31. 特許は早いもの勝ち
オリバーがリビングテーブルへスパゲッティボロネーゼのお皿を置いた時、スピアは気まずそうな顔をオリバーに向けてきた。
まるでこれから怒られるのが分かっているように肩を縮めて下からオリバーを見上げている。
「スピア、どうしたの?」
「あのね怒られると思ったんだけど、この前特許の話をしてくれたでしょう? それで競合他社を調べていたら、今似たような資料を特許として出願しようって言う動きがあるって分かったの。勝手に調べてごめんなさい」
スピアはいつもオリバーの考えの及ばないことをしている。オリバーは「食べながら聞かせて」と伝えてお皿を置いた。
どこから調査したのか分からないがスピアの話を聞くと、競合他社も似たような試検を行っているようでそれの特許出願が間近のようだった。
調査方法は置いておいても、それが本当なら先を越されてしまう。
「でもこっちはもう資料の準備は出来ているよ。出願は明日に早めてもらおう」
スピアはまだ肩を縮めている。
「オリバー、特許を絶対に取ってね」
「もちろんだよ」
オリバーがそう答えたのにスピアの口は尖った。
「競合他社はレオンっていうの。偽レオンに絶対に負けないで」
それを聞いたオリバーは噴き出した。
「君にとって1番のレオンであり続けるよ」
「ふふっ」
■
オリバーは次の日会社のビルの目の前まで行くと伝版が鳴った。
スピアからだった。
「もしもし、スピアどうしたの?」
『まずいわ、今日偽レオンが特許の出願に行くようなの』
スピアは競合他社の株式会社レオンを“偽レオン”と呼んだのだ。
(こうしてはいられない)
オリバーはすぐに電話を切ると、父は電話をかけながら走って会社の中へと入っていった。
「父さん、もう会社? レオンに先を越されちゃう!」
オリバーは非常階段の重たい鉄の扉を開けると、一段とばしで階段を駆け上がり始めた。
父の部屋は7階だ。まだ30歳のオリバーには身体中のエネルギーが有り余っている。
階段を一気に駆け上がると父の部屋の扉を乱暴にノックして入った。
「特許は早いもの勝ちだ。俺たちの宇宙への希望が先に取られてしまう」
オリバーは矢継ぎ早に事情を説明した。
「社内手続きは後でいい。オリバー行きなさい」
「承知しました!」
父は慌てて立ち上がるとオリバーの背中をぽんと叩いた。
「オリバー頼んだぞ」
父からオリバーへ希望のバトンは渡された。
「はいっ!!」
オリバーは大きな返事とともに駆け出しながら部屋を後にした。
そしてオリバーは階段を下りて4階へと向かう。エレベーターホールまで着くとオリバーは大声でグレイブを呼んだ。
「グレイブさーん!」
窓際のデスクで電話を取っていた。オリバーの声に顔を上げてオリバーを見ると大きく頷いた。グレイブは電話を切ると「今、ワイズさんから事情は聞いた。すぐに資料を鞄に詰めていこう」と伝える。
「俺の引き出しに一式入っています」
それを聞いたグレイブは上着に腕を通した。オリバーは引き出しから資料一式を取り出すとリュックに詰めた。オリバーはそのリュックを背負うとグレイブを見た。グレイブと目が合うと頷いた。
「行くぞ」
「はいっ」
そこへオリバーの伝版が鳴った。オリバーは電話を取りながらグレイブと非常階段へと急ぐ。
『オリバー今は会社かしら?』
「あぁ、今出るところだよ」
オリバーとグレイブは階段を下り始めた。オリバーはスピーカーのボタンを押した。
『そこから魔道機関車なら2回乗り換えで全部で5駅。歩くと5キロメートルくらいあるわ。タクシーに乗った方が良いわよ。でも⋯⋯』
スピーカーから聞こえるスピアの声が階段の閉鎖された空間に響いた。
『オリバー、たぶんタクシーでは王都の渋滞があるから途中までしか行けないわよ』
「そしたら、そこから走って行くよ」
後、2階下りれば地上階につく。
『分かったわ。徒歩でのルートも調べるから、このまま電話は繋いでおいて』
「分かった」
地上階まで下りると非常階段の重たい扉をグレイブが開ける。
「ミッシェル!」
エレベーターホールにグレイブの奥さんが立っていた。入り口とは反対側を指さしている。
「今、ワイズさんから連絡があってスグロさんが社用車を回してくれるって、裏手から出て向かって」
「ありがとう」
グレイブはミッシェルに笑いかけた。
ミッシェルはグレイブの背中を押した。
「良い報せを待っているわ! オリバーくんもね!」
「ありがとうございます!」
ビルの裏手の方へ走る。出口の近くに守衛室がある。
「「いってきます」」
守衛に声を掛けてそのまま走って外へ出た。すると駐車場の奥から声がする。
「グレイブ! オリバー! こっちだ!」
2人は声のする方へ走る。スグロが車の窓を開けて顔を出して手を振っている。
グレイブは助手席のドアを、オリバーは後部座席のドアを乱暴には開けた。
2人は乗り込むと急いでシートベルトを着けた。スグロは2人がシートベルトを着けたのを確認するとアクセルを踏み込んだ。
『車での最短経路は王都7号線を通って、4号線に合流するの』
スグロはスピーカーから聞こえるスピアの声を注意深く聞いた。
「⋯⋯7号から4号ね。了解!」
『悪いけど少し急いでもらえるかしら? 偽レオンは3号線から4号線に合流したわ』
オリバーが聞いてみるとマルクと言うスピアの父の会社の取締役が競合他社、偽レオンの後ろをぴったりついているようだ。スピアは特許庁の前で待っているようだった。
「交通ルールぎりぎりで行くぞ」
スグロは車の間を縫っていく。4号線に合流した。
『たぶん2号線の途中までしか行けないと思うわ。渋滞が発生してるの。そこから走ったほうが速いわ。そこまで行けば1キロちょっとだから大丈夫よ』
「そうなんだね。ありがとう」
オリバーはしきりに両手の指を動かしている。まだ2号線の合流地点は見えないが車が増えてきた。
後ろからサイレンが聞こえたのでスグロを含めた周りの車は徐行を始めた。後ろからパトカーと標識車が走ってくる。それを見たスグロは顔を歪めた。
「もしかすると事故の可能性もあるぞ。ここから走って行け!」




