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後半

「高里。お前、この間はよくも俺のCR-Xをあんなボコボコにしてくれたな。せっかく車屋のおじさんに値引きしてもらったのに板金でさらに金がかかったじゃねえか。最悪だぜ。お前のせいで俺は人を殺すのにハマったんだ。俺じゃなく、お前のせいだ。きっと天国でお前を置いて死んだクソオヤジも泣いてるぞ。やーい父泣かせ。

悔しかったらお前は2月7日に竜王渓駅に来い。俺のCR-Xの全てをお前に見せてやるよ」

この挑発する文章が俺のポストに届いたその日、俺は織川とかいう男を心底許せないと思った。

極悪非道で残虐な人殺しのくせに自分を正当化し、人の人生や家族の尊厳を踏みにじるような発言。絶対に許せない。俺は今すぐに織川を殺したいと思ったが、俺が人殺しになればあの織川と一緒になる。だから俺は人殺しにはなりたくない。俺のZも傷付くし…

そもそも、俺はCR-X自体下の中ぐらいの車だと思ってるし、ああいう酷いセリフは本心じゃなくてあの女どもに言わされただけなんだけどな…

俺は一瞬で、アイツと勝負するために竜王渓駅に行く事を決意した。そしてやってきた2月7日。俺は愛車のZとともに竜王渓駅へと駆け出した。

例え燃費が悪くても、小回りが効かなくても、パワーと排気量とリトラさえあればいい。Zは俺が選んだ車だ。死ぬ時も一緒だぜ。

Zへの思いを心の中で綴っていると、もう俺は竜王渓駅へと辿り着いていた。

駐車場には、あの赤のCR-X。中には…誰も、いない。

しばらくして、あの織川が缶コーヒーを持って俺の方にきた。そして、次の瞬間、俺のZを蹴り、缶コーヒーを少しだけ、俺のZにぶっかけた。そして、織川はこう言った。

「俺は殺しのプロだ。かかってこい。お前なんか俺のテクで崖から落ちてミンチだぞ」

窓越しに聞こえたその言葉に、俺は静かに激怒した。

そして、俺たちは並んで交差点へと向かった。

スタートは、信号機が赤から青になった時。この勝負で、判決が下される。俺はCR-Xに勝って、織川に土下座させる…!それができなければ、俺は走り屋をやめて日光から逃げる。そう決めた。

信号が赤から青に、俺らはクラッチを踏み、ギアをチェンジする。そして、バトルは始まった。

最初は長い直線だった。しかし、その先にはすぐコーナーがやってくる。俺は余裕を持ってタイヤを滑らせる。そして、正面を向いてそのまま進む。

いつものように完璧に走っていた。しかし、あのCR-Xには勝てそうにない…

なぜだ?あのCR-Xはチューンしまくってもいって220馬力ぐらいしか出ないんじゃねーのか?なのに、320馬力の俺のZにくっついてきやがる。クソが…

工場汗水流して稼いだ大切な金を、こんな馬鹿みたいな所で無駄にしたくねぇ!あのCR-Xには傷をつけられるのさえイヤだ。ブチ抜いてその差を見せつけてやる!

俺は強くアクセルを踏んだ。レッドゾーン限界までエンジンを回して、すかさずギアチェンジ。

しかし、ヤツは未だに食いついてくる。コーナーでも差をつけれない。なぜだ?サンデーレーサーの生半可なグリップ走行よりも俺のドリフトのほうが早い筈なのに!

思考を巡らせて、俺は信じたくない事実に気づいた。

あのCR-Xは、ATだったのだ…

走り屋であるかぎり、ATと戦うなんてもっての外。あいつは、走り屋のくせにATとかいう機械に頼っている、クソダセェセッコセコなヤツだったのだ。

だが、俺はそのATのCR-Xに勝負を仕掛けてしまったのだ。

この勝負、なんとしてでも勝つッ!

小さなコーナーでも、すかさずドリフトで華麗に擦り抜けた。しかしCR-Xは張り付いてくる。

小刻みに、何重にもくねっている道でも、俺は減速を抑えるためにハンドリングを限界まで抑えた。しかしCR-Xは張り付いてくる。

やっと大きなコーナーがやってきた。俺はドリフトでコーナーを曲がり、ついにあのCR-Xを払い除けたかと思った。しかしCR-Xは張り付いてくる。

俺は視界の8割をあのCR-Xにやってしまい、走りに全く集中出来ずにいた。そして、俺はとうとうCR-Xに抜かれてしまった。

俺を背中に加速していくCR-X、俺のZはただCR-Xが先導する道を走るだけのなにかと化していた。もうこれはレースではない。最初から、この勝負は決まっていたのだ。

そうしてもう既に残りのコーナーはあと4つとなっていた。そして、あと一つのコーナーを曲がれば、ストレートとなる事を俺は思い出した。

あのCR-Xには、もうけっこう差をつけられていた。しかし、その事を思い出して俺の勝負心に火がついた。

あまりにも遅すぎる目覚めだったが、俺は、CR-Xを抜けばいいただそれだけだと思い込んでもう止まらなかった。

俺のZのV6エンジンのように俺の心は燃え上がる。俺の父さんをバカにしたくせに、勝って帰ろうだなんて、させねーぞそんなこと!

俺はこのストレートでアクセルを踏み潰す勢いで踏んだ。踏みっぱなし。そして、やってきた2つ目のコーナー。俺は今度はブレーキを踏みっぱなしにした。減速して、コーナーを曲がれば、もうCR-Xは目と鼻の先にいた。

そして、すぐにやってきた3つ目のコーナー。これをドリフトでよける。

そして、最後のコーナーの前のストレートがやってきた。ここで勝負だ。抜ける、抜ける、抜け!

CR-Xは左の方へとはけた。俺はそのまま右側に行く。

そしてコーナー。俺はすぐさまCR-Xを抜こうとしたが、CR-Xが右の方に少し曲がってきた。

マズイ!このままだと、隙間が塞がれて俺のZはCR-Xとともに潰れてしまう。そんなのは嫌だ!中古車ショップで格安の170万で手に入れた3000ccのZ、こんなところで壊したら汗水流して稼いだ金がパァだ!しかも、俺はCR-X如きに負けたってことで日光の走り屋中で笑い者になっちまう。排気量が1500ccも違う。しかも、100馬力もパワーが違うのに負けた。と言う事でな!かといってそのCR-Xを壊せば、俺は日光中の走り屋界隈で除け者扱いされる。マシンを壊すという事や人を殺すということは走り屋の中でもありえない行為…

ならば、どうする。どうすれば…

ああ、もういい!俺は短い隙間、これを避けてCR-Xを抜く、そして勝つ!

俺はCR-Xのように右に曲がり、視界をCR-Xから隙間へと移した。全ての神経、全ての細胞を隙間に集中させる。

いける!いけるぞ!このまま俺は勝つ!

時速150kmでCR-Xなんてぶっ飛ばしてやる!!!

その瞬間、大きな破裂音と共に、俺は瞬間的で絶望的な痛みを味わった。


痛い、痛い痛い痛い!

あれ…なんか、俺のZ、燃えてる?

CR-Xは何処だ?何処に消えたんだ?

もしかすると、俺は峠から転落した?

という事は、俺のZはただの鉄クズになったのか?

という事は、俺はCR-Xに負けたのか?

という事は、俺は日光中で笑い物になってしまうのか?


という事は…

俺は…

死んだ…?


嫌だ


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


生きたい、生きたい生きたい!

生きて、俺は走るんだ!

生きて、俺は峠のスターとなるんだ!

生きて、俺はZとともに余生を過ごすんだ!

死にたくない!死にたくない!でも、もう意識が!


そして、高里は意識を失った。

高里が最後に見たのは、燃えてゆくZ31のボディと、血が滲んでゆく服と、ただ空一面に広がる星屑だけだった…




高里春也は生きていた。

どうやら、茨城からやって来ていた観光客が、鬼怒川温泉に行くついでに偶然県道19号線を攻めており、その時に燃え上がるZ31を見て、消防に通報したそうなのだ。

それで、まあ高里春也はギリギリ一命を取り留めたそうなのだが、軽い記憶喪失に陥っており、それと体の右側がかなりやられていたらしい。

その高里を見た人曰く、虚な目をして、「生きれた、俺は生きれた」とぶつぶつと呟いてるだけの男と化し、かつての覇気はもう無くなっていたそうだ。人々は高里のそんな情け無い姿に絶句していた。

そして、もう1人。その高里に対して絶句していた走り屋がいた。

織川義明、21歳。

彼は高里の生命力に怯えていた。


あの日、俺は高里春也を殺した。なのに、まだ生きている。

このまま高里が記憶を取り戻せば、俺は逮捕される。

今までやってきた事もバレて、俺はムショ送り。そして…俺は死ぬ…!

そんな、俺はこんな所で捕まりたくねえ!

それから、織川は大学を自主退学。そして、逃げるように日光という地を去った。

向かった先は、長崎の浦上。彼は、家賃1.5万円の浦上のアパートで暮らし、浦上のスーパーで働いた。彼は意外と仕事ができ、10年で課長、20年で店長となった。

あのCR-Xは、今は織川の家の駐車場にひっそりと停まっている。織川は、あの日から車を走らせる事が苦手になったのだ。また、人を殺してしまうかもしれないからだ。

彼は今も駅の指名手配のポスターを見てしまうそうだ。それは、「彼の犯した罪がまだバレていないかというのを確認するため」だそうで、しかも、彼はあれから20年、一回も警察や交番に行ったことがないそうだ。

彼が人助けサークルとかいう、ふざけたサークルでリーダーをしてたあの頃、彼は時たま、女が1人で歩いている時に轢き殺していたらしい。その罪は、とりあえず「標的」になすりつけておいたらしいのだが、あの日の高里の目を見た瞬間、自分の今までしてきた畜生行為がフラッシュバックしてきて、それから一ヶ月はずっと無気力だったそうだ。

しかし、彼が日光から逃げてもう早くも20年経った。

もうあの記憶は色褪せており、彼自身も久々に車を走らせたいなと思っていたそうだ。

そんな中、スーパーにとあるポスターが届いた。

「これ、貼っておいてください!」

「は、はあ。わかりました。」

灰ヶ峰、かあ…久しぶりに、遠くまで走りに行ってみるか!

「すまん!副店長、俺は今週の土日休むから、店のことよろしく頼むぞー」

「は、はい店長!」

そしてやってきた土日。俺は、CR-Xにレギュラーを満タンに注いで、灰ヶ峰へと出陣した。

高速道路を駆け抜ける。俺は、好きなジャズソングのCDを流して、でそれを口ずさみながら広島へと向かった。

そして、俺は広島に到着した。


高屋ジャンクションで高速を降り、国道375号線に乗り換える。そして、郷原ICで降り、目指すは灰ヶ峰。

灰ヶ峰に行く途中、コーナーが連続する峠道を通った。俺は走り屋の血が騒いだが、あの事件を思い出して、俺は安全運転を心がけた。

灰ヶ峰に着いた時、時刻は17時になっており、呉の港と夕焼けがマッチして素晴らしい景色であった。俺はすっかりこの景色に見惚れて、1時間ぐらいここにいた。

しかし、この美しい時間も束の間で、俺は明日の予定を思い出した。そのため、俺はもう帰ることにした。

俺はCR-Xで帰路をぼーっと運転していると、久しぶりに峠を攻めたくなったので、俺はこの峠をアクセル全開で走ってみた。

峠を走っているうちに、昔の懐かしい思い出を思い出す…

あの事件のことは忘れて、俺は走りに没頭した。

だが、そんな楽しい時間が打ち破られたのは、一瞬のことだった。

しばらく走っていると、住宅街に降った。そこには、手を繋いで仲良く歩いているカップルがいた。だが、そのカップルの片方の男は後ろ姿が非常に高里に似ていたのだ。俺はそれをスルーして行こうとしたが…

「じゃあまた会おうね!今日は楽しかったよ、陽一クン…♡」

「ああ、またね。」

女の子が、車道へ飛び出したその時…

  あ


 れ


  で



 し

 さ


 き


  ゃ

というメッセージが脳裏によぎった瞬間、ガツッとした鈍い音が聞こえた。その音が鳴るのと同時に、俺は現実に戻った。

俺は何故か、惰性でその女の子を轢いてしまっていたのだ。

そして、俺の目の前には、女の子が血を出しながら虚な目をして倒れていた。

男の子は絶望したような表情で、こちらを見ていた…

俺は逃げた。

高速道路へと車を飛ばして、1秒でも早く、周りにバレないようにすぐに長崎へと帰ろうとした。

高速道路では時速140kmで飛ばして、ようやく長崎に帰ってきた。

俺は長崎で、21年間苦楽を共にしてきたCR-Xを売った。

それから、俺はバレる事を恐れて人前に出ることを恐れたが、あのスーパーでは働き続けた。だって俺は店長だし、俺が急に行方をくらましたらみんなは迷惑するだろうし、俺はもう人を困らせたくないから…

しかし、ある時、バイトの子からこんな質問をされた。

「すいません、店長、昔CR-Xっていう車持ってませんでしたか?赤いやつ」

「ああ、そうだけど。それがどうかしたの?」

「もしかして…店長って、呉の轢き逃げ事件の犯人なんですか?笑」

「どういうこと…」

「知らないんですか?最近掲示板で有名になってるんですよ!赤いCR-Xに恋人を殺された高校生!わたし、最近調査してるんですよ!私人逮捕が趣味なんで!」

「…」

「ま、どうせ釣りですよねー、最近そういうの多いし。人の死をネタにしてでも反応して欲しいんですかね?最近の高校生ってやつは…」

「…」

バレてしまった。俺がやる事は、ただ一つだけ…

「下村さん…すまないけど、カッターを貸してくれないか?」

「ああ、いいですけど。何につか…」


ズズッ


制服をたくしあげ、胸元を裂く、血が吹き出す。


「店長、何してるんですか!」

「いや、俺実はその事件の犯人なんだけど…もう、バレちゃったから、死んだ方がマシかなぁって…」

「はやまらないでください!」

「いや、もういいよもういいよ。実は俺、それ以上にもう既に20人ぐらい殺してっから…」

「何言ってるんですか、店長!そんなわけ…」

「本当のことなんだ…あの事がバレた以上、俺はもう生きたくない。俺がこのまま生き続けても、また同じ過ちを繰り返すだけなんだから…」


ザクッ!


俺は胸元を刺した。そして、他界した。


「店長!!!」


結局、俺にとって「人助け」とは何だったんだろうか。俺は人殺しの快楽に目覚め、何人もの人を「人助け」で殺してしまっていた。

俺はこの自伝を、今を生きる善意で人を傷つけてしまう、可哀想な人々に捧げようと思う。そうすれば、きっと変わってくれるはずだから…


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