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30. オリバーの活躍(後編)

 オリバーは会社へ来るとデスクに鞄を雑に乗せるとグレイブの挨拶も短く切り上げ、昨日立入禁止にした試検室へと向かった。ドアノブが冷たい。


 ドアを開けると冷蔵庫のようだった。エアコンをつけると、それぞれの魔石を粉にしてビーカーへ入れた。


 それが終わるとグレイブをデスクから引っ張って来た。グレイブは何が起こっているのか分からない様子だ。


 試検室の3つのビーカーの目の前にグレイブを立たせた。


「グレイブさん、立ち会って下さい」

「なんだかここ寒いな。エアコンが壊れているのか?」


 二の腕を擦っているグレイブを横目にオリバーは3つ目のビーカーに定着剤のクズ魔石の粉末を入れて戻ってくるとその3つのビーカーをガラス棒をくるくると時計回りに回しながら混ぜ合わせる。


 パッとまばゆい光を発した後、ビーカーが熱を持ち始めた。その反応が終わり、ビーカーの中が落ち着いたのを確認すると、そのビーカーを試検室の奥の機械へと持っていきガラス棒につけた素材を機械の小さなガラス皿に乗せた。


 機械の蓋を閉めてスイッチを押した。計測が始まった。


 機械音が6回鳴った。終了の合図だ。


 オリバーは機械の画面を触る。機械が表示している数値を見るとオリバーはにんまりとした。グレイブは目を丸くしている。


「オリバー⋯⋯こんなに高い数値⋯⋯何をやったんだ? すごいじゃないか!」

「やりましたね!」


 オリバーは嬉しそうな顔をグレイブに向けた。オリバーは記録の比較から同じ質のグレードでも親和率と定着率が検査によって違うことを発見した。


 違う要素は何か考えた結果の試作だと説明した。


「仮説が正しければ親和率と定着率は取れた魔石の環境に近くして混ぜ合わせるほうが上がります。それをこれから検証してみましょう」


 グレイブは大きく頷くと手をオリバーの方へ上げた。それを見たオリバーはしたり顔を向けた。


「ハイタッチは検証が終わるまで取っといて下さい」

「なんだよ、おあずけか」


 グレイブは口を尖らせると、オリバーが笑い始めた。それを見たグレイブも笑顔になる。そして2人は大きな声で笑い合った。



 それから1ヶ月ほど、様々な条件で試検を繰り返した。取れた産地の温度や湿度を近くする。その近くした時間を6時間、12時間、24時間と分けて行う。量や配合比率を変えて何パターンも行う。それから混ぜ合わせる魔石の種類も産地のかけ離れた環境のものから近い環境のものまで分けて試検した。


 そこからオリバーが分析した結果、魔石採掘された場所と似たような環境で素材を合わせることによって親和率、定着率が向上することが分かった。


 それを報告したオリバーはグレイブを会議室へ呼んだ。


 オリバーは真剣な顔で資料を渡してきた。グレイブはそれを受け取ると資料を見始めた。


「グレイブさん、俺たちの希望を宇宙へ飛ばしませんか?」


 グレイブは資料から目を離し顔を上げると、目を見開きながらオリバーを見た。オリバーはグレイブと目が合うと説明を始めた。


「今回分かった魔石の画期的な調合方法を特許として提出します――」



 ――――――



 親和率と定着率が高いほど素材は安定する。過酷な環境や使用回数の多い場所、人の命を預かるところなどにはそのような素材が好まれる。


 その中でも技術者の挑戦したい分野で人気が高いのは宇宙関連だ。


 宇宙とは、まだ謎が多く残っている分野である。地上から打ち上がったロケットが大気圏を突破して宇宙へたどり着く。その環境の変化、他にはない環境で使用される素材には少しの弱点も克服したい。


 その宇宙関連に素材が使われるのは多くの素材開発者、部品加工者にとっては夢であろう。


 このニューマテリアルテック株式会社の場合は如何に親和率と定着率の高い素材を開発しないと及ばない分野だった。


「今回の分析を基に素材の質の高い向上が見込まれます。特許を取得するとこで高品質の素材の提供、弊社の衝撃緩和素材の劇的な改善が見込まれます。そしてその先には宇宙が見えてきます。まずは特許の取得を稟申りんしんいたします」


 オリバーはニューテックの取締役会で説明した。


 オリバーはちらりと父の姿を見ると硬い表情をしている。


(あれは泣くのを我慢している姿だなぁ)


 その両隣にいるスグロとグレイブは優しい目をこちらに向けている。


 去年から取締役がイノテックからの出向取締役2名から入れ替えがあったのだ。


 グレイブは父に指名されたようだ。カーター取締役はスグロの右腕のようで仕事がすごく出来ると父から聞いている。


 スグロの横にいるカーター取締役は資料を隈無くチェックするとゆっくり資料を閉じた。口元は笑っている。


「ついに宇宙が見えてきたんですね」

「あっカーター、俺のセリフ⋯⋯」


 スグロが悔しそうに口を挟んだ。それを見たグレイブが調子を合わせた。


「ははっ、それも議事録に残しますか?」


 皆が笑った後、父が咳払いをする。皆の視線が父に集まった。


「オリバー、この議案は決裁する。まずは私たちの希望を特許へ繋いでほしい」


 オリバーは胸を張ると大声で返事をした。


「承知しました!」

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