30. オリバーの活躍(前編)
オリバーはグレイブのデータを分析しているとあることに気がついた。
それは同じ効果を持つ魔石でも効果付与の効率、親和率に違いがあることだ。魔石の質とは別に違う条件付けが出来るようだ。
オリバーは何度も目の前のページをクリックしながら見比べる。
(魔石の質のグレードはあまり変わらないはずなんだけどな)
ニューメタル部門ではここ数年、グレイブの包丁が王室で使われるようになったのをきっかけに新たな部品に使える素材の質の向上に力を入れている。
この10年ほどの記録では記載項目を共通にしているので、データの比較がしやすくなった。
それでも父とグレイブの記録に大きな違いがあったのが気になるのだ。
父の魔石の記録のほうが数値が良い。グレイブと何が違うのだろう。
見比べているとオリバーは父の記録のあるところを見た。
(これは火山地帯に近い魔山で採れたものか⋯⋯グレイブさんのは分からないが、産地の違いなのかな? ⋯⋯質のグレードが同じなのに親和率がこんなに違うなんて⋯⋯)
オリバーは自分の直感を基に数値に開きのある記録を出来るだけ集めて分析し始めた。
何日か経つと、その数値に開きがある記録が集まった。
父の記録から火山に近い魔山で取れることで有名な魔石の記録が2つあった。
そこで注目したのがグレイブのにあった日付だ。
グレイブの記録は12月と9月に行われているが数値の開きはない。
だが、父の記録は数値に開きがあった。
(何が違うんだ?)
それに対して平野で取れる魔石には差があまりなかった。
(もしかすると効果が出やすい月があるのかもしれない)
オリバーは試検日のカレンダーを見る。何月かと質に関係性は見当たらない。
満月、新月も関係ない。
記録の集計に戻る。万年雪の降る雪山が有名な魔石がある。産地が違う可能性はあるが記録を比較してみる。
父の記録にも残っている。そしてグレイブの記録にもあった。
グレイブが行っている試検の方が数値が良かった。記録を読み込む。
(2月に何があるんだ?)
項目を1つずつ目を通していく。追記項目にあることが書かれている。
“試検の前日、エアコンが壊れていた。試検を行った時の温度を記載する”
(エアコンが壊れていた、つまり試検を行うまでは2月の真冬で冷凍庫みたいだった)
エアコン
冷凍庫
真冬
産地が氷山⋯⋯
(まさか⋯⋯)
オリバーはグレイブの姿を探す。今日はデスクで作業している。
「グレイブさん、今日は試検室を使いますか?」
「いや、今日は使わないな。使ってもいいよ」
「分かりました。そしたら試検室は立入禁止にします」
グレイブは顔を上げた。
「へっ?」
オリバーは“立入禁止”と大きく書かれた紙を4階の試検室のドアに貼った。
中へと入るとある魔石を探す。
2つ探すと1つは懐にしまった。そして部屋のエアコンのスイッチを切った。
オリバーはグレイブの元へ戻ってくると魔石を見せた。グレイブはきょとんとした顔をオリバーに向けてきた。
「この魔石を持ち帰ってもいいですか? 明日また持ってくるので」
「⋯⋯あぁ⋯⋯いいよ?」
オリバーはいつもスピアがするようににっこりと笑顔を見せた。
家に帰る時は懐に入れていたので、拳銃でも持っているような怪しさではないかとオリバーは警戒した。
玄関のドアに手をかけた。
「オリバー!」
オリバーは背中に声を掛けられ変な声が出た。背中全体がぞぞぞっと鳥肌が立った。思わず左手を服の上から魔石を握った。
肩をすくめながらオリバーは後ろへ振り向くと、目を大きくしているスピアが首を傾げていた。そしてスピアの視線はオリバーの顔からオリバーの左手へと移動した。
「何拾ってきたの? それとも卵?」
スピアは動物だと勘違いしているようだ。オリバーは家の中へとスピアを促す。そしてリビングまで行くと、懐に右手を入れて魔石を取り出した。
スピアは初めて見る物のようにじっと魔石を観察している。そしてオリバーの顔を見た。
「何の魔石かしら?」
「これは火山地帯が産地で有名な魔石なんだ⋯⋯」
そしてオリバーは今日会社で見比べていた記録の話とそこから浮かび上がった仮説を話した。それを聞くとスピアは肩の力を抜いて口を緩めた。
「びっくりした⋯⋯まさか魔石を飼うのかと思ってしまったわ」
「さすがに俺でも魔石が生きていないことは分かっているよ」
そしてスピアの提案でファスナー付きのプラスチックバッグに入れて熱湯の中に入れた。オリバーは魔石が気になるようだ。
それを見てスピアが嬉しそうに頬杖をついてオリバーを見ている。オリバーは何か言いたそうな顔でスピアを見ている。
「ふふっ、最近すごく生き生きとして楽しそうね。こっちまで嬉しくなっちゃう」
「スピア、グレイブさんはこの人生は一度きりしかないんだって言うんだ。だから自分はやりたいことを全力でやるんだって。俺もそれを聞いて全力で取り組み始めたんだ。するとね⋯⋯たまに報われる」
スピアはオリバーの手をそっと握った。
「グレイブさんに感謝しなきゃね。今度会ってみたいわ。あなたを骨抜きにした会社の先輩に」
スピアは少し悔しそうにオリバーにウインクをしてくる。
(やっとスピアに正面から顔を向けることが出来た気がする⋯⋯もう怖がることはない)
オリバーは自分の手に乗せたスピアの手を反対の手で覆う。そしてオリバーは熱のこもった視線をスピアへ向けた。
「ここにスピアがいるから全力で試せるんだ」
オリバーは顔をスピアに近づける。スピアも目を伏せがちに顔を近づけた。そしてゆっくりと唇を重ねたのだった。




