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05. ニューマテリアルテック株式会社

 その後、ミッシェルはグレイブがトラックに引かれた後のことを話始めた。


 グレイブが守った男の子は無事だったようで、その後再会した母親が何度も頭を下げていた。


 そして病室の入口にはトラックの運転手が青ざめて入ってきたが、グレイブの様子を見て安堵のため息をついた。


「実はこのトラックには2ヶ月前に発売したばかりの衝撃緩和の新素材が使われていまして⋯⋯」


 グレイブは確かにトラックとぶつかったのだ。だが死ななかった。それは最新の衝撃緩和素材で作られた魔道具がトラックの正面に使われていたからだ。


 グレイブはトラックの運転手が必要な書類にサインをすると、ミッシェルはグレイブの伝版を渡すと、「数日は検査入院だから、家で荷物をまとめて来るわ」と言って帰っていった。


 グレイブは伝版を起動させると、トラックの運転手から聞いた衝撃緩和の新素材を扱う“ニューマテリアルテック株式会社”を調べた。会社のHPホームページが出てくる。

 法人向けの魔道具として“ニアリーゼロ”という衝撃緩和素材として載っていた。詳細は公開されていないが、効果付与の魔石を組み合わせて作り上げた製品のようだ。その会社が独自に行っている衝撃緩和テストでは、なんと衝撃緩和率が80%もあるようだ。


 グレイブがトラックと正面衝突したにも関わらず、致命傷もなく助かったのも納得がいった。


 そのまま他の魔道具を見ると、この会社が軌道に乗り始めたきっかけになったのが、伝版に使われる衝撃緩和素材だった。今ではこの素材を使っていない伝版はないほど有名だった。


 グレイブは自分の命を救ってくれたこの魔道具を作ってくれた会社の社長に、お礼を伝えたくて長々と手紙を書いた。


 気がつけば自分の身の上話も書いてしまった。


(あとで、身の上話の部分は抜き取ろう。今日はいろんなことがあって疲れた⋯⋯)


 グレイブが次に目を覚ましたのは明くる日だった。ミッシェルがグレイブのベッドの隣に座っていた。グレイブが手紙の事を聞くとなんと投函してしまったそうだ。


 後の祭りだった。


 だが、そんな事は言ってられない。病院の検査がいくつも続き、慌ただしいまま退院となった。退院の当日、ミッシェルが手紙を持ってやってきた。


 なんとあの会社から返信が来たのだ。しかも社長の直筆だった。


 グレイブは急いで手紙を開けた。中を読んでみると丁寧な、しかし味のある字で何枚も便箋が書かれていた。


 それは自分の奥さんが交通事故で人形化ザドールしてしまった。その動かない奥さんを見続けて他の人にも同じ目に遭ってほしくない、その気持ちから会社を興したことも書かれてあった。もちろん、作った会社は衝撃緩和素材を扱う――ニューマテリアルテック株式会社――今の会社だ。


 そしてその衝撃緩和素材の魔道具でグレイブが救えて本当に良かったことが書かれてある。グレイブは心の中で感謝すると共に読んでいて胸が熱くなった。そして封筒の後ろをちらりと見ると、この病院の近くだった。


 グレイブはダメ元でその会社に電話をかけた。受付の自動音声に従って番号を押していくと、秘書らしい人に繋がった。そして簡潔に手紙の事を伝えた。すると、電話を保留にされた。


 保留が解除されると、直接社長が電話に出た。そして社長と話した。今日退院すると言うと病院名を聞かれたので伝えた。すると社長は「これから行ってもいいかい?」と聞いた。グレイブは二つ返事で了承した。


 グレイブは社長と会うと少し丸みを帯びたフェイスラインだが、背筋がピンと伸びている。穏やかな印象の人だった。


 まずはアイスブレイクだ。


 社長は勇者の端くれだったが、素材集めのほうが好きで素材を集めては合わせてみたり、売ったりして生計を立てていたようだ。


 グレイブは鍛冶屋の話をした。


 すると社長は何かを少し考えると、こう切り出した。


「実は今度ニューメタル部門を始めようと思っていてね――」


 グレイブはピンと来なかったので詳細を聞いてみた。メタル――金属、生活のいたるところに使われている素材。ニューメタル部門とは金属に類する新素材の開発、あるいはメタルと新素材を融合したハイブリッド素材を開発するところのようだ。


 社長はグレイブの鍛冶屋の話を聞いて、提案してきた。


 グレイブは死を直面して、この人生は1度きりしかないと実感した。そしてこの人生はミッシェルの隣で、全力で生きると決めたのだ。


(僕はこの先全力で生きたい。自分の持てる力を使って何かを成し遂げたい)


 グレイブは社長の人柄も気に入ったし、志も共感した。グレイブは自分の素直な気持ちを伝え入社を決めた。


「御社でぜひ自分の力を試させてください。必ず結果を出して見せます!」


 社長からは包丁についても会社のプロジェクトで続けていいと言われたので、“メタル部門”も作ってもらった。こちらは主に包丁を扱っている。


 グレイブが力を入れているのは“割り込み包丁”と言われるもので、包丁の真ん中の層に他の部分とは違う固い金属を入れて作るものだ。強度も上がるし、金属の種類によっては錆びにくくもなる。合金の有用さを上げる可能性も十分残っているのだ。


 だが、グレイブはそれと同時に包丁のキレ味を少しでも残す、そして切れ味を変えないで食材を切ることによる包丁への衝撃を少しでも減らす新素材の組み合わせにも目を付けている。


 このニューマテリアルテックことニューテックの特許である“衝撃緩和素材”のニアリーゼロを使って、新たな包丁を作って見たい。それがグレイブの目標だった。


 ニューメタル部門では、試作の記録を取り続ける。素材の組み合わせとその配合を記録する。


(割り込み包丁にするなら衝撃緩和の素材をある箇所だけ、厚くしたり薄くしたり、量を多くしたり、少なくすることも案として良いな⋯⋯)


 それから時間は弓矢のように早く過ぎていった。


 グレイブが入社してから半年後、ミッシェルも同じ会社に入った。グレイブはこの会社が気に入ったので社長にミッシェルの事を話した。そしてミッシェルにも会社の事を話した。


 ちょうど管理部門に人が足りないというのでミッシェルにも聞いてみる。


「ミッシェル、僕の会社に興味はある? 社長が君さえよければ管理部門に人が足りないから来てくれないかって聞いてくるんだ」

「私もね、あなたの会社のこと気になっていたの」


 ほどなくしてミッシェルは社長と管理部門の人にそれぞれ会うと会社に入ることを決めた。

 それを伝えたくれた日にミッシェルは嬉しそうにグレイブに笑いかけた。


「これで私もグレイブが作るマスターソードのお手伝いが出来るのね」

「マスターソード??」


 グレイブはそれを聞いて目を丸くした。ミッシェルは指をさしている。


「この人生ではこれが包丁マスターソードでしょ? 魔王はいないけど王様ならいるわ」

「かしこまりました。王女さま、仰せのままに」


 グレイブは仰々しく片膝をついて頭を下げた。するとミッシェルが真っ先に笑い始めた。それを見てグレイブも笑い始める。


 その晩、2人は大きな声で笑い合っていたのだった。


 ニューメタル部門は小さな部門だった。刃物などの金属についての知識と経験が1番長けているグレイブが部門長となった。社長は「君の好きなようにやってくれ」と言ってくれた。


 だが本当に好きなように研究を進めていいのか心配だったので正直に聞いてみると、社長は笑いながら「いつも私は素材研究を好き勝手やってスグロに怒られてしまうんだ」と言った。スグロという人はこの会社の取締役だった。


 グレイブは早速”ニアリーゼロ”を目の前に持ってくると構想通り割り込み包丁を作ることにした。

 さて、どの部分にニアリーゼロを使うべきか――。


 迷ったら全部作るがグレイブのモットーだ。


 刃の部分も脇の部分も、包丁がまな板にあたる部分から、素材全部、その配合比率も変えて⋯⋯


 衝撃緩和の素材をある箇所だけ、厚くしたり薄くしたり、量を多くしたり、少なくして何通りも⋯⋯


 グレイブが入社してから5年目のある日、グレイブ宛てに電話がかかってきた。


 なんと王室からだ。グレイブはほんの数人の個人客の包丁の研ぎの仕事を続けていたのだ。そのうちの1人が大企業の社長の奥様のようで、グレイブの研ぎが気に入っていた。雑談をしていた時に会社で開発をしていることを話すと商品化したら1番に欲しいと言われたので商品が出来た次の日に包丁10本を渡していた。


 その奥様の知り合いの1人が王室の方だったそうで、その商品を見て気に入ったそうなのだ。そんな経緯もありグレイブの開発した包丁は王室に納入が決まった。


 その電話を置くとグレイブは階段を駆け下りて管理部門へと走った。


 ミッシェルの姿を見つけると、大声で名前を呼んだ。


「ミッシェル! 僕の作った包丁が王室に納入されることが決まったよ!!」


 ミッシェルはその知らせを聞くとはっと息をのみ両手で口元と隠した後、両手を広げてグレイブに抱きついた。


「グレイブ、おめでとう! あなたの夢が叶ったのね!」

「あぁ、夢が1つ叶ったよ」


 その後グレイブはすぐさま、社長の元へ報告しに行くと社長は満足そうな顔をしてグレイブと固い握手をした。


 そのニュースが世間の明るみに出ると、会社への問合せが増えた。


 包丁の反響を受けて1年後に会社は、アベレージ市場の株式上場からこの国で1番大きいプレミアム市場への上場が決まった。

お読みいただきありがとうございます!

【グレイブ編】はいったんここで終了となります。

次回よりグレイブが入社した”ニューマテリアルテック株式会社”が舞台となります。

”【ワイズ編】社長の闘い”をどうぞよろしくお願いいたします!

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