争について詳しくしれました。 応援してます!!
2025/09/09 19:51 脇毛フェチ
とてもよいと思いました。 昔、本当に話していた会話のようで自分でも分かりやすかったし内容もとても面白くて楽しかったです。 これからの作品も読んでいきます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ