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壊れた初恋  作者: 雨乞猫
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好きになる理由

土曜日になると萌香はスーパーの袋を両手に下げて現れた。


「今日は私の特性カレーを作ってあげるわ‼」

 

何を作るかと思えばカレーか。まあカレーならば失敗も無いだろうし妥当なところだろう。


「初めまして、お父さま。私、徹君とお付き合いさせてもらっています前島萌香といいますどうかよろしくお願いします‼」


目一杯の笑顔で頭を深々と下げる萌香。その迫力に圧倒された父さんは小声で〈あ、ああ。いらっしゃい……〉と答えるのが精一杯だったようだ。


父さんには今日萌香が来ることは伝えてあったのだが、萌香がグイグイ来るのでどうしていいのか戸惑っている様子だった。


食事を終えた後も萌香はやけにハイテンションで俺と父さんに話しかけて来た


その喋りに圧倒されてしまったがこういう展開には慣れているのでそのまま流すことにした。


しばらく三人で話した後、萌香が〈徹の部屋が見たい〉というので案内する事にした


父さんはすでに疲労困憊の限界といった様子だったのでちょうどよかったのだろう。

 

部屋に入ると萌香は周りをキョロキョロと見回し、不思議そうな表情を浮かべた。


「へえ~これが徹の部屋か……同じ男でも弟の部屋とは違うわね」


「俺の部屋は何も無いだろ?見ていてもつまらないと思うぜ」

 

俺の部屋には本棚と机とベッドがあるくらいで他には何もない


ポスターの一枚でも張ってあれば恰好が付くのだろうが何にも興味がない俺には無用のものだった。


「徹の部屋って感じがするわ」

 

そうつぶやくと萌香はベッドの上に腰かけた、それに合わせて俺も勉強机の椅子に腰かけようとした時


萌香が俺を少し睨んできて自分の座っているベッドの横をポンポンと叩いた。


これは〈ここに座れ〉という意味なのだろう、俺は萌香の指示に従いベッドの萌香の横に腰かけた。


すると萌香はスッと身を寄せて来て俺の肩に頭をもたれさせてきた。


「萌香、今日は妙にグイグイ来るな。お前ってそういう人間だっけ?」


「そうよ、私はずっとこういうキャラよ」

 

俺の感情のこもらない質問に萌香は静かに答えた。


「でもお前が俺に交際を申し込んできた時、もっと軽いというか、ノリで……みたいな感じじゃなかったっけ?」

 

すると萌香はジッと俺の顔を見つめて来た。


「あんなの演技に決まっているじゃん」


決まっているとはどういう事だろうか?俺には全く意味が分からないが


ここでそれを口に出すと萌香を怒らせそうな気がしたので無言のまま不思議そうな顔だけ彼女に向けた。


すると彼女は俺の思いを理解したのか、小さくため息をつくとヤレヤレとばかりに答えてくれた。


「ハア、あの時は徹と付き合う為に情報を仕入れてああいうアプローチをしたのよ」


「情報?何のことだよ」

 

俺には何の事か全くわからなかったので聞いてみると彼女は説明を始めた。


「静香に聞いたのよ」


「静香?」

 

聞き覚えの無い名前だが、誰だ?俺がぽかんとしていると萌香は呆れ気味に言った。


「静香よ、佐伯静香‼先日バイトを辞めた黒メガネの地味系女子。ていうか自分がフッた女の名前ぐらい覚えていなさいよ‼」


「ああ、佐伯さんの事か。そうか、佐伯さん静香という名前だったのか……」

 

俺の言葉に萌香は〈こりゃあダメだ〉とばかりに頭を左右に振った。


他にも徹にフラれた加藤奈緒と佐々木美奈はバイトを辞めてしまったでしょう?でも佐伯静香は辞めなかった


だから私は優しく話を聞くフリをしてどういう風に徹にフラれたのか、聞いたのよ」

 

何か凄い事をサラリと言っているような気もするが、まあいいだろう。


「それで静香が告ったら、徹に〈それは俺の事を愛しているって事?〉と問われたので戸惑いながらも〈はい〉と答えたら


急に冷たい態度になってフラれたって……静香は訳が分からないとか言って泣いていたわ」

 

萌香は俺の部屋の天井を見上げながらその時の事を思い出すかのように語った。


「だから、徹はあまり重い感じの恋愛は嫌なのかな?と思ったのよ。だからなるべく軽いノリで告ったという訳。


あれでも内心はドキドキしていたんだから」

 

萌香は少し恥ずかしそうに当時の事を告白してくれた。


「そうだったのか。しかし俺は自分が普通じゃない事は自覚しているからいいとして。


悩みを聞くフリをして佐伯さんに近づき、聞きだした情報を元に横から奪い取るとか……お前のやっている事も大概じゃないのか?」


「仕方がないじゃない、恋って戦いなのよ⁉静香は徹にフラれてもバイトを辞めなかった


それってまだ徹の事を諦めていないという事じゃん。だったら静香は私にとってライバルよ。私は負けたくなかったのよ」


萌香は何もない前方を見つめながら熱く語った。バイトを辞めなかった=俺の事を諦めていない 


というロジックには少し違和感を覚えたがそこを追求しても仕方がないのだろう。


それより重要なのは俺が絡んでいる事なのにどこか他人事というか別世界での出来事のように思える俺の心理なのだろう。そして萌香の話は続いた。


「それに静香の態度が気に入らなかったのよ」


「佐伯さんの何が気に入らなかったというのだ?」

 

俺が問いかけると萌香は眉を顰め強い口調で言った。


「だって、自分で告っておいてフラれたらその場で泣くとか、それって〈私、可哀想でしょ?〉って言っているようなものじゃん。


同情を引こうというか、哀れみのアピールというか、フッた男の前でこれ見よがしに泣くとか、私、そういうのが嫌なの。


告るならフラれる覚悟をもっていくべきじゃん。相手もいきなり告られて目の前で泣かれたらドン引きでしょ⁉


私ならそんな事は絶対にしない、泣くのなら一人になった時に泣くわ」

 

それが萌香なりの恋愛においての考えなのだろう、プライドと言ってもいいかもしれない。


だからこそ一つ確認しておきたいと思った。


「なあ萌香、お前、そんなに俺の事が好きなのか?」

 

俺の質問が気に入らなかったのか、萌香は俺の顔をキッと睨むように見つめて来た。


「当たり前じゃない‼何を今更、好きに決まっているじゃん‼」

 

まるでそれが当然とばかりの答えだった。再び出て来た〈決まっている〉というワードだが何をもってそれが確定事項なのか、俺にはさっぱり理解できなかった。


ただその考えを口にしてはいけない事だけは何となくわかった。


「だけれど萌香が俺に告白してきた時、ちょっとかっこいいから……と言っていたと記憶しているが、それが理由じゃなかったのか?」

 

俺が問いかけると萌香は憮然とした表情で答えた。


「私をその辺のバカ女と一緒にしないでよ。確かに徹はイケメンだけれど、私は徹の事を顔で選んだんじゃないわよ‼」

 

どうして萌香が腹を立てているのか、全く理解できない。


「しかし見た目以外で俺を好きになる要素なんか無いだろ?」


「あるもん‼」

 

食い気味に反論してきた萌香。俺自身がそんなモノは無いと否定しているのに


どうしてコイツはそんなにムキになっているのだろうか?考えても全く思い当たらないのだが……

 

俺が考えこんでいると萌香は苛立ちを隠しきれない口調で話を続けた。


「全く、何で徹はそんなに自己評価が低いのよ‼自信過剰のナルシストは嫌だけれど、徹は普通にいい男じゃない。もっと自覚しなさいよ‼」


「いや、見た目がいいとか、勉強ができる以外で俺に魅力などあるのか?」


これが俺の偽らざる自己評価である。そもそも他人となるべく関係を持ちたくない俺は言動もそういう傾向になる為、人から見ればかなり嫌な奴だと思うのだが……


だが萌香は俺の言葉にゆっくりと首を振ると、優しく囁くように語り掛けて来た。


「そんなこと無いよ、徹は優しいよ」

 

だがこの言葉に一番驚いたのは俺である。


「優しい⁉俺が?」

 

俺のリアクションに萌香は呆れ顔を見せ再びため息をつく。そして天井を見上げ昔を思い出すように語り始めた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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