前半
「よっしゃ、ついにあのCR-Xを手に入れたぞ!」
1990年11月、俺はついに憧れだったCR-Xをゲットした。
CR-Xが俺の憧れになったきっかけは、高校生の頃に街中でCR-Xとすれ違った事だった。VTECという音の良いエンジン、1000kgというスパルタンボディ、短く小回りのきく車体。CR-Xの全てが俺を魅了した。
そして、俺にはこのCR-Xで走ること以外のもう一つの目的があった。
それは成人式で中学のあいつらにこのCR-Xを自慢する事。中学の頃イタイケだった俺がこんないいクルマに乗ってると知ったら、あいつらどんな反応するだろうな…
この頃の俺は、二ヶ月後の成人式が楽しみで待ちきれなかった。毎日、地元の栃木県道19号線を攻める事に明け暮れ、俺は、自己ベストを更新するたびに自分のCR-Xがどんな女よりも美しく思えた。しかし、俺の期待は多いに外れる事となった。
1991年1月、成人式…
「ていうか、おめーらなんの車乗ってんだ?」
こいつは高里。中学の頃はイケメンでかなりモテていたが、酒にはめっぽう弱く酔ったらこの通りだ。
「えー?俺はレビンだわ。安かったから笑」
「へー、レビンかー、ええやないか。で、オメーはなんだ織川?」
俺の番がきた。一瞬、俺は戸惑った。だが、近年環状族とかいう輩がいるのを知って俺のようだと元気が出た。
そして、決心してついにいう事にした。
「俺?ああ、CR-Xだよ!俺のVTECでも聞い…」
「CR-X?オメー、軽みてーなちっちゃくてカワイイクルマ乗ってんなー、まだそのキャラ続けとったんか。」
と、高里は言った。俺はそれを聞いて拳を握ったがなんとか堪えた。しかし、それを聞いた元高里の取り巻きの女子どもはこう言った。
「えー?織川、まだそんなキャラ続けてんの?ダッサダサよ、ほんとやめたほうが良いと思う笑」
「てか、可愛い車って何〜?男のプライド捨ててて笑うわ」
こいつらは元々、口の悪いキャラだが、こいつらの悪口に、俺は激怒しかけた。しかし、まだ堪えた。この3人は俺だけを傷つけたんだ。俺のCR-Xを傷つけた訳じゃない。俺のCR-Xは俺が守る。
「まあまあ、落ち着けよ2人とも」
と高里が言ってこの話は終わりとなった。
まあその後もなんやかんや思い出話をしてなんとか同窓会は終わったのだが、更なる悲劇が起こったのはその後だった。
これは駐車場での話、俺はありえないものを見たのだ。なんと、あの女子2人が俺のCR-Xを蹴っている、しかも、奥には高里が…
俺はどういう事だと問い詰めた。しかし、高里はこう言い放った。
「おめーがこういう『よく見たらダサい車』を周囲に自慢するからこんな事が起きた。車なんか持ってないって先に言えばこんな事にならなかったのにね。本当に惨めだ」
と嘲笑した。
それに賛同して、女子も
「そうだよ。高里くんの言う通り。こんなダサい車、誰が乗るかよ笑」
と言って、俺のCR-Xを強めに蹴った。
「今日は笑わせてもらったよ、また会おう!」
と言って、高里は愛車のZ31に乗り込む。それをかっこいいと言ったり、時々俺の方を見て嘲笑する女ども。
俺はコイツらのことが心底許せなかった。普段なら許せたかもしれない。でも、今の俺の最高の相棒で恋人であるCR-Xを傷つけたアイツらには、死で償ってもらわないと俺は気が済まなかった。
そして、俺はコイツらを亡骸にしてやると、決意した。
俺はまず、あの女子2人を尾行した。そして、人通りの少ないところで、俺は女を殺す事に決めた。
計画は順調に進んでいた。しかし、途中で俺の尾行がバレた。俺のことを見下す目で見る女子、おそらく俺を罵倒しているのだろう。
ここは住宅街。こいつらが騒げば、いつ誰にバレてもおかしくない。しかし、ここは夜の住宅街。一瞬で真っ二つにすればバレない!よし、行くぞ!
俺は女どもに向かって発進した。そして、壁のところでうまく突撃して、女2人をまとめて挟んで曲がった。
ドアを開けると、2人は血みどろになっていた。
「我ながら良い出来だぜ…」
俺はすぐさま2人の遺体を後部座席へと片付けて、周囲を掃除して山へと向かった。
人は死ぬと臭いのか分からないがけっこう臭うからなんか無理だ。俺は吐くのをこらえた。しかし、同時に俺は胸が熱くなるのを感じた。たった今、俺は人を殺す悦びに目覚めたのだ。これは過剰防衛で、多分俺は2人を殺した罪で死罪も免れないと思う。俺は、埋葬ではなくスーパーでマッチ棒を買って焼く事に決めた。
山につき、俺は道路から離れた森にに2人の女を置いて、2人を犯した。そして、俺は2人を焼いてから埋めた。
どうやら2人はどちらも浮浪者の身だったらしく、隠蔽作業をする必要さえなかったので楽勝だった。
これで、終わった…?いや、まだ終わってない。まだあの高里がいるし、しかも俺は、これで人を殺す悦びに目覚めた。それで、俺はこの趣味は何かに使えないか考えた。そして考えたことは、大学に「殺し屋サークル」を作る事だった。
俺の人生はここから始まった。
何ヶ月か後。栃木県の某大学に、ようやく人殺しサークルを作った。それこそが、人助けサークルだった。人助けサークルには10人もの人が集まった。その殆どが、善意や優しいことしか取り柄がなさそうなイタイケな奴らだった。俺は、10人に殺しの流儀やこのサークルのしくみを教えた。
そして、このサークルの真の姿を絶対に晒してはならぬことも伝えた。
5人は俺のスピーチに感動していたが、もう5人はこのサークルの真実を聞いて失望していた。
彼らに対して俺は、やりたくなかったら抜けていいがこのサークルのことを話したら死ぬぞと脅し、秘密を死守した。
サークルの表の顔は、まあ相談のような事をしてるサークルなのだが、その相談でたとえばAがBにいじめられていると聞けば速攻でBを殺しに行くという風なサークルである。なぜそれが殺しだとバレないのか?それは、俺が裁判をかなり高等なテクニックで仕切っているからだ。まず、俺は誠実な男を演じる。次に、もう1人の標的を容疑者に仕立て上げ、さらにそいつの弁護をひどい弁護士にやらせる。これで2人も人を貶める事ができる。これを思いついた時を思い出すたびに、やはり俺は天才だとつくづく思う。
やがて人助けサークルの闇は大学中で噂になり、呪いだの神力だの、はたまたサークル長である俺が日光出身だからという理由だけで日光東照宮の力だの、理系文系問わず非現実的な妄想でさらに噂が盛り上がった。しかし、俺にはまだ未練というものがあった。それは、あの高里をまだ殺していないという事だった。
だが、高里は頭の中で殺しておこう、今は依頼に集中せねばならない。
高里春也…彼は、中1のころ仕事の都合でこの日光市に引っ越してきたらしい。彼の父は車好きで、高里はよくいろは坂の峠を攻める父の姿を見ていたらしい。彼の父の愛車は、たしか今人気の「ドリ車」ではなく、シティやシビックのような、いわば「ボーイズレーサー」の車だったようだ。俺にはたしか、ゴルフGTIとかいう外車のシビックのような車だったということだけはわかった。彼はイケメンだし話が上手だったから、彼の車話にはかなりの人が引き寄せられ、クラスの人間のほぼ半数が車好きになった。
俺の父も、車ではないがバイクの店を経営しているため、車のことはバイク同様によくわかった。そのため、俺は高里の理解者となった。
しかし、中3の夏、事件が起こった。彼の父が、亡くなったのだ。
死因は事故死、その頃から彼は、かつての目の光を失ってしまっていた。しかし彼はそんな悲劇が起きても明るく振る舞い続けた。
俺も彼のその姿を見習って、中学を卒業するまでずっと彼のそばにい続けた。
ただ彼は、父が死んでからというもの、街中の多くの車を批判するようになった。その理由も聞き出せないまま、中学を卒業してからそれっきりだ。でも、同窓会で俺の愛車をあんなにバカにするなんて、そんなのあり得ない!
だが、高里はどこに住んでいるかも分からない。今どこにいるかも分からない。俺は走り屋ネットワークとは繋がっていないから、高里の情報を全く掴めずにいた。
そんな日々。しかし、あの同窓会から一年ほど経ったある日、高里からの挑戦状が届いた。
俺は人助けサークルを開いてからというもの、よくポストを確認するようになった。俺は実家暮らしだし、もし俺の家がバレてて、それでポストに迷惑メールが入ってたらたまったもんじゃないからだ。だが、迷惑メールはあまり届かなかった。
それに俺は安心していたが、ある日突然その挑戦状が届いた。
挑戦状の内容は、
「よう織川、突然だが、お前『殺し』をしてるらしいな。お前、正直言って上絹川中の恥だって地元のみんなに言われてるぞ。惰性で人殺し。地元の名前を傷つけて、お前は何が楽しいんだ?お前はただ自分が楽しくてそう言うことしてるだけだろ。それはだせえぞ。今すぐにやめろ。でなければ俺がお前を負かしに行く。そしてお前が中学の頃好きだった上谷も俺のものにしてやるぞ。」
という風なものだった。
俺は人殺しを善心でやってるのに高里は俺のことを侮辱した。許せない。
俺は決心した。葉書の裏には高里の住所。俺はそこに挑戦状を送る事を決意した。
俺は自分のホームコースである県道19号線を勝負の場所に選び、早速高里に勝負をしかけた。